付録:カエル神経筋標本の作り方

 神経筋標本の作成は、 I.道具の準備    II.標本摘出の為の前準備   III.神経筋標本摘出 a.坐骨神経−腓腹筋標本摘出と検査 b.坐骨神経−縫工筋標本摘出と検査   の作業からなる。 I. 道具の準備 (1)道具を準備する   解剖皿、中型はさみ、先の尖ったピンセット、脊髄破壊用針金、ペーパータオ ル、リンゲル液を入れた解剖用シャーレ(底にコルクが貼ってある)、先の尖っ たはさみ(眼科用せん刃)、木綿糸、電気ピンセット、虫ピンを用意する。  II.標本摘出の為の前準備 (3)腹部の坐骨神経を露出する   カエルを解剖皿の上に仰向けに置く。下腹部をピンセットでつまみ、つまんだ  部分の下の皮膚と前腹壁を正中線に直交するようにはさみで横切開する。はさみ  で切り口を両側腹部へ広げる。皮を上に反転し、さらに内臓も反転させる。直腸  が見えたらピンセットでつまみ、切断する。直腸と共に後腹膜をピンセットでつ  まみ、はさみで後腹壁から切り剥していく。後腹膜を反転していくと、その下に  坐骨神経が露出する。 <図2> (4)上肢と内臓を切り離す   後腹膜を充分上まで反転したら、カエルの下肢を持って逆さにする。下に垂れ  下がった内臓を上肢ごと切り離す。図のように脊柱を水平に持つと、尾骨部が突  出する。神経に触れないように注意する。この突出部をはさみで切り取る。この  時、深く切りすぎて神経まで切らないこと。こうしておくと皮がむきやすくなる  うえ、尾骨部を切り取ることにより、カエル後腹壁に穴が開く(この穴は後の作  業で使う)。 <図3> (5)皮を剥ぐ   皮はすべりやすいので、皮と脊柱をそれぞれ紙ではさんでつまみ、皮をむく。  皮をむいたら、標本を直ちに解剖用シャーレのリンゲル液の中に浸す。    <図4> (6)大腿部での坐骨神経の分離   標本をうつぶせにして虫ピンでシャーレに固定する。大腿二頭筋と半膜様筋の  間を図のように広げて固定する。図中の点線に沿ってはさみで切開する。筋と筋  の間のうすい膜をはさみで切り、境界を分けて行くと、切開部の底に坐骨神経が  見えてくる。切開部を開いてピンでとめる。筋と筋の境界を切り分けるとき、背  中の方にまで切れめを入れ、尾骨部を切り取った時に出来た穴を広げる。この穴  はのちに坐骨神経を後腹壁の背側へ通す時に使う。坐骨神経が見えたら、その周  囲の血管や結合組織を神経から切り離す  (注意)坐骨神経−縫工筋標本を作る場合は、梨状筋の下で坐骨神経から枝分か  れしている、縫工筋へいく細い神経を切らないようにする。 <図5>   前準備が終わったら、標本の取り出しに入る。標本には坐骨神経−腓腹筋標本  と坐骨神経−縫工筋標本がある。 III-a.坐骨神経−腓腹筋標本摘出 (7)腹部での坐骨神経の分離   標本を背位に固定する。周囲の血管や結合組織を坐骨神経から切り離す。坐骨 神経と後腹壁の間の結合組織を切る。この時、決してピンセットで直接神経をつ まんではいけない。坐骨神経起始部と後腹壁の間に糸を通し、できるだけ脊椎よ りできつく縛る。糸の端は、ピンセットでつまめる程度を残して短く切る。以後 はこの糸をつまんで作業する。縛った部分より脊椎側で神経を切る。坐骨神経を 軽く持ち上げて、神経と後腹壁の間の結合組織を切っていく。神経をひっぱりす ぎないように注意する。尾骨部に開けた穴の所まで坐骨神経を切り離していく。 <図6> 神経の切り離しが終わったら、標本をシャーレのコルクからはずす。坐骨神経 の先端を、尾骨部に開けた穴を通して背面へまわす。標本を腹位に固定する。大 腿部の下腿三頭筋と半膜様筋を上下に広げて虫ピンでとめる。引き続き坐骨神経 を軽く持ち上げながら、遠位側へ向けて膝関節付近の分枝部にいたるまで、大腿 部から切り離していく。 <図7> (8)腓腹筋の分離   アキレス腱より少し上部で、腓腹筋と下腿骨の間にはさみの一方の刃を差し込  む。刃を骨に沿ってすべらせながらアキレス腱をはずしていく。足底部まで腱を  はずしたら切断する。アキレス腱をピンセットでつまんで持ち上げ、腓腹筋と下  の筋肉との間の薄い膜を近位側へ向けて切っていく。こうして腓腹筋を膝関節ま  で切り離していく。膝関節まで筋を分離したら、関節部の骨から腓腹筋を切り離  す。筋を持ち上げながらはさみを骨に押し付けるようにして切る。腓腹筋につな  がっている神経を切らないように注意する。腓腹筋へつながっている坐骨神経の  枝分かれを残し、下腿へのびているもう一方の枝分かれを切断する。    (注意)「筋の収縮曲線」の班では、腓腹筋の近位側に骨をつけたままの標本を 作る。はさみで下腿を膝関節のやや下方で切断する。同様に、大腿を関節のやや 上方で切断する。下腿骨大腿骨合わせて10mmくらいの長さでよい。 <図8> (9)標本の検査と標本の持ち方   神経に損傷がないか電気ピンセットで調べる。糸をつまんで坐骨神経をリンゲ  ル液から出し、神経に電気ピンセットをあてる。腓腹筋に収縮が見られれば大丈  夫。標本を持ち上げるときは、神経を腓腹筋の上に乗せてからアキレス腱をつま  んで持ち上げること。   これで坐骨神経−腓腹筋標本の出来上り。 <図9> III-b.坐骨神経−腓腹筋標本摘出 (10)余分な筋肉を取り除く  標本を仰向けにする。縫工筋を確認する。図の斜線部の筋を取り除き、坐骨神 経から縫工筋へいく細い神経の枝分かれを露出させる。筋の遠位側の腱を切り、 ピンセットで 筋を反転させながら慎重に下の筋から切り離していく。縫工筋へ いく神経は大変細いので、神経の近くを切る時は注意する。股関節付近まではが したら、筋を切り離す。標本をうつ伏せにして、神経の走行を確認する。 <図10>   (11)腹部での坐骨神経の分離  標本を仰向けに固定する。坐骨神経の周囲にある血管や結合組織の残りを取り 除いて、神経がよく見えるようにする。坐骨神経と後腹壁の間の結合組織を切る 。この時、決してピンセットで直接神経をつまんではいけない。糸を神経の下に 通し、できるだけ高い位置できつく縛る。糸の端は、ピンセットでつまめる程度 を残して短く切る。以後はこの糸をつまんで神経を操作する。縛った部分より上 で神経を切る。坐骨神経を軽く持ち上げて、周りの結合組織から神経を切り離し ていく。神経をひっぱりすぎないように注意する。腹部での神経の切り離しが終 わったら、標本をシャーレのコルクからはずす。 <図11> 神経を、尾骨部に開けた穴から背面へ出す。標本をうつ伏せに固定する。坐骨 神経はでん部で二つに分かれる。この枝分かれの所まで、神経を筋肉から切り離 していく。縫工筋へ行く枝分かれを残し、もう一方の下腿へ行く太い方の枝分か れを切る。縫工筋へむけて、神経を下の筋肉から切り離して行く。無理にきれい に離そうとしないで、神経に血管や筋肉をつけたまま切り離してかまわない。そ うすることによって、細い神経を保護する。神経をひっぱりすぎないように注意 る。縫工筋に入り込む寸前まで神経を切り離したら、再び標本を仰向けにする。 <図12> (12)縫工筋の分離   縫工筋の膝関節側の腱をピンセットでつまみ、腱の下にはさみを通す。はさみ  を末梢に向けてすべらせて、腱をできるだけ長く取り出した後、切断する。腱を  ピンセットでつまんで軽く持ち上げて、縫工筋と下の筋との間の薄い膜を少しづ  つはさみで切っていく。神経が入り込んでいる部分では少し下の筋肉をつけて切  り離す。こうして縫工筋を他の筋から分離していく。坐骨結合にいたるまで筋を  分離したら、縫工筋を大腿から切り離す。この時、はさみの側面を股関節に押し  つけるようにして、できるだけ縫工筋に腱をつけて切り離す。 <図13> (13)標本の検査と標本の持ち方   神経に損傷がないか電気ピンセットで調べる。糸をつまんで神経をリンゲル液  から出し、神経に電気ピンセットをあて、縫工筋に収縮が見られれば大丈夫。標  本を持ち上げるときは、必ず神経と腱を一緒につまんで持ち上げること。   これで、坐骨神経−縫工筋標本の出来上り。 <図14>