生理学実習説明書

    第 1 部
  1. 実習用塩類溶液
  2. 神経筋標本
  3. 電 極
  4. 電気刺激装置
  5. 増幅器
  6. 陰極線オシロスコ−プ
  7. 変位計
  8. テスタ−
第 2 部 実習1.電気緊張

実習2.強さ・時間曲線

実習3.筋の静止膜電位

実習4.蛙皮の静止電位

実習5.神経の活動電位

実習6.終板電位

実習7.筋の収縮曲線

実習8.筋の興奮収縮連関

   付録:カエル神経筋標本の作り方


第1部

§1.実習用塩類溶液

(A) 生理的塩類溶液  生理的塩類溶液は、動物から取り出した標本を浸すためのものである。したがって、 組成および浸透圧は各動物の細胞外液に似せてある。各種生理的塩類溶液の組成を表1 に示す。数字は溶液100ml 中の物質の量(g)である。カッコ内の順に成分を溶かす。 表1. 生理的塩類溶液の組成
リンゲル液
(カエル用)
リンゲル・ロック液
(ネコ・ウサギ用)
ハリベルト液
(ザリガニ用)
NaCl         (1)
KCl (3)
NaHCO3 (5)
CaCl2 (2)
Glucose
MgCl2 (4)
0.65
0.02
0.02
0.025
─
─
0.92
0.042
0.01〜0.03
0.018
0.1〜0.26
─
1.2
0.04
0.02
0.15
─
0.025



(B) 等張液
 溶液の浸透圧は氷点降下度に比例し、氷点降下度は溶質の量に比例する。体液と等張
の溶液を作るには、体液と同じ氷点降下度(カエルでは、−0.4C)の液を作ればよ
い。幾つかの溶質についてその濃度と氷点降下度を表2に示す。



表2. 溶質濃度と氷点降下度
溶液100ml 中の溶質の量(g) 氷点降下度℃
NaCl0.50
1.01
-0.30
-0.59
KCl0.50
1.00
-0.23
-0.46
CaCl20.50
1.01
-0.22
-0.44
Sucrose6.13
7.18
-0.35
-0.42
(C) 特定イオンの量を変える
 カエル用リンゲル液の特定イオンの組成を変える例を表3から5に示す。表のA液と
B液の混合比を変えることで、組成を変える。混合比を変えても浸透圧は変化しない。
( )内の数字は溶液100ml 中の物質の量(g)である。


表3. NaCl を Sucrose と置き換える例
A液B液
NaCl
KCl
CaCl2
NaHCO3
KHCO3
Sucrose
111  mM/l (0.65 )
2.5 (0.02 )
2.3 (0.025)
2.4 (0.02 )
0 (0 )
0 (0 )
  0  mM/l (0    )
0 (0 )
2.3 (0.025)
0 (0 )
2.5 (0.025)
193 (6.6 )


表4. Na を K と置き換える例
 
A液B液
NaCl
KCl
CaCl2
NaHCO3
KHCO3
  0  mM/l (0    )
111 (0.83 )
2.3 (0.025)
0 (0 )
2.4 (0.024)
111  mM/l (0.65 )
0 (0 )
2.3 (0.025)
2.4 (0.02 )
0 (0 )


表5. Cl を SO4, Sucrose と置き換える例
A液(正常 Ringer)B液
NaCl
KCl
CaCl2
NaHCO3
─
111  mM/l  (0.65 )
2.5 (0.02 )
2.3 (0.025)
2.4 (0.02 )
─
Na2SO4
K2SO4
CaSO4
NaHCO3
Sucrose
 55   mM/l  (0.78 )
1.25 (0.022)
2.3 (0.03 )
2.4 (0.02 )
85 (2.9 )



(D) 浸透圧を変える
 溶液の浸透圧を変える例を表6と7に示す。表の左右の液を混合して各種浸透圧溶液
を作る。( )内の数字は、溶液100ml 中の物質の量(g)を示す。1T、3Tは等
張、3倍高張液である。


表6. 高張 NaClで浸透圧を変える例(NaCl濃度は変る)
1T3T
NaCl
KCl
CaCl2
NaHCO3
111  mM/l  (0.65 )
2.5 (0.02 )
2.3 (0.025)
2.4 (0.02 )
352  mM/l  (2.07 )
2.5 (0.02 )
2.3 (0.025)
2.4 (0.02 )


表7. 高張 Sucrose で浸透圧を変える例(電解質濃度は不変)
1T3T
NaCl
KCl
CaCl2
NaHCO3
Sucrose
111  mM/l  (0.65 )
2.5 (0.02 )
2.3 (0.025)
2.4 (0.02 )
0 (0 )
111  mM/l  (0.65 )
2.5 (0.02 )
2.3 (0.025)
2.4 (0.02 )
373.9 (12.8 )



§2.神経筋標本

 神経筋標本は、骨格筋とそれを支配する神経を生体から取り出したものである。カエ ルの坐骨神経(N. ischiadicus)と腓腹筋(M. gastrocnemius)から成る標本、坐骨神 経と縫工筋(M.sartorius)から成る標本などがよく使用される。これら標本の作り方 は、ビデオテ−プに収めてあるのでそれを参考にして作る。

§3.電極

 生体から電気現象を記録したり、生体に電流を流す際に、生体と電気装置とが接する 部分を電極という。多種の電極のうちから使用目的によって適当なものを選ぶ。代表的 な電極を以下に述べる。 (A) 亜鉛−硫酸亜鉛電極(図1)  不分極電極のひとつである。刺激あるいは、記録用電極として用いる。電気抵抗は 数 KΩ である。分極とは、電気回路のどこかでイオンの集積が起き、起電力が生ずる ことである。分極の最も生じやすい所は金属と溶液との接触面である。分極は非常に 気まぐれな現象で、その時々で程度が違うので、これがあると一定した結果が得られな い。分極は常に電流の流れを阻止するような方向に起きる。不分極電極は、この分極が 殆ど生じないように考案されている。 <図1> (B) 銀−塩化銀電極  不分極電極のひとつである。銀の表面に塩化銀をメッキしてある。 (C) ガラス管微小電極 ガラス管を細く引き伸ばして先端の直径を1μm 以下にし、管内に電解質溶液を詰め た電極。3M-KCl を詰めた直流抵抗10MΩ 前後のものが好んで用いられる。細胞内 に刺入して使用することもできる。

§4.電気刺激装置

 電気刺激装置は、生体に電流を流し刺激するための装置である。本実習では、次のよ うなものを用いる。 (A) 電気ピンセット  Cu と Zn をピンセット状にはり合わせたものである。Cu と Zn との間に約0.8 Vの電位差がある。神経筋標本の神経を刺激し神経損傷の有無を調べるために用いる。図 2に使用法を示す。神経を縛った糸(b)を普通のピンセットでつまみ、神経を電気ピンセ ット(a)に触れさせる。神経に触れた時、筋の収縮が起きれば、神経が切れていないこと が確かめられる。電気ピンセットで神経をつまんではいけない。 <図2> (B) コンデンサ離電を利用した刺激装置  コンデンサに蓄えられた電荷が、抵抗を介して離電するとき、回路に、指数関数的な 経過で減少する電流が流れる(図3)。この電流で神経、筋を刺激する装置である。流 れる電流の大きさが、最初の 1/e になるまでの時間を時定数と呼ぶ。時定数は、コン デンサの容量値と抵抗値を掛けた値である。回路の容量値を C(μF)、抵抗値を R(KΩ)とすると時定数は C×R (msec)になる。したがって、容量、抵抗の値を 変えることによって時定数を変え、刺激の時間経過を変えることができる。 <図3> (C) 電子管、半導体を利用した刺激装置  刺激矩形波の強さ(intensity)、極性(polarity)、持続時間(duration)、繰り 返し頻度(frequency)等を任意に変えることができる装置である。また、同期用出力 端子から同期出力パルスが出ており、これでオシロスコ−プの掃引を起動させること ができる。刺激が記録用増幅器に混入するのをできるだけ小さくするため、刺激回路 の出力をア−スから浮かしてある。このための回路をアイソレ−タと言う。

§5. 増幅器

(A) 直流増幅器と交流増幅器  増幅できる周波数帯域が、直流を含むか否かによって直流又は交流増幅器に分ける。 生体用交流増幅器は高い増幅度を必要とする。この目的を達するため、何段も増幅を行 う。隣りの段との結合は、普通、図4のようにコンデンサ Cと抵抗 R を用いる。こ のため、CR 結合増幅器と呼ばれる。CR 結合増幅器は交流増幅器である。 <図4> (B) CR 結合増幅器と直流増幅器の周波数応答  CR 結合増幅器へ大きさ一定の正弦波入力信号を加え、その周波数のみを変化させ ると、中等度の周波数では一定の増幅度を示すが、周波数の低域でも高域でも増幅度 は減少する(図5左)。増幅度は(出力信号の振幅)/(入力信号の振幅)で表わす。 低域で増幅度が低下する周波数は図4のC と R の積(時定数)で決まる。低域で増 幅度が3dB 低下する(最大時の約70%となる)周波数を低域遮断周波数(f� 砲� いう。f� 瓧�/(2πCR)の関係がある。C を μF で R を KΩ で表わすと f�� は KHz となる。一方、高域の限界は高域カット用コンデンサを含む回路の時定 数で決まる。したがって、信号を増幅するとき、その信号がどんな周波数成分を持つ かを考えて、増幅周波数帯域を選ぶ。パネルのつまみでこの周波数帯域を選ぶことが できる増幅器もある。このようにして、不要な雑音から信号を分離する。  直流増幅器は低域でも増幅度が低下しない(図5右)。この点が交流増幅器と異な る。このため、直流およびゆっくりした信号を観察する時に用いる。 <図5> (C) 前置増幅器  小さな入力信号を扱う増幅器を一般に前置増幅器(pre-amplifer)という。 Signal-Noise ratio(S/N比)を良くするために素子は低雑音のものを使い、その配 置にも工夫をこらしている。前置増幅器の最大許容入力電圧は比較的小さい。この電 圧を越すと増幅素子が飽和し増幅できなくなる。したがって、装置の使用に先立って 、飽和レベルの値を説明書で確かめる。また、このレベルを大幅に越す電圧を加える と入力素子が壊れるので注意を要する。  微小電極を使う場合、電極自身の抵抗が高い(2MΩ〜100MΩ)ので、入力抵抗 の非常に高い(〜1000MΩ)前置増幅器を必要とする。入力抵抗が低いと、測定電 圧は実際の値より小となる。入力抵抗を大きくするために真空管方式ではカソ−ドホ ロア(カソ−ドから出力を取り出す)回路、FET(電解効果トランジスタ)ではソ −スホロア回路を用いる。  小さな信号を増幅する時、しばしば商用交流が増幅器の入力に混入し、信号が観察で きなくなることがある。商用交流は東日本では50Hz である。20msec 周期の雑音の 殆どはこれである。混入は容量を介して起きる場合が多い。これを防ぐために記録部位 をシ−ルドしア−スと結ぶ。  小さな入力信号を扱うとき、しばしばプッシュプル型(差動型)増幅器が用いられ る。これは入力段が共通のカソ−ド(又はエミッタ)抵抗をもつ2つの真空管(トラン ジスタ)から成る増幅器である。2つのグリッド(ベ−ス)に信号が入るとき、信号の 位相が反対のときは信号が増幅されるが、同相のときは強い負帰還がかかり増幅度は0 となる。このため、周囲の温度の変化による電位変動、供給電圧の変化、商用交流の混 入など同相で入るノイズが打ち消される。  記録信号の振幅・期間を知るために、振幅・期間の判っている波形を予め増幅器に加 え、この信号の出力波形を調べておく。この信号を校正信号といい、校正信号を出す装 置を校正器という。校正信号と未知の記録信号とを比較し、後者の振幅・期間を知るこ とができる。

§6.陰極線(ブラウン管)オシロスコ−プ(Cathode Ray Oscilloscope: CRO)

 陰極線オシロスコ−プは入力電圧が時間と共にどのように変化するかを調べるのに使 用される。この装置は、電子銃から発射された電子ビ−ムを電場変化に応じて動かすも のである。電子はほとんど慣性を持たないから早い変化に追随できるという大きな利点 がある。  入力信号は垂直増幅器で増幅されたのち、垂直偏向板に加えられる。ブラウン管の電 子銃から発射された電子ビ−ムはこの偏向板にかかる電圧によってY軸方向に変位され る。したがってブラウン管の蛍光面上でスポットが上下に振れる。この信号が時間と共 にどのように変化するかを示すためには、蛍光面上のスポットを等速で水平方向に動か さなければならない。また、一回の水平掃引が終わったとき、スポットを始めの位置に 速かに戻さなければならない。このために、のこぎり波を発生させ、水平増幅器で増幅 し、ブラウン管の水平偏向板に加える。更に同期回路によって蛍光面上のスポット掃引 開始時点を調節する。このように CRO に同期回路が付いたものをシンクロスコ−プ という(図6)。オシロスコ−プの画面に描かれた波形は速やかに消失する。これに対 し、波形を保持し続ける機能を持ったオシロスコ−プもある(蓄積型オシロスコ−プ)。 <図6>

§7.変位計

 生体の出す信号は、電気信号のみではない。例えば筋は長さ、張力に関する信号も出 す。これらをオシロスコ−プなどで観察するためには、電気信号に変換しなければなら ない。変位の変換器(トランスジュ−サ−)にストレンゲ−ジ(抵抗線歪計)がある。 ゲ−ジの電気抵抗は、外部から与えられた歪みで変化する。したがって一定の電圧をか けておけばゲ−ジを流れる電流はオ−ムの法則に従って変化する。これを増幅してオシ ロスコ−フ゜で観察すれば、歪みの程度が判る。図7にストレンゲ−ジを用いた回路の 一例を示す。 <図7>

§8.テスタ−

 1つの可動線輪型メ−タである。整流器、各種抵抗と乾電池を組み合わせ、スイッチ を切り替えることによって電流、電圧、抵抗計として働くようにした計器である。  交流電圧・電流の測定では、テスタ−棒の極性は問わない。50〜300Hz の正弦 波電圧・電流の実効値を示す。電圧・電流が不明なときは高い電圧・電流レンジから 次第に下げて測定する。  直流電圧の測定では、極性に注意する。極性不明のときは先ず高い電圧レンジで極性 を確かめる。  直流電流の測定では、負荷と直列に電流計を入れる。過大な電流を流すとメータのコ イルが破損する。直流電圧測定と同様、極性・電流レンジに注意する。  抵抗の測定では、先ず、テスタ−棒の両端をショ−トしたとき0Ω になるように零 調整可変抵抗を調節する。生物が抵抗計を接続した回路内に入っているとき、テスタ− 内の電池の起電力によって電流が流れ、これが生物への刺激となることがある。また、 回路内に起電力がある状態で抵抗を測ってはいけない。その起電力によってテスタ−の 電流計に大電流が流れ、電流計を破損することがある。 参考図書(医学部図書館にある)   日本生理学会編  生理学実習書         南江堂  昭和52・58年   須田 勇他    生理学研究法 医学書院 昭和50年   本川 弘一    医学生物学 電気的実験法 南山堂  昭和43年   Bures, I. 他   Electrophysiological Methods in Biological Research.Academic Press. 1967 Weast, R. C. CRC Handbook of Chemistry and Physics. CRC Press, Inc. (各種の物理・化学定数、係数を調べるのによい。) もくじへもどる

第2部

実習1.電気緊張

〔目 的〕  電流が神経繊維付近を流れるとき、一部は形質膜を横切って細胞内に入り、再び細胞 外に出る。このため、膜電位が変化し、形質膜の興奮性が変化する。この状態を電気緊 張(electrotonus)がかかっているという。形質膜で電流の吸込口(sink:膜を横切っ て電流が細胞内に入るところ)は陽極電気緊張、湧き出し口(source)は陰極電気緊張 の状態にあるという。この電気緊張を使って神経における興奮の発生原理を理解する。 〔方 法〕  実験装置を図8に示す。N・M はカエルの坐骨神経−腓腹筋標本、S1、S2 は刺激 装置につないだ銀電極、e1、e2 は不分極電極、右上は一定の電流を神経に流すため の装置である。S1 が負になるようにする。電気緊張は不分極電極 e1、e2 に流す電 流によって作る。任意の強さの電気緊張をかけるために電圧(E)を操作する。R は 100KΩ 以上の抵抗で e1、e2 間の組織抵抗に比して十分大であるから、組織を流 れる電流はこれらの抵抗と電圧(E)によって定まる。  先ず電気緊張をかけないで、S1−S2 間刺激によって生じる筋収縮を指標として神 経繊維興奮の閾値を決める。次に、電気緊張をかけて閾値を求める。両閾値の違いから 興奮性変化を求める。神経筋標本が乾燥しないよう注意して実験を行う。刺激装置から 出る刺激波形は持続期間4ms の矩形波である。 <図8> 〔実習例〕  ○電気緊張をかけることによって閾値が変わることを確かめる。  ○電気緊張の極性、強さ、期間の各々が閾値に及ぼす効果を調べる。  ○電気緊張をかける場所が閾値に及ぼす効果を調べる。

実習2.強さ・時間曲線

〔目 的〕  興奮性膜は、強い刺激を用いると短期間で興奮する。弱い刺激では、興奮が生じるま でに長い期間を要する。この関係を量的に表したものが強さ−時間曲線であり、時値で ある。この実習では、上の関係を確かめ、この関係に関与する因子を調べる。 〔方 法〕  脱脂綿にリンゲル液を浸し、図9Aのように置く。カエルの神経筋標本(腓腹筋)を 作り、神経を隔絶橋(insulator bridge)にまたがらせ綿の上におく。各々の綿に不分 極電極 e1、e2 を当てる。とりあえず、筋側の電極を陰極とする。  刺激波形として矩形波又は指数関数的に減少する波形のいずれかを用いる。後者の波 形を使うとき、刺激時間を表す指標として時定数(第1部§4.B参照)を用いる。  コンデンサ離電を利用して指数関数的に減少する刺激波形を作る装置を図9Bに示 す。この装置では SW2 は通常閉、SW1 は開いている。先ず、SW1 を閉じるた め、SW1 と書いてあるボタン式マイクロスイッチを押す。電圧 E は、R と R2 で 分圧され、R2 の両端に電圧 V が生じる。               R2        V=E × ────── R+R2 この V によって C は閉じてある SW2 を介して充電される。  次に SW2 を開く(スイッチ SW2 を押す)。続いて SW1 を開く。このとき C に充電されていた電気が R1 と R2 を通じて離電し、R1 の両端に電圧が発生 する。この電圧の時間経過は、R1>>R2 のとき t − ──── CR1 Vs = V × e となる。この電圧が装置から出力される。電極と直列に100KΩ 以上の高抵抗を入 れ、神経を流れる電流が生体組織の抵抗変化によって影響されないようにする。 容量 C を一定とし、R を加減し、筋収縮を指標にして閾値の電圧 V0 (又は電 流 I0)と、その時の時定数 CR1 を求める。次に別の C について同様な操作を 繰り返すことによって V0 (I0)を決める。ゥかくして時定数 CR1 と V0 の関 係を求める。基電圧(又は基電流)を求めるには回路から C を除き、平流刺激を行 う。このとき電流の方向が離電電流と逆向きになるので刺激の極性を変えて行う。この 実験によって得られた V0−CR1 曲線のグラフで、基電圧(基電流)の2倍に対応す る時定数を容量性時値という。 <図9>  Hoorweg の式(平電流を用いた場合の Weiss の式に対応するコンデンサ−の離電電 流を用いた場合の式) b V = a + ──── (a,b は定数) CR1 の適否を調べる。す早く時値を求めるには基電圧を求め、その値の2倍を V として E・R2 V = ────── R+R2 に代入して R をこの値に固定しておき、C を変え筋収縮を指標として閾刺激となる C の値を求める。このときの CR1 が容量性時値である。神経筋標本を乾燥させぬよ う注意して実験を行なう。電池を短絡させぬように取扱うこと。刺激の波形をブラウン 管であらかじめ観察しておくこと。 〔実習例〕  ○強さ−時間(または時定数)曲線を求める。これから時値(または容量性時値)を 求める。  ○興奮が発生する部位はどこか調べる。  ○興奮発生部位の外液イオン組成が基電圧(基電流)、時値に及ぼす効果を調べる。 隔絶橋のかわりに図10に示す装置を用いて外液組成を変える。外液入れに溶液を満た し、その中に神経を浸す。刺激時は溶液を取る。 <図10>  ○興奮発生部位に電気緊張をかけ基電圧(基電流)、時値の変化を調べる。  ○矩形波刺激で求めた時値は容量性時値の約0.37倍になるという。本当かどうか を調べ、何故そうなるかを考える。

実習3.筋の静止膜電位

〔目 的〕  骨格筋は形質膜を境にして細胞の内外に約80mV の電位差が存在する。この膜電位 発生のイオン機構を明らかにする。 〔方 法〕  カエルの縫工筋を周囲の筋から分離し、恥骨端および脛骨端の腱を出来るだけ付けて 筋を摘出する。取り出した筋は10分程リンゲル液に浸して細胞外液を十分に置換した 後、裏面を上にして筋固定箱に虫ピンで両端を固定する。裏面の方が筋膜が薄いから微 小電極が入りやすい。  装置の概要を図11に示す。e1 は3M-KCl をつめたガラス微小電極で先端の外径 は、1μm 以下である。e2 は不関電極で、Ag-AgCl 電極である。微小電極の抵抗 は非常に高い(10MΩ以上)ので、入力インピ−ダンスの高い FET のソ−スフォ ロア回路を用いた前置増幅器を介して膜電位を電子管式電圧計に導く。  毎回の実験開始前に、前置増幅器のゼロ点調節を行う。入力端子 a、b 間を短絡 し、CAL(校正)/COMP(補償)スイッチを CAL 側に倒す。この時、電圧計の針が目盛 りゼロを示すようゼロ点調節つまみをいじる。一度調節したらこのつまみは以後動かさ ない。 <図11>  次に電極抵抗を測定する。入力端子 a、b をそれぞれ微小電極、不関電極に接続す る。微小電極先端を筋固定箱の液に浸し、CAL/COMP スイッチを COMP 側に倒す。この 時、電圧計の針がゼロを示すように COMP つまみをいじる。次に、CAL ボタンを押し、 校正回路内に標準電圧(100mV)を発生させ、これに対応する電圧計のふれ(S)を 読む。次に、電極をつけたままさらに入力(a)と接地(G)間に抵抗値の分かった高 抵抗(20MΩ)を接続し、再び標準電圧100mV を発生させる。この時の針のふれ (P)を読む。求める抵抗値 Re(MΩ)は、         20   P ───── = ──    Re+20 S から求まる。S は通常100mV であるから、P がいくらのとき電極抵抗はどれだけ になるかをグラフに目盛っておけば、いちいち計算する手間がはぶける。電極抵抗が実 験中に大きく変化した場合は先端が詰まったり、破損した可能性がある。したがって、 電極抵抗は必要に応じて調べるとよい。  これらのことを終えた後、膜電位を測定する。入力(a)と接地(G)間に入れた抵 抗を取り外す。この時、電圧計の針が目盛りゼロを指していることを確かめる。もしず れているときは、COMPつまみをいじってゼロにする。マイクロマニプレ−タ−を動かし 電極を筋細胞に近づけ、刺入する。すると指針が突然、マイナス方向に振れる。この「 ふれ」が筋の膜電位である。膜電位は、電極先端がわずかに膜を横切って細胞内に入る と現れる。深く刺すと膜が大きく損傷され、膜電位は時間と共に急速に減少する。した がって、筋細胞が電極によって変形するほど押さえつけられている場合は、細胞膜が大 きく損傷していることが多い。実体顕微鏡下でゆっくりと注意深く電極を進めること。 標本作製時に損傷を受けると筋細胞の膜電位は、一般に小さくなるので、丁寧に標本を 作る必要がある。 〔実習例〕  ○筋細胞内に電極を刺入し膜電位を測定する。この電位の時間経過を調べる。  ○上のことを、種々の筋細胞で行う。  ○細胞外液のイオン組成を変化させ、膜電位に及ぼす影響を調べる。  ○〔K〕iの値として124mM/�,鬚箸� Nernst の式からの計算値と比較してみよ。 RT 〔K〕o E = ────・ln ──── F 〔K〕i F:ファラデ−常数 23060 kcal/Vg当量 R:気体常数 1.98 kcal/K潺mol T:絶対温度 ln A=2.3×log10A  ○Goldman-Hodgkin-Katz の式の PK:PNa:PCl をどのように定めれば実測値とよく一 致するかを調べよ。式は次の通りである。 RT      PK〔K〕o +PNa〔Na〕o+PCl〔Cl〕i E = ─── ・ln (─────────────────────) F    PK〔K〕i +PNa〔Na〕i+PCl〔Cl〕o 〔K〕i,〔Na〕i,〔Cl〕i の値は各々 124, 3.6, 1.5mM/�� とする。(Conw- ay,1957) 〔参考文献〕 Adrian, R. H. The effect of internal and external potassium concentration on the membrane potential of frog muscle. J. Physiol., 133: 631-658, 1956.

実習4.蛙皮の静止電位

〔目 的〕  蛙皮は積極的にエネルギ−を費して体外の液中からイオンを取り込む。このような物 質の輸送様式を能動輸送という。その結果、蛙皮では皮を介して電位差が生じる。この 実習では、この電位差を指標として、取り込まれるイオンの種類と取り込み機構につい て調べる。 <図12> 〔方 法〕  蛙の背面(又は腹面)の皮膚をできるだけ広く切り取り、ガラス円錐の下端に皮膚の 外面が下になるようにして木綿糸で縛り固定する。この際できるだけ正常の皮膚張力を 保つようにする。円錐内にリンゲル液を入れ、ビ−カ−のリンゲル液中に保持する。円 錐内外の液面の高さは、等しくする。円錐内リンゲル液からは、直接不分極電極 e1 を、一方、ビ−カ−内の溶液からは KCl 寒天橋と不分極電極 e2 を介して、potent- iometer(電位差計)に導く(図12)。寒天橋は0.1M-KCl 溶液に2%寒天を溶解 させて作ったものである。  potentiometer は Poggendorff の補償法を応用して、起電力(Electromotive force: E.M.F.)を直読出来るようにした装置である。この装置を用いると、被測定回路に電流 を流さないでその E.M.F. を測ることができる。したがって、測定操作によって被測定 E.M.F. に影響を与えることがない。図13にその回路を示す。 <図13>  測定を始める前に R3 の調整を次の順で行う。この調整後 R1,R2 の目盛りが正 しい電位を示すことになる。  �‥展札好ぅ奪舛鯑�れる。  �■�1,R2 を動かし目盛りが450mV の値になるようにする。  ��EX 端子に基準電圧450mV を加える。基準電圧発生装置は別に用意してある。  �ぃ咤�2 を押すと検流計の針が振れる。すぐにボタンを離す。R3 を左右いずれかの 方向に動かし、再びボタンを押す。このようにして、ボタンを押しても針が振れないよ うに R3 を調節する。 R3 の調整を行った後に測定を行う。その順序は、  �。釘� 端子に測定しようとする起電力を加える。  �■咤�2 ボタンを押すと検流計の針が振れる。すぐにボタンを離し、R1 を左右いず れかに回す。再び、ボタンを押し、針の振れを調べる。このようにして、針の振れが最 小になる R1 の位置を求める。ボタンを押している間標本に電流が流れる。これを出 来るだけ避けるためにボタンは早く離す。  ��次に、同様の方法で R2 について、SW2 ボタンを押しても指針が全く振れない位 置を求める。  �い海了� R1、R2 の目盛りの読みが求める電位の値である。蛙皮電流は普通、皮膚 の中を外側から内側に向かう。すなわち、内向性(ingoing)であり、生じる電位は表面 が負(−)、裏面が(+)である。 〔実習例〕  ○外液をリンゲル液とし、静止電位の大きさが時間と共にどう変化するかを観察す る。(最初の7分は1分毎に、その後は3分毎に測定を行う。)  ○外液の濃度を2、4、8、16、‥‥‥‥ 倍と純水で薄めてゆき電位変化を調べ る。  ○外液の特定イオン濃度を変化させ、どのイオンの濃度変化で電位がよく影響される かを調べる。  ○浸透圧の影響についても調べる。 〔参考文献〕 Koeford-Johnsen, V. and Ussing, H. H. The nature of the frog skin potential. Acta physiol. Scand., 42: 298-308, 1958.

実習5.神経の活動電位

〔目 的〕  カエルの坐骨神経に発生する活動電位を分析し神経興奮の発生と伝導の性質を理解す る。 〔方 法〕  カエルの座骨神経(N)を取り出し標本箱の電極にのせる。細い神経は引っ張られる と簡単に切れるので、標本作製時に神経を引っ張らないように注意する。神経周囲の結 合組織をよく取り除きながら神経を取り出す。実験装置を図14に示す。S1、S2 の 刺激電極を刺激装置の出力端子に、e1、e2、e3、ゥゥゥの導出電極を増幅器の入力 端子につなぐ。刺激装置はその出力の一部をオシロスコ−プのトリガ−回路に与え、刺 激と掃引を同期させる。適当な頻度で刺激しながら、次第に刺激を強めると、刺激 artifact に続く活動電位が観察される。 <図14> 〔実習例〕  ○e1 の当たっている部分の神経を挫滅すると記録波形がどう変化するかを調べる。 この変化の起きる理由を考える。  ○記録波形の各々の峰が、刺激の強さ、期間、繰り返し頻度、極性を変えるとどう変 化するかを調べる。  ○記録電極の位置を変えると波形がどう変化するか調べる。(e1 を固定して e2 を移動させる、e1−e2 間を一定にして移動させる)。  ○各峰の伝導速度を求める。  ○種々の方法で興奮の伝導を遮断し、各峰に及ぼす効果を比較する。遮断の仕方に は、局所麻酔剤、KCl 液塗布、圧迫、冷却などがある。

実習6.終板電位

〔目 的〕  神経繊維と骨格筋とのシナプス結合部を終板(end-plate)という。この実験では、 終板電位(end-plate potential: epp)を用いてシナプスの性質を調べる。 〔方 法〕  カエル坐骨神経−縫工筋標本を用いる。標本作製法はビデオテ−プに収められてい る。  標本を図15に示すように装置に取り付ける。電位の測定を行わないときはAの部分 ごと下のビ−カ−のリンゲル液中に浸し、標本の乾燥を防ぐ。神経筋伝達を遮断すると きは、液中にクラ−レを入れる。(濃度は、10-6 g/ml 附近)。 <図15> 〔実習例〕  ○クラ−レ投与前に発生する電位波形は記録電極 e の位置を変えるとどう変化する か調べる。  ○この電位波形は2発刺激の間隔を変えるとどう変化するか調べる。  ○クラ−レを作用させ電位波形が時間と共にどう変化するかを調べる。  ○クラーレ作用後、神経刺激による筋収縮が起きなくなると、単相性の電位が表れ る。この電位が記録電極の位置を変えるとどう変化するか、2発刺激の間隔を変えると どうなるかを調べ、クラ−レ作用前の電位と比較する。  ○繰り返し刺激を与えた後の電位の変化を調べる。  ○クラ−レ作用後でも筋の直接刺激によって筋収縮が起きることを確かめる。  ○種々の薬物がクラ−レ作用後の電位に及ぼす影響を調べる。Ca、Mg など。

実習7.筋の収縮曲線

〔目 的〕  骨格筋の等尺性収縮における収縮特性を明らかにする。 〔方 法〕  カエルの神経−腓腹筋標本(骨付の標本)を用いる。標本を図16に示すように装置 に取り付ける。a は細い金属線である。筋を刺激するためにここに電流を流す。b は 張力を電位に変換するトランスジュ−サ−である。この出力を増幅器で増幅したのちブ ラウン管に導く。b または c を上下させることで静止張力を調節する。筋と神経を 乾燥させぬよう注意して実験を行う。 <図16> 〔実習例〕  ○刺激の強さと発生する張力の関係を調べる。  ○神経を刺激し、神経を介し筋の収縮を起こさせて、刺激の強さと発生する張力の関 係を調べる。  ○筋の長さと静止張力・活動張力の関係を調べる。  ○2発刺激の間隔を変えると張力はどのように変わるか。  ○繰り返し刺激の頻度を変えると張力はどのように変わるか。  ○温度を変えると発生する張力がどう変わるか。

実習8.筋の興奮収縮連関

〔目 的〕  骨格筋の収縮は、普通、筋細胞膜の活動電位が引金となって起きる。膜の興奮から筋 の収縮に至る過程を理解する。特殊な条件のもとでこの興奮−収縮連関が切断されるこ とを確かめる。 〔方 法〕  縫工筋を用いる。縫工筋の両端をそれぞれ糸で縛る。この糸で輪を作り、図17のよ うにセットする。筋の一方の糸の輪をゲ−ジ変位計のセルフィンに、他方の輪を標本箱 のフックに引っかける。筋は刺激を行わない時は溶液に浸す。刺激時は液を取る。 <図17> 〔実習例〕  ○刺激の強さと活動電位、張力との関係を調べる。さらに神経筋伝達をクラ−レで遮 断後、同様のことを調べる。  ○外液浸透圧を等張のままで、K イオンの濃度を変え活動電位、張力に及ぼす影響 を調べる。  ○温度が活動電位、張力に及ぼす影響を調べる。  ○溶液の浸透圧が活動電位、張力に及ぼす影響を調べる。 〔参考文献〕 Gordon, A.M. and Godt, R.F. Some effects of hypertonic solution on contraction and excitation coupling in frog skeletal muscles. J. gen. physiol., 55: 254-275, 1970. もくじへもどる