13.視覚:網膜の光受容機序

 全ては光刺激が網膜に受容されることから始まる。

§1.網膜の機能解剖

 網膜は約200μmの薄い層である。10層に分かれる(図14-1)それを構成して いる細胞は、 <図14−1> (イ)視細胞(桿体cone, 錐体rod)。光を受容する細胞であり、外節(outer segment)、結合部、内節(inner segment)、シナプス結節(synaptic pedicle)よりなる。外接内部は形質膜が折り重なってできた層板体 (rhabdmere)が数百枚存在する。この円板に感光色素が含まれている。 桿体1個に感光色素である rhodopsin が1017〜109分子あるという。 内節は細くのびたシナプス結節に移行する。 (ロ)双極細胞(bipolar cell)。光受容細胞とシナプスでつながっている。 一方神経節細胞の樹状突起、または細胞体とシナプスを作る。 (ハ)神経節細胞(ganglion cell)。大型の多極細胞樹状突起で双極細胞と シナプスを作る。一方軸索は視神経乳頭に向い、視神経となる。網膜内 線維は哺乳類では無髄である。以上の他に横の連絡をしているものがある。 (ニ)水平細胞(horizontal cell)。受容細胞と双極細胞の樹状突起を結合し ている。 (ホ)無軸索細胞(amacrine cell)。この細胞は双極細胞と双極細胞、双極細胞と 神経節細胞を結合している。 (ヘ)Muller 細胞。外限界膜から内限界膜までの大きな細胞。 光受容に関して、錐体は明所視(photopic vision)を司さどり、桿体は暗所視 (scotopic vision)を司さどるとされている。これを光受容に関する二元説という。

§2.視覚の光化学的基礎

 網膜に光が照射されると、第一に光受容細胞の感光色素が光量子を吸収し、 分解する。すなわち、感光色素 → opsin(蛋白質)+発色団となる。この内 で最も詳しく調べられているのが桿体に含まれている rhodopsin のそれである。  分解の過程は2つよりなる。  (イ)速い過程 Rhodopsin(吸光最大 498nm)は光を吸収すると急速に分解して metarhodopsin(吸光最大 380nm)となる。この過程が興奮と関係があると 考えられている。  (ロ)遅い過程 その後ゆっくりと過水分解して Retinol となる。これは視感覚 の調節、すなわち後述の順応と関係している。そして all-transretinol (視黄 visual yello; 387nm 最大)となり、retinol(視白 visual white; ビタミンA)まで分解する。  分解した retinol は一旦 cis 型となり rhodopsin に再合成される。ビタミンA は絶えず、血液から補給されていて、rhodopsin の再合成を容易にする。これが欠乏 すると、再合成が著しく妨げられ夜盲症(night blindness)となる。視紅の濃度が 10%下がると視感度は1/100になるという。 <図14-2> <図14−3>

§3.光刺激の波長と視感度、ロドプシンのスペクトル吸収

 これらの光学過程に対応して色々の心理現象が知られている。明るさの感覚は、 光刺激の波長が異なればそのエネルギーだけでは決まらない。  刺激光の波長と、それぞれの波長の光に対する感受性の関係を示す曲線を スペクトル視感度曲線(spectral visubility curve)という。暗順応下では 510mμ の光に対してもっとも感受性が強い。明順応下で各波長の光に対して標準 の明るさを感じるのに必要な光の強さの関係を示したものをスペクトル明度曲線 (spectral lumminosity curve)という。560mμ の光に対して、最も明るく感じる。 明暗順応によって視感度の極大が移る現象を、Purkinje 現象(Purkinje phenomenon)という。(図14-4) <図14−4> <図14−5>  ロドプシンのスペクトル吸収は、この暗所視のスペクトル視感度と同じである。 このことも暗所視の視覚過程においての光の吸収がlimiting factor として働い ていると考えられる。

§4.明暗順応(light and dark adaptation)

 また、rhodopsin の分解の遅い過程に対応して、順応という現象がある。  一般に光覚閾は明るい所にいた直後は高く、暗いところでは低い。明るい所 から暗いところに移ると、約1時間にわたって光覚閾が次第に低下する。逆の 場合は1〜2分で光覚閾が急に上昇する。このように照明の新しい水準への 網膜の漸次的適応を順応という。  明るい所から暗闇に移ったとき、時間経過による光覚閾の低下を示した曲線を 暗順応曲線(dark adaptation curve)という。  暗順応曲線は網膜の部位で異なる。網膜中心部では、明らかに暗に移って2〜 3分以内に急速に刺激閾値が低下し、5〜10分で一定値に達し、その後殆ど 変わらない。光閾は約1 log unit にさがる。網膜周辺部では、光閾の低下は 比較的ゆっくりと生じ、60分後に一定値に達する。閾値低下は、4〜5 log unit である。全眼では、始め網膜中心部の暗順応過程が現れ5〜10分後網膜 周辺部のそれが現れる。両者の過程の境に折点(Kohlrausch's kink)ができる。 第1相は錐体、第2相は桿体過程とみられている。 <図14−6>

§5.視覚過程成立の必要条件

 いま510nm の波長で視覚10秒のスポットを10ミリ秒間、中心窩から 20の位置につける。このとき350この桿体が占める面積を照射したこと になる。被験者が、視野の端の方で暗い灰色の光を感じるエネルギーを角膜の 位置で測定すると、2.1〜5.7×10-10 ergであった。510nm の波長の光では、 1個の光量子のエネルギーは(プランクの常数×振動数)であるから 2.99796×108m/s  hυ=6.65×10-29ergsec×────────── 510×10-9 =3.85×10-12erg である。従って、これは 54〜148 光量子に相当する。しかも角膜から入った光は、 吸収、反射され、網膜に達するのは 10% である。従って、350 個の桿体のどれかに 5〜14個の光量子が吸収されれば見えたと感じることになる。このとき1個の 桿体に2個の光量子が吸収される確率は0である。したがって5〜14個の桿体が、 10俟秒以内に1個ずつ光量子を吸収すれば見えたと感じることが出来る。  このように見えるための光量子の吸収の数は他の実験でも算出できる。いま、 数個の光量子きり含まないテスト・フラソンで桿体350個の範囲を照射する。 そして、光の強さをかえ、見える確率を測定する。すると、弱い光のときには 確率0、それが光の強さを増すと、だんだん増し、やがて1となる。(図14-7) <図14−7>  このとき、確率が0と1の間の中間をとるのは、純粋に物理的原因によって光に 含まれる光量子数が変動するためと考える。平均量子数aの強さで照射したとき、 その光に光量子がn個含まれる確率はポアソン分布で表され、 an・e-a f(n)= ───── n! となる。平均aの強さの光が見える確率は、光に含まれる光子数が閾値n1個以上 のときである。従って平均aの強さの光を当てたとき見える確率は、 ∞ ∞ an e-a F(a)= Σ f(n) = Σ ─────  n=n1  n=n1 n! となる。いま、n1を1,2,3ゥゥのときF(a)の曲線を描くと図14-7のように なり、n1=5−8のとき実験値とあてはまる。  この事からも350個の桿体に5−8個の光子が吸収されると見えるといえる。  結論として、見えることと、色素のmacro的退色とは関係が無い。錐体が働く ような明るい光下(光閾の106倍)でも、桿体中のロドプシンは1%しか退色 しない。

§6.明るさ(luminosity)

 視野内の300〜800nmの波長の光は人眼に適当刺激として働き、明るさ(光)の 感覚を引き起こす。 同 波長については、まず光閾(light threshold)に達す れば光があることが分かる。そのときの輝度は3×10-7 candle/m2である。 これより0.1〜1 log unit光の強さが増すと色の感覚があらわれる。光閾から色の 感覚があらわれる間を無彩間隔(achromatic interval)という。更に光りの強さ が増せば、明るい感覚を引き起こし、1000 candle/m2になるとまぶしさ(glare) の感じが生じる。  このような広い強さの光を知覚するために色々な生理機構が存在し、それが、 色々な現象を示す。第一に見られるのは、光に対するsummmation である。  光刺激の広がりが、視角20〜30'の大きさまで、また 50 msec 持続時間までは、 大きければ大きい程、時間が長ければ時間が長い程、明るく見える。 そこで、この範囲内では、同じ感覚を引き起こすとき、刺激光の強さ×面積=C である(Ricoの法則)。また、刺激光の強さ×持続時間=C出ある(Bunsen-Rosco の法則)。明るさの感覚に一番影響を及ぼすのは次に述べる眼の順応状態である。

§7.網膜の電気信号:網膜電図(Electroretinogram,ERG)

 網膜における興奮過程も電気現象を伴う。それと関連して、古くから網膜の 電気現象が調べられている。  眼球の角膜は後極に対して2−17mV正である。これを網膜の静止電位という。 この電位は眼球の位置を測定するのに利用されている(電気眼球図; electro-oculogram, EOG)。左右対象点に2つの電極を置く。眼が回転すると 角膜頂点が接近した電極が正となる。約30゜の回転に対して数100μV変化する。  このような静止電位は、眼に光をあてると、変化する。これを記録したものが、 網膜電図である。人では1つの電極を角膜表面に付着させ、他を眼の近傍の皮膚 におく。人の網膜電図は4つの電位成分を区別できる(図14-18,19)。 <図14−8> <図14−9> すなわち、  (イ)a波: 刺激開始後、1.5 msec の潜時で生じる角膜陰性(後極陽性)の 電位変動で約 10 msec 続く。薬物、機械刺激に最も抵抗大で あり、受容器電位と考えられている。  (ロ)b波: 次に生じる大きな角膜陽性(後極陰性)の変動で、200 msec 続く。暗順応眼で大。〔かつて双極細胞から発生するといわれ ていたが〕Muller細胞が主な発生源であるという。  (ハ)c波: 照射持続するときb波に続く緩やかに高まる角膜陽性の変動。 色素上皮をとると無くなる。  (ニ)d波(e波): 照射後の新しい陽性変動。d波は錐体系〔c波は桿体系〕 に特有なoff-反応であるという。

§8.早期受容器電位と遅延受容器電位

 近年、受容器からの電位を記録できるようになった。サルの中心窩の視細胞は 脈絡膜の血管から支配されている。他の部位は中心動脈で支配されているそれで 中心動脈を止めると中心窩の受容器電位のみ残る。このとき2つの電位が見られ る。(図14-10) <図14−10>  (1)早期受容器電位。潜時なしで始まり、角膜陰性。網膜を−30゜にしても、 +48Cにしてもなくならない。それで物理的変化にもとずくと考えられ ている。網膜色素変性のときなくなる。  (2)遅期受容器電位(a波)。 1-2 msec で生じ、光の持続に一致して持続。 a波に相当し、角膜陰性である。網膜の興奮に関与していると考えられる。 この電位は網膜後極、すなわち、受容細胞のある側が陽極である。従って、 細胞の過分極が予想できる。実際に細胞内記録し、色素を注入して確認さ れた受容細胞の光に対する変動は過分極である。

§9.網膜内での情報処理

 光受容細胞で受容された光りの情報は、網膜内の神経要素で変容を受け、視神経 では、神経インパルスの形にかえられ、中枢に伝えられる。  ERGの研究は網膜内での信号処理に関して余り情報を与えない。それで、 もっと直接的に各細胞から、細胞内誘導をすることが試みられた。通常の動物の 網膜の細胞は小さく、細胞内誘導が難しい。Dowling はそこで、網膜の細胞の 比較的大きなサンショウウウオのそれを使って調べた。ついで、細胞内誘導法は 色々な動物の網膜にも適用され、今日の知識が得られた。

§10.光受容器細胞の電気活動

 (イ)光受容器細胞。無脊髄動物の光受容細胞は光照射によって、他の受容器と 同様、脱分極正の受容器電位を記録することが出来る。しかし、脊髄動物の 光受容細胞は、ERGから予想されるように光刺激に対して過分極で応答する。  光受容細胞の外節には、暗闇のとき、形質膜を介して、Na+電流が外から 内に向かって、流れている。光刺激によって、形質膜のNa+透過性がなく なり、Na+ 電流がへる。これで内部はより負となる。形質膜のNa+ 透過性は、細胞内にあるCyclic GMPによって調節されているという。  (ロ)水平細胞。光照射によって過分極。時に脱分極。視細胞から双極細胞への 興奮伝達を制御している。  (ハ)双極細胞。照射中心で過分極周辺部で脱分極。反対のものもある。緩電位 のみである。ここでは照射中心と周辺で逆になる。  (ニ)アマクリン細胞。光のオン・オフ時に緩やかな脱分極。この脱分極に1-2 のスパイク電位が重畳している。  (ホ)神経節細胞。照射部位は脱分極か過分極。周辺は中心部と反対の電位変動。 脱分極にはスパイクが多量重畳している。ここでハッキリと光に応じる範囲 がきまる。 <図14−11> <図14−12> <図14−13>

§11 神経節細胞の受容野 (recpeitve field)

 網膜神経節細胞の単一ニュ−ロンのスパイク活動を細胞外記録することは比較的 やさしい。それで、これを指標にして、光に対する活動パターンがくわしく調べら れている(図14-14)。網膜神経節細胞は、上述のように真っ暗闇でもでも、たえず <図14−14> 放電している。これを自発放電という。自発放電は、光の照射で変化する。この時、 一個のニュ−ロンのが受け持つ網膜上(したがって視野上)の範囲がある。この 範囲をこのニュ−ロンの視覚性受容野という。一般に感覚系の一個のニュ−ロンが 受け持つ感覚刺激の範囲を受容野という。網膜神経節細胞(視神経)の受容野の 中心部を照射するときと、周辺部を照射する時の反応は拮抗的である。二つの 種類に分類できる。  (イ)オン−中心、オフ−周辺型ニュ−ロン(on-center, off-sorround type)。   中央部を照射する場合、光のつくとき放電し、周辺部を光射する場合は、 光射中は抑制され、光を消すとき放電するもの。  (ロ)オフ−中心、オン−周辺型ニュ−ロン(off-center, on-sorround type)。 ()と丁度逆のもの。両者共中心−周辺以降部位では光をつけたときも、 切ったときも反応する。すなわち、オン−オフ反応を示す。

§12.神経節細胞受容域の体制と辺縁対比

 神経節細胞が受容域の中心と周辺で拮抗的に体制化されていることは、網膜に 写った像を sharp にする効果がある。 <図14−15>  いま、オン中央・オフ周辺型ニュ−ロンについて考える。(図14-15)この細胞 は受容野中心部の視細胞から興奮性の影響を、周辺部から抑制性の影響を受けて いると考えられる。この抑制を側方抑制(lateral inhibition)という。  側方抑制を受けている細胞が並んでいるとき、明暗の境がこの中に出来た場合 を考える。  (イ)明るい光があたっている部位の細胞は、興奮性入力と共に抑制性入力を受け、 中等度の放電をしている。 (ロ)境に近く明るい所にある細胞は、抑制性の入力が半分だけないから、イの 場合に比較して放電の頻度大となる。 (ハ)それに反して、境に近く暗いところのニュ−ロンは明るい部分からの抑制 入力のみ受けるから、他の暗い部分に比較して放電頻度が小となる。  従って、明暗の境では、明るい所はより明るく、暗い所はより暗いように強調 される。このことが辺縁対比(border contrast)である。このような対比に 抑制機構が必要であることは、Machによって初めて提唱されたのでMach効果とも 呼ばれる。また、このようなことが生じることはカブトガニの視眼をつかって 実証されている。

§13.見える範囲−視野(visual field)

 眼前の一点を固視しているとき、同時に見える空間の範囲を視野という。 視野計(perimeter)で計る。(図14-17)  視野内の各点はその点と眼の節点を結ぶ方向線(directive line)と節点と 中心窩を結ぶ視軸のなす視角の大きさとその方向によってあらわす。  視角1゜の白色視標による単眼視野は上、内側が眼瞼、鼻根により制限されて 狭くなり、外、下、内、上側に視角100゜,70゜,60゜,60゜の楕円を している。有色視標による視野は、青、赤、黄、緑の順にせまくなる。(図14-16)  両眼が同一点を固視したときの視野を両眼視野(binocular visual field) という。人では両眼のそれぞれの視野は大部分重なり合う。 <図14−16> <図14−17>

§14.空間の弁別能−視力

 空間における2点の方向差を見分けられる能力を視力という。これは、二点を 弁別できる最小視角を測定し、その逆数であらわす。視角1’の方向差を見分け る視力を1とする。  実用上、視力はLandolt環を用いて計る。最大直径7.5mm線の幅1.5mm とし、その欠部を5mの距離から見たとき1’となるようにし、それを弁別できた とき視力1とする。照度は200lux以下とする。  視力は種々な条件下で異なる。 (イ)照度。中等度の照射範囲では、照度Iのとき、視力は、 V = k log I の関係がある。しかし、視標が極度に明るいときはかえって視力が低下する。 (ロ)部位。明るいところでは中心窩で最も視力が高く、網膜周辺に行くに従って 急速に低下する。視線方向で1の視力は視角5゜の所で0.3となり、20゜ で0.1となる。暗い所では中心窩の視力が低くなり、視角10゜の部位が 比較的高い視力をもつ。(図14-18) <図14−18>  このことは、中心窩での視覚受容細胞は錐体細胞のみであり、周辺部では錐体 の密度が低下し、かん体密度が大となることと対応している。(図14-19)視角 10−20゜のとき、かん体密度は最大となる。()Mariotteの盲点(blind spot)。 視神経乳頭部には受容細胞がないから、この部位を刺激しても光感覚はない。 視野中心から外方に15゜、下に3゜を中心に縦7゜横5゜の楕円形の範囲である。 <図14−19>

§15.時間的弁別能−ちらつき刺激

 刺激光を点滅させるとその頻度が低いときはちらつき(flicker)を感じる。 頻度がある程度以上になると持続光と同様に一様な明るさを感じる。ちらつきが 融合して、一様な明るさを感じる限界の頻度を臨界融合頻度(critical fusion frequency; CFF)という。 CFF以上で明滅する光は、明期間をa、暗期間をb,断続光の強さをIとしたとき、  a ────I     a+b の強さの持続光と同じ感覚を与える(Talbotの法則)。 CFFは次の条件によって、変化する。  (イ)明るさ。照射光の強さをIとしたとき、 CFF ∝ logI の関係がある。これをFreey-Porterの法則という。CFFは普通の光で 10〜20Hzであるが、断続光が明るいときには、50Hzに達する。  (ロ)視野の部位。CFFと光の強さの関係は網膜の部位で異なる。中心視野では、 この関係は広い範囲にわたって一本の直線となる。周辺視野では、折れ曲 がりをもった2本の部分に分かれる。これも2種類の光受容細胞の機能を 反映していると考えられる。  断続光の頻度をまして、それが融合する前、約10Hzの頻度の時は、断続光の 絶対的強さより、明るく見える(Bartley効果)。 <図14−20> <図14−21>

§16.差別、対比、残像

 通常視覚刺激では、ある明るさの背景に図形がある。このような場合は、両者 間の明るさの光の強さが弱い時は、ΔI/Iの値が大となる。これは、Iの外に 雑音IDが存在するとし、    ΔI ───── = K   I+ID とすれば、    ΔI ID ──── = K(1+───)    I  I となり、Iが小のときはIDの影響が現れ、この大きさが大となることで説明 されている。  明るさの異なる刺激面が並んで存在するとき、接続する境界で明るさや、暗さ をより強く感じる。この現象を同時対比(simultaneous contrst)または、 Mach現象という(前述)。  このような対比は空間的ばかりでなく、同一強度の光刺激でも、これより強い 光を見た後は暗く感じ、これより弱い光を見た後は明るく感じるという時間的な 現象もある。これを継時対比(successive contrast)という。  更に光を取り去った後も光の感覚が生じるとき残像という。明の刺激に対して、 明の残像があるとき陽性残像(positive after-image)、明の後に暗の残像が あるとき陰性残像(negatibe after-image)という。

§17.眼の機能のまとめ

 我々の眼は見える空間(視野)を細分して、その部分、部分をそれぞれの 神経細胞に分担させている。  眼は不完全な光学系である。それにもかかわらず、光刺激に含まれた情報を なるべく低下させず、それを中枢神経系に送る役目をしている。  第一にこのような眼の役割は明るさの情報に関して行われている。つまり、 正確にあつかえる範囲を広くしている。正確さというのは決して絶対的なもの ではない。上述のように我々の目が取り扱える輝度は10log unit である。 しかし、その情報をつたえるべき神経インパルスの上限は103/secである。 このような広い範囲の dynamic range に対応するのに目では3つの機能が 存在する。  (イ)受容記において一般的な性質での指数圧縮である。Stevens の法則で いうならば、 E=K(I−ID)n   n≒0.3 といわれる。  (ロ)桿体、錐体による取り扱う輝度の分担である。暗所視−周辺視−黒白− 物の存在は、桿体過程といわれ、明所視−中心視−色覚−形は、錐体に よって行われることは前に述べた。  (ハ)それぞれの視細胞の輝度による感度調節。含まれている感光色素の量を 増減することによって、光化学反応の substrate をへらす。色素量が 10%減ると視感度は100分の1になるという。  第二の役目として、像のぼけをなおし、空間的な分解能を良くする (Mach 効果)  第三の役目として、時間的分解能を増す。 Bartley 効果に現れる beaking 効果である。  第四これに色覚が加わると、更に空間的時間的分解能を高める。(後述)。