トップインタビュー 北嶋繁孝

北嶋繁孝

難治疾患研究所長
遺伝生化分野教授
女性研究者支援対策会議運営委員

先生の座右の銘を教えて下さい。

「至誠」です。阿川弘之氏の書物で知りましたが、海軍兵学校の「五省」の一番目に国への忠誠という意味で出てきます。人間性を高め、自分の仕事環境、生活環境を作り、そこで自分の力を発揮していくためにも、「至誠」であることは必要だと思っています。私は、自分自身や周りに対して誠実であったかと問いかけるようにしていますが、実際は出来ていないので努力目標というべきでしょうか。五省の残りの4つも参考になりますので是非、書物やインターネットで探してみてください。

先生ご自身のWLBはどのようなご様子ですか?

大学院修了後すぐにアメリカに留学しました。研究生活は勿論ハードワークでしたが、土日のない日本での生活に比べ自分で休みを決められるアメリカ生活は楽でした。「土曜日は何をすればいいの?」というわけで、WLBで悩むことはなかったし家族でよく旅行をしました。帰国し大学に勤めるようになっても、私自身、WLBで悩むことはなかったように思います。ただ、一人娘との時間をもっと大切にしていたらよかったと反省していますし、さらに重要なことは妻の側からの評価ですが、これはもっと先に下されるでしょう。きっと私の世代は、みんなそんな意識なのかもしれません。

ですが、今、子育て中の人や、これから親になる人には、是非、男性も育児や家族との時間を大切にして欲しいですね。育児を経験することは男性にもよい経験です。やはり、自分にとって一番大事なものは家族ですし、家族との時間を過ごすことで自分も成長できるはずです。社会とは、男性と女性がいて、家族という社会があり、そこからすべてが成り立っています。仕事だけではなく、家庭やライフの部分も同じように大事なのです。

一方、研究には多大な時間を要します。では、どうするか?答えは、「研究が好きであり楽しみである」状態になって、研究を生活の一部にすることだと思います。留学先で知り合った遺伝学者Francis Collinsは、数々の遺伝疾患の原因遺伝子を発見し、現在、米国NIHの所長をしていますが、彼はロックミュージシャンであり2輪車のライダーでもあってmeetingの合間に楽しんでいます。また、転写の研究領域を通じて知り合った近しい友人のJoan Conawayは夫のRonと一緒にラボを運営していますが、研究、音楽、お酒(!)でいつも楽しそうです。このように、研究を自分の楽しみとして取り入れた生活をできれば、研究の競争力を保ちながらメリハリのある時間の使い方を工夫し、家族との触れ合いを大切にする時間もきっとできる。結果、満足できるWLBが出来上がるのではないでしょうか。

少子高齢化の時代ですが、この時代における女性研究者の役割について、先生のお考えをお知らせください。

社会において、女性の活用が強調されています。生命科学の研究では、重いものを持ったりといった体力的条件は必要ありません。むしろ、自然や生物、社会、環境に対する温かい思いやりと配慮、そして情熱が第一ですので、生物学、生命科学、医学研究はむしろ女性に適した職業だと思っています。また、科学技術研究が国民の税金で賄われていることを考えると、男性と女性の参加比率は50対50のevenであるべきと考えられます。つまり、女性研究者の役割は十分すぎるほどにあって、女性が貢献できる研究環境は整備されつつあると思いますので、女性の方も自分が貢献できる場を積極的に求めていく権利があります。これを加速させ実現させるのは、第一に、そのことを理解し支える上司の意識改革です。幸い、本プログラムを通して本学の意識も高まってきましたので、その道筋は整ってきていると思います。

一方、実際の研究では、男性と女性の差はなく女性研究者も一人の研究者としての“技”と“智慧”で勝負すべきです。もちろん、女性には妊娠・出産・育児が伴いますから、その点の配慮は社会、組織の責任です。私の研究室には、女性学生が半分ほど所属していますが、みな熱心ですし、女性の助教の方は、最近、他学の医学部講師として転任し研究を継続させています。彼女たちが研究者という職人になれるよう指導していくことが私の仕事です。

2020年までに女性研究者の比率を20%にするのにどんなことを実行していらっしゃいますか?

昨年は難研で女性の西村教授をお迎えしていますし、テニュアを目指して頑張っておられる若手の女性研究者もおられます。難研では、公募の際には、女性の方の応募を促すことを必須としていますし、今後は女性優先ポストの公募や研究経費の支援もあり得るでしょう。繰り返しますが、女性も男性と同じようにキャリアのチャンスを得るべきですし、指導者からの評価も等しく得るべきです。そのために、2020年までに比率を20%に上げるという数値目標はあることですから、ぜひたくさんの若手の女性研究者に応募して頂き、頑張ってもらいたいです。

女性研究者に向けて、メッセージをいただけますか?

研究者は「職人」だと思っています。つまり、性別に関係なく研究者としての職人になって場数を踏むことが大事です。研究は「やってなんぼ」ですので、競争は激しいですが、自分の好きな研究領域を見つけてそれを大事に育てて、どんどん挑戦して、男女とも等しくキャリアアップのチャンスを得て欲しい。今もこれからも、女性に期待し育成する環境が整ってきていると信じています。

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