当院の高気圧酸素治療と、いわゆる「加圧カプセル」との違いについて

昨今、疲労回復やコンディショニングを謳って、1.3気圧程度までの空気加圧での、いわゆる「加圧カプセル」が多く見られています。
新聞報道でもありますように、スポーツ選手に対する加圧カプセルの使用が問題視されていますが、しかしながら当院で行っている高気圧酸素治療は、いわゆる「加圧カプセル」とは大きく異なるものであります。
当院および世界的に認められている高気圧酸素治療と、いわゆる「加圧カプセル」との違いについて医学的にかつ医療法に基づいてご説明します。

高気圧酸素治療は2絶対気圧以上かつ、1時間以上の条件下における酸素を吸入する治療

一定の効果を得るために、日本高気圧環境・潜水医学会の規定で、高気圧酸素治療は2気圧以上、1時間以上の条件下で酸素の吸入をする治療とされています。
健康保険で受診できる保険適応にもなっており、急性一酸化炭素中毒その他ガス中毒、減圧症や空気塞栓、重症の低酸素性脳機能障害などの適応症があります。
保険適応でも高気圧酸素治療は2絶対気圧以上かつ、1時間以上の条件下における酸素の吸入と決められています。
当院でのスポーツ外傷に対する高気圧酸素治療は、2.8絶対気圧、1時間の酸素吸入となります。

いわゆる「加圧カプセル」

多くの加圧カプセルは、空気にて圧力を上げ(加圧し)、およそ1.3絶対気圧まで加圧するものです。空気は酸素が約21%、窒素が約78%です。
100%酸素と比べれば、空気中の酸素はおよそ5分の1です。酸素分圧という考えがあり大気圧を1絶対気圧とすれば、大気圧中の酸素はその21%、すなわち0.21絶対気圧が酸素分圧となります。
1絶対気圧=760mmHgなので、通常の空気での酸素分圧は、760mmHg×0.21=160mmHgとなります。)

血液中の酸素含量(酸素運搬量)について

高気圧酸素治療では、血液中の酸素含有量を増加させます。血液中の酸素は、結合型酸素と溶解型酸素の総和です。(図1)

  1. 結合型酸素:血液中では、赤血球中のヘモグロビンが効率よく酸素と結合し、これを結合型酸素といいます。通常の空気ではヘモグロビンの98%-99%が既に酸素と結合(酸素飽和度)しており、酸素をその後いくら吸入しても、酸素飽和度は100%を頭打ちに増加しません。
  2. 溶解型酸素:一方、血液の液体成分である血漿自体に溶け込む酸素を、溶解型酸素といいます。溶解型酸素は酸素の圧力(さきほどの酸素分圧)に比例して溶け込みますので、酸素分圧が2倍になれば、溶解型酸素は2倍になります。しかしながら、溶解型酸素は結合型酸素に比べ少量で、大気圧では溶解型酸素0.31vol%、結合型酸素20.74vol% (vol%=mL/dL)です。

酸素分圧について

通常の空気である大気圧での酸素分圧は160mmHgです。空気中の酸素は肺(肺胞)で血液に取り込まれますが、肺胞では二酸化炭素や水蒸気があるため、肺胞での酸素分圧は約100mmHgです。(図2・表1)

(図2)

高気圧酸素治療では、酸素分圧が高まります。2.8気圧100%酸素の吸入での高気圧酸素治療では、肺胞の酸素分圧は約2068mmHgになります(760mmHg×2.8気圧-二酸化炭素・水蒸気分圧)。
この場合、通常の空気での酸素分圧より約20倍となり、約20倍の溶解型酸素となります。 一方、1.3気圧まで加圧する加圧カプセルでは、肺胞レベルでは酸素分圧が約1.5倍となります。

高気圧酸素治療と、いわゆる「加圧カプセル」との違いについて(図3・表1)

図3と表1を参照してください。

(図3)

(表1)
酸素比率 大気圧 2.8気圧での高気圧酸素 加圧カプセル(1.3気圧)
大気中酸素分圧 160 mmHg 100% 21%
肺胞酸素分圧 100 mmHg 2128mmHg 206 mmHg
結合型酸素 20.43 vol% 20.85 vol% 20.85 vol%
溶解型酸素 0.31 vol% 6.41 vol%(20.7倍) 0.45 vol%(1.5倍)
酸素含量 20.74 vol% 27.26 vol%(31.1%増) 21.30 vol%(2.7%増)
(vol%=mL/dL) (大気圧との比較) (大気圧との比較)

2.8気圧まで加圧する高気圧酸素治療では、酸素分圧が約2068mmHgとなり、右の赤線になります。結合型酸素は頭打ちですが、溶解型酸素が酸素分圧に比例して増加し、溶解型酸素は6.41vol%で、大気中と比べ20.7倍、酸素含量は31.1%増加します。

一方、1.3気圧まで空気加圧する加圧カプセルでは酸素分圧は146mmHgとなり、青線になります。
溶解型酸素は0.45vol%で大気圧での溶解型酸素0.31 vol%と比べ極めて微増であり、全体の酸素含量の増加も2.7%にとどまります。
高気圧酸素治療は2.0-2.8絶対気圧での治療であり、150mmHg程度の酸素分圧でのきわめてやわらかい環境である加圧カプセルの効果は、高気圧酸素治療とは比較になりません。

一人用の高気圧酸素治療装置もあります

加圧カプセルではなく、2絶対気圧まで加圧し、100%酸素を吸入する高気圧酸素治療装置も全国にあります。世界的に認められているもので、加圧カプセルと混同してはいけません。
日本高気圧環境・潜水医学会でも、保険適応にもなっている治療法、治療装置で、日本では約700-800の病院にあります。

○我々はスポーツ軟部外傷に対する「治療」として高気圧酸素治療を行っており、「競技時の酸素運搬能の強化」「競技コンディショニングの向上」を目的に本治療を施行していません。