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Tokyo Medical and Dental University Graduate School
Department of Immunotherapeutics


2018年8月31日〜9月2日 第5回日本HTLV-1学会学術集会を主催 しました

教 授 神奈木 真理
〒113-8519 東京都文京区湯島1丁目5番45号
東京医科歯科大学 M&Dタワー17F
大学院医歯学総合研究科 生体環境応答学系
感染応答学講座 免疫治療学分野
TEL: 03-5803-5798
FAX: 03-5803-0235








 ウイルスの持続感染で生じる悪 性腫瘍・免疫不全・自己免疫・炎症等の多彩な病態には個体の免疫 応答が大きく影響する。本講座では、この病態発生機序と免疫のかかわりを解明し、疾患の理解に とどまらず、疾患の解決を目指す免疫治療方法の可能性を追求する。分野としては、免疫学・ ウイ ルス学・分子生物学にまたがり、基礎と臨床の中間に位置する。
  ヒトT細胞白血病ウイルス1型 (HTLV-I、human T-cell leukemia virus type I/human T-lymphotropic virus type 1)は、血液腫瘍性疾患である成人T細胞白血病(ATL、adult T-cell leukemia/lymphoma)、神経の炎症性脱随疾患であるHAM/TSP (HTLV-1-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis)、その他の疾患を引き起こす。このような多彩な病態はウイルスそのものの病原性だけで説明し得るものではなく、宿主の免疫応答が 密接に関わっている。我々はこれまでに、臨床検体や動物モデルを用いた解析で、HTLV- 1に対する細胞傷害性T細 胞(CTL)応答がATLでは減弱、HAM/TSPでは亢進していること(38, 45, 46)、CTLの主要標的抗原Taxを標的としたワクチンが抗腫瘍効果を持つことを立証し た(10, 12-15)。さらに、造血幹細胞移植後に寛解したATL患者の一部でTax特異的CTL応答 が活性化する現象を見いだし、CTLが認識するTax蛋白内の主要なエピトープのアミノ配 列を 同定した(19, 29)。これらのエピトープは日本人に多いHLA-A24, A2, A11のそれぞれに対応するCTLの主要認識エピトープであるため、既にCTLの検出技術に実用化され、抗腫瘍ワクチン抗原としても有用である。
 我々はまた、感染経路と宿主免疫の関係についても解析を行い、母乳感染のような経口感染 では、 HTLV-1に対する免疫寛容が成立しプロウイルス量の増加を許すことを動物モデルで示し、疫 学的なATL危険因子である垂直感染と高プロウイルス量の関係に免疫学的根拠を与えた (17,33)。これらの研究成果は、宿主のHTLV-1特異的なT細胞応答が、HTLV-1感染による発癌の抑止力となっており、感染経路その他の要因 で低下したHTLV-1特異的T細 胞応答を活性化させることによりATLのリスクを軽減できる可能性を示している(57)。
これまでの基礎研究成果に基づき、ATL免 疫療法(抗腫瘍ワクチン)として、Tax特 異的CTLエピトープ部位のペプチ ドを添加した自家樹状細胞ワクチンを開発した(54)。 現在、九州がんセンターとの共同で、化学療法後のATL患 者に対してTaxペプチド添加樹状 細胞ワクチン療法の臨床試験施行しており、パイロットスタディでは3例中2例が4年以上生 存、続く第I相試験においても良好 な経過が得られている(54, 60)。今後さらにこれを 発展させ、発症予防を視野にいれたワクチン開発を目指したい。
 これらの獲得免疫の研究と平行して、長年未解明であった生体 内でのHTLV-1発現抑制機序、
AZT-IFNα治療の作用機序、ATL細胞の恒常的NFκB活性化機序 に関して自然免疫の 関与を示す先駆的な知見を得た(2, 11, 50, 53)。
これは、これまで信じられてきた生体内のHTLV-1遺伝子発現に ついての概念を打ち破るものである。さらに、ウイル ス側には疾患特異的な違いが無いにも拘らず、HTLV-1が 腫瘍性疾患であるATLと 炎症性疾患であるHAM/TSPを 引き起こす機序も長年の謎であったが、我々はIL10-STAT3-IRF4シ グナル経路が腫瘍化のスイッチとなっていることを見いだし、宿主免疫によ る微小環境が疾患発現に重要な役割を担うことを示した(59)。これら一連の発見 は、宿主の獲得免 疫に加えて自然免疫が HTLV-1感染細胞のコントロールに関わり三つ 巴の関係にあることを示している。
 また、AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)の原因ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、human immunodeficiency virus type 1)に関する研究では、増田准教授がHIV-1のintegraseがウイルス遺伝子の組み込み段階だけでなく逆転写や核内輸送段階にも必須の役割を果た すことを見いだし(11, 26)その活性部位および宿主側因子であるGemin2/SIP1を同定した(32, 34, 42, 47)。これらは新たな抗HIV-1治療薬の開発に資するものである。これらの有用な研究の多くは 大学院生が研究の担い手として編み上げてきたものであり、今後も優秀な大学院 生の研究参加 を期待する。




●  成人T細胞白血病(ATL)の発症予防・治療を目的とする免疫療法(抗腫瘍ワクチ ン)の開発
●  HTLV-1感染による疾患の発症機序と発症リスクに関する研究
●  ウイルス持続感染における自然免疫の役割に関する研究
●  HIV-1インテグラーゼを中心とするHIV複製の分子機構の研究
●  HIV-1感染防御およびHIV複製抑制に関する免疫研究



【 これまでの研究成果/業績 】


ATL, HTLV-1に関する研究成果>******************

(1) ATLに対する腫瘍ワクチン療法 『ATLに対するTax特異的T細胞応答賦活化ペプチドパルス樹状細胞を用いた新規免疫療法』の第I相臨床試験を開始しました。
Suehiro, Y., Hasegawa, A., et al. Br J Haematol. 169(3):356-67,
2015.
Kannagi, M., Hasegawa, A., et al. Cancer Sci. 2019. in press.
これまで蓄積してきた免疫研究成果を踏まえ、東京医科歯科大 学、九州がんセンター、九州大学間の共同研究で、ATLに対する免疫療法(腫瘍ワクチン)を開発し、2012年から 臨床試験を開始した。本臨床試験は、体外で成熟させた患者自身の樹状細胞に、HTLV-1 Taxのオリゴペプチドを抗原として添加しワクチン接種するものである。使用ペプチドのアミノ酸配列は、我々が同定したHTLV-1 Tax特異的CD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL)の主要標的エピトープ 配列であり、HLA-A2, HLA-A24, HLA-A11のいずれかを持つ症例に適応可能である。(臨床試験本部:九州がんセンター 血液内科、試験実施機関:東京医科歯科大学 免疫治療学分野、血液内科、九州大学 遺伝子細胞治療部)。

(2)
Taxペ プチドパルス樹状細胞ワクチンが、HTLV-1経口感染モデルにおいてHTLV-1プ ロウイルス量を低下させることを立証しました。

Ando S., Hasegawa A., et al. J Immunol. 198(3):1210-1219, 2017. 学位論文

T細 胞応答を示すHTLV-1経口 感染ラットに対して、CTLエ ピトープ部位のTaxペ プチドパルス樹状細胞ワクチンを投与したところ、Tax特異 的CTL応答の増大 とHTLV-1プ ロウイルス量の低下が認められた。HTLV-1経口感染ラットは、ヒトHTLV-1キャ リアの免疫学的なATL危 険群のモデルであり、高プロウイルス量はATL発症リスク と考えられることから、この結果はこのワクチン療法がATL発 症予防に も有効である可能性を示唆している。

(3)
抗炎症性サイトカインIL-10とその下流のSTAT3-IRF4の経路の活性化が、HTLV-1 感染において腫瘍化へのス イッチとなっていることを初めて明 らかにしました。
Sawada L, Nagano Y., et al. PLoS Pathog. 13(9):e1006597, 2017. 学位論文
HAM(炎症性疾患)患者由来のHTLV-1感染細胞株にIL-10シグナルが加わると増殖性 に転じ、
STAT3, IRF4の 活性化を介してATL細 胞(腫瘍性疾患)の特徴的な形質を獲得することが分かった。HTLV-1 感染において、ウイルス側 に違いが無いにも拘らず全く異なる腫瘍性疾患と炎症性疾患が起こる機序は長らく不 明であったが、細胞外微小環境によって疾患の方向性が変わる可能性を示した最初の論文 である。

(4) HTLV-1 Tax特異的CD4陽性ヘルパーT細胞の新規標的エピトープを同定し、これがCD8陽性CTLの活性化効率を増強することを明らかにしました。
Tamai Y., Hasegawa A., et al. J Immunol. 190(8):4382-92, 2013. (学位論文)
造血幹細胞移植後に寛解したATL症例から、今回はじめてHTLV-1特異的 CD4陽性ヘルパーT細胞の樹立に成功し、その標的抗原がやはりHTLV-1 Taxであったことが分かり、詳細な解析の結果、HLA-DR1に拘束される 主要認識エピトープ(13アミノ酸)を同定した。重要なことに、このヘルパー エピトープはCD8陽性Tax特異的CTLの誘導効率を格段に増加させた。今 後、テトラマーによるヘルパーT細胞の同定や、ワクチンへの応用が期待され る。


(5) ATL症例と一部の無症候HTLV-1キャリアで、HTLV-I特異的なT細胞応答不全があることが分かりました。
Takamori A., Hasegawa A., et al. Retrovirology. 8:100, 2011.  (学位論文)
Shimizu Y., et al. Cancer Sci. 100: 3, 481-489, 2009. (学位論文)
Kannagi M., et al. Frontiers Microbiol. 3:323, 2012.
未治療の慢性ATL患者ではHTLV-1 Tax特異的CTLの検出頻度が低く応答性も乏しいが、無症候HTLV-1感染者の87%ではHTLV-1 Tax特異的CTLが検出された。しかし、無症候者の中にもTax特異的 CTLが検出されない例や、検出されても応答不全を示す例が少数あり、一方サ イトメガロウイルスに対する応答性は保たれていた。以上から、無症候期にも一 部の感染者では抗HTLV-1応答が選択的に抑制 されており、ATLのリスク要因となる可能性が示唆された。


(6) 永年の謎であった生体内のHTLV-I遺 伝子発現抑制機序、AZT/IFNα療法の作用機序、ATL細胞の恒常的NFκB活性化機序への自然免疫の関与を初めて指摘しました

Kinpara, S., et al. Leukemia. 29(6):1425-1429, 2015.

Kinpara, S., et al. Retrovirology. 10: 52, 2013.

Kinpara S., et al. J. Virol. 83: 5101-5108, 2009. (学位論文)
Kannagi M., et al. Cancer Sci. 102:670-676, 2011.
末梢血から分離直後のATL細胞にはHTLV-1蛋白は検出されず、数時間の培養後急激に発現する現象が知られているが、その機 序は長らく不明であった。 我々は、HTLV-1感染細胞を上皮細胞と共培養するとウイルス発現が抑制さ れ、これがI型インターフェロンを介することを見いだした。
この所見を基 に、AZT/IFNαの併 用がTax蛋 白の翻訳抑制とp53活 性化を誘導すること、さらに、ATL細 胞のTax非 依存性のNFkB活 性化にPKRが関与することを報告した。


(7) 造血幹細胞移植後のATL患者でHTLV-1 Tax特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が活性化することを見出し、HLA-A2, A24, A11に拘束されるCTLのメジャーエピトープを同定しました。
Harashima N., et al. Cancer Res. 64(1):391-399, 2004.
Harashima N., et al. J Virol. 79(15):10088-10092, 2005.
Kannagi M., et al. Trends Microbiol. 12(7):301-352, 2004.
非感染者由来の造血幹細胞移植術を受け寛解したATL患者から、移植前の自己HTLV-1感染細胞に対するCTLの増加を認 め、これらがTax特異的CTLであることを見いだした。これらのCTLの解析から、日本人に多いHLA-A24, A2, A11に拘束される主要なCTLエピトープを同定した。これにより、末梢血から直接CTLを検出する検査ができるようになっ た。


(8)ATLの動物モデルを樹立し、Taxを標的とするDNAワクチンおよびCTLエピトープ 部位のペプチドワクチンが抗腫瘍効果を持つことを実 証しました。
Hanabuchi S., et al. J. Natl. Cancer Inst. 93(23):1775-1783, 2001.
Hanabuchi S., et al. J. Virol. 74(1):428-435, 2000.
Ohashi T., et al. J. Virol. 74(20):9610-9616, 2000.
Ohashi T., et al. J. Virol. 73(7):6031-6040, 1999.
Kannagi M., et al. Cancer Sci. 96(5):249-255, 2005.

(9) HTLV-1持続感染個体に対する再免疫が、HTLV-1特異的T細胞応答を回復させ、生 体内プロウイルス量を減少させることを動物実験で証明しまし た。
Komori K., Hasegawa, A., et al. J. Virol. 80(15):7375-7381, 2006. (学位論文)

(10) HTLV-1経口感染では、HTLV-1特異的T細胞応答が低く 生体内プロウイルス量は増加することを示しました。これにより母子感染 がATL危険因子の一つであるという疫学的所見を免疫学的に裏付けまし た。
Hasegawa A., et al. J. Virol. 77(5):2956-2963, 2003. (学位論文)
Kato H., et al. J. Virol. 72(9):7289-7293, 1998.



AIDS, HIVに関する研究成果>**********************

(1) HIV-1のインテグラーゼはウイルス粒子形成や逆転写レベルに重要な役割を しているが、この未知機能発揮に必須なアミノ酸残基と新規前駆体蛋白質構造を提示しました。
Takahata T., et al. J Virol. 91(1) pii: e02003-16, 2017.(学位論文)


(2) HIV-1mRNAの うち転写開始部位のG塩基が1個の転写産物が選 択的にウイルス粒子内に取り込まれ、逆転写反応の遂行にも重要な役割を果たすことを見いだしました。
Masuda T., et al. Sci Rep. 5:17680, 2015.



(3) HIV-1のイン テグラーゼが宿主因子SIP1/Gemin2と会合し、ウイルスの逆転写効率を増加させることを見いだしました。
Nishitsuji H., et al. PLoS One 4:e7825. 2009. (学位論文)
Masuda T., Frontiers Microbiol. 2, 210, 2011.
「組み込み」過程の触媒酵素であるインテグラーゼとその結合因子として我々が同定 した宿主因子(Gemin2)は、逆転写複合体の安定化を促進し、HIV遺伝子の 「逆転写」過程促進に必要であることを示した。本機能は、抗HIV剤開発におけ る、インテグラーゼの新規標的となりうるものと考えられた。


(4) TLR4を選択的に刺激する常在菌は、I型インターフェロン応答を介してマクロファージ のHIV-1複製を抑制することが分かりました。
Ahmed N., et al. J Gen Virol., 91: 2804-2813, 2010. (学位論文)
HIV-1感染に対して抵抗性を付与する生体内環境の候補として常在菌を想定 し、種々の常在菌のマクロファージにおけるHIV-1複製への影響を検討し た。その結果、HIV-1複製を抑制する常在菌はTLR4を選択的に刺激しI 型インターフェロンを誘導するが、それ以外はTLR2刺激効果を持つ菌である ことが分かった。


(5) HIV-1インテグレースの機能に必須なアミノ酸残基の構造への影響を特定しました。これは新たな抗HIV剤の標的抗原と位置づけられます。
Nomura Y, et al. J Biochem. 139: 753-9, 2006.
Masuda T., Frontiers Microbiol. 2: 210, 2010.


(6) HIV-1インテグレースに結合し且つHIV-1複製に必要な宿主因子を同定しました。
Hamamoto, S, et al. J Virol. 80: 5670-5677, 2006. (学位論文)

(7) HIV-1の複製抑制に効果的なshRNAの標的配列をインテグラーゼ内に見出しました。
Nishitsuji, H, et al. J Virol. 80: 7658-66, 2006. (学位論文)
Nishitsuji, H, et al. Microb. Infect. 6: 76-85, 2004. (学位論文)

(8) HIV-1インテグレースがウイルス組み込み以外にも複数のレ ベルでウイルス複製に必須の役割を果たすことを明らかにしました。
Masuda T., et al. J Virol. 69: 6687-96, 1995.
Tsurutani N., et al. J Virol. 74:795-806, 2000. (学位論文)
Ikeda T., et al. J Virol. 78:11563-73, 2004. (学位論文)


(9) CD8陽性CTLは、可溶性因子ではなく細胞接触によりHIV-1増殖を抑制し、この抑制に抗原特異性は必須でないことを示しました。
Liu H., et al. Viral Immunol. 16(3):381-393, 2003. (学位論文)
Ohashi T., et al. J Gen Virol. 80:209-216, 1999.
Kubo M., et al. J Virol. 71(10):7560-7566, 1997. (学位論文)



(1) SARS-CoV特有の蛋白のうち2種類のアクセサリー蛋白(X1, X3)が強いNFκB活性化能を持ち炎症性ケモカイ ンを誘導することを見出しました。
Kanzawa N., et al. FEBS letters. 580(30):6807-6812, 2006. (学位論文)
Obitsu S, et al. Arch. Virol. 154(9):1457-1464, 2009. (学位論文)






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