トップインタビュー 大野喜久郎

大野喜久郎

医学部長
脳神経機能外科学分野教授
女性研究者支援対策会議運営委員

先生の座右の銘がありましたら教えて下さい。

特にありません。ただ、若い人には【臨床医には、「自他の経験に学ぶ」「足で稼ぐ」「転んでもただでは起きない】が必要です」と言っています。

「足で稼ぐ」とは、色々考えるよりも実際にベッドサイドに行き、患者さんのところで実学を学ぶ、ということです。

「転んでもただでは起きない」とは何事にもチャレンジし、失敗してもそこから学んで次に生かすこと。このような向上心が研究者にとって大事なのではないでしょうか。

先生ご自身のWLBはどのようなご様子ですか?

私には何も言う資格はありません。自分の生活に関しては全く無視してこれまでやってきました。最近になって日曜日には体を休めたり、講演原稿や論文の執筆をするなど、自分の時間を持つようにしていますが、気づいた頃には家には2人だけという状況になってしまいました。自分自身は後悔していませんが、家族や親に大きな迷惑をかけていたと思います。

臨床をやっていると、自分の思い通りに時間が取れないことも多いですし、WLBを取りにくい仕事であることは確かです。ただ趣味と実益を兼ねて、通勤の際に毎日1万歩歩くようにはしています。そのために一つ手前や一つ向こうの駅で下車し、歩くようにしています。特にこれといった趣味はありませんが、強いて言えば映画観賞でしょうね。

少子高齢化時代の女性研究者の役割についてお考えをお聞かせ下さい。

日本は物質資源のない国であり、人的資源を活用して科学立国として生きるべきであると思います。日本の科学研究の社会ではまだまだ女性研究者が少なく、世界一流の科学研究立国にするには、日本をあるいは世界をリードする女性医師を含めた女性研究者を育てることが一つの目標となります。

私の専門の脳神経外科の分野のことを紹介しますと、現在、女性脳神経外科医は日本全体では3%前後とまだ少数ではありますが、30年前のことを考えると確実に時代は変わっています。私のところでは、もうすぐ、女性医師の割合が同門の10%近くになりそうです。そう遠くない将来、女性脳神経外科医と意識することのない時代が来ることが予想されます。

2020年までに女性研究者比率を20%にするのにどんなことを実行しておられますか?

優秀で情熱ある女性研究者(臨床医も含めて)が継続して働けるような環境整備が必要です。学内に保育園も設置されたので、病院においても基礎研究の分野でも、希望する期間正規雇用での実質的な短時間勤務を導入することではないかと思います。そのためには裁量労働制下における給与体系の変更が学内措置で可能であることが前提となります。この方策が可能であれば、本学における勤務医不足も基礎研究者不足もある程度改善されることが期待できます。

具体的には、正規雇用での勤務体制を9時〜15時や13時〜17時など時間で区切り、「ワークシェア」が出来ればいいと思います。特に臨床をやっている女性は、出産等で一度職場を離れると戻りにくい現状がありますから、育児や介護で忙しいときは、そのような勤務体系で働けるといいと思います。フルタイムでなくても現場とつながっていることで、様々な情報や状況を把握できます。

外科の技術においては、男女間でのスキルの差はありません。むしろ持続力や丁寧さが要求されますから、非常に女性向きと言えると思います。また女性は思いやりや想像力がありますから、外科に女性が多くなれば、患者さんへの思いやりの様子が変わってくるでしょう。医療の世界のみならず、女性が様々な分野で増えて行けば世界が平和になると思います。

女性研究者へのメッセージをいただけますか?

当脳神経外科においても、女性医師が病棟で中心になって活動しており、また、当分野で本学の博士課程を修了し、評価の高い研究論文を基に誇れる賞を受賞し、卒業後著名な研究施設で活躍している女性研究者が2名います。生物学的に女性と男性に違いがあるのは事実ですが、研究能力や医学の技術取得には男女間に差があるはずはありません。女性の社会進出を阻んでいるのは、日本社会の環境が最も大きな要因の一つと思われますが、研究や医療という分野では比較的少ないと考えられますので、女性研究者の皆さんには、ぜひ研究を楽しく、長く続けて頂きたいと思います。

それには意識改革を進めて、女性が働きやすく、また仕事を続けていきやすいシステム作りが必要です。一方で、男性社会も同じように、かなり無理して働いているのも事実です。「女性にやさしい職場」は、「男性にもやさしい職場」のはずですから、ぜひそんな職場が増えて行って欲しいですね。

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