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科研費基盤(A)の成果について

研究課題の詳細

研究課題名 機能分子・生体分子電着による金属の汎用的生体機能化
研究種目 JSPS科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)基盤(A)
研究課題番号 22240059
研究期間 2010年度~2014年度(5年間)
研究代表者 塙 隆夫(東京医科歯科大学)
研究分担者 野村直之(東北大学)
堤 祐介(東京医科歯科大学)
土居 壽(東京医科歯科大学)
右田 聖(山形大学)
蘆田茉希(東京医科歯科大学)
陳 鵬(東京医科歯科大学)
研究経費 総額:46930千円
2010年度:20280千円 (直接経費:15600千円, 間接経費:4680千円)
2011年度:9620千円 (直接経費:7400千円, 間接経費:2220千円)
2012年度:8580千円 (直接経費:6600千円, 間接経費:1980千円)
2013年度:3900千円 (直接経費:3000千円, 間接経費:900千円)
2014年度:4550千円 (直接経費:3500千円, 間接経費:1050千円)

研究の目的と進捗について



分子量3000のPEGを介してRGDを固定化したチタンでは
RGDを直接固定化したチタンよりも骨形成が早い

金属材料は典型的な人工材料であり、生体機能がないにも関わらず、優れた強度と靭性から依然として多くの医療用デバイスに使用され、その必要性はますます増加している。しかし、金属は人工材料であるが故に、生体適合性、生体機能性の面での課題が多い。その解決のためには、金属材料に生体機能を付与するための新たな科学と技術が必要となる。本研究では、金属表面に機能分子や生体分子を固定化する際の結合と固定化による生体機能発現のメカニズムを、表面科学的及び分子生物学的手法によって明らかにするとともに、これを一般的理論に拡張し、汎用性の高い技術とすることを目的とした。

まず始めに、材料上に吸着したタンパク質の定量を行うためには、タンパク質を材料上から剥離する技術が必要であり、この開発とこの方法によってPEG電着チタン上でタンパク質吸着が抑制されることを明らかにできた。これにより、機能分子固定化材料の性能評価を定量的に行えるようになった。また、PEG電着によって、チタンへの細菌付着及びバイオフィルム形成が抑制されることとその機構を明らかにした。さらに、血液適合性を適正に評価するために、血流までを考慮した動的血小板粘着評価を開始した。一方、PEG電着表面は摩擦形成の減少に効果があると考えられるため、PEG電着チタン同士の大気中、タンパク質含有水溶液中での摩擦係数の測定を開始した。さらに、細胞接着性ペプチドRGD及びGRGDSを電着PEG双性イオンを介して固定化した際の、PEG鎖長の影響を骨芽細胞及び線維芽細胞による評価で明らかにした。さらに、最適鎖長(分子量3000)のPEGを介してRGDを固定化したチタンでは、ウサギ頸骨に埋入した際に、骨形成量と骨密着面積が大きくなり、硬組織適合性向上に有効であることがわかった。

続いて、機能分子・生体分子の電着条件の探索を継続するとともに、電着による分子固定化のメカニズム、分子固定化材料の生体機能発現メカニズムの解明に着手した。分子固定化のメカニズムを解明するために、水溶液中で測定できる電解槽を備えたエリプソメータ-による電着PEG厚さ変化のその場測定、電気化学水晶発振微小天秤による固定化PEG量のその場測定を可能とする測定系を構築した。特に、分子固定化のメカニズムを解明するために、サイクリックボルタンメトリーによるPEG電着中の電荷移動を補足し解析を行い、機能分子電着の際に電荷の移動が起こることを明らかにした。また、片末端をアミン、他の末端をカルボキシル基で修飾した双性イオンPEG(分子量2000、3000、5000)について、線維芽細胞による細胞接着発現について検討を行った。さらに、細胞膜類似機能分子であるMPCポリマーについても金属表面への電着の可能性を検討した。その結果、電着サイトであるアミンをランダムに分子中に配置するよりも、末端に配置したほうが、電着効率が高いことが明らかとなった。MPCポリマー電着チタンは、タンパク質の吸着を抑制することを確認した。電着によりチタン表面にMPCポリマーを固定化できること、MPCポリマー電着試料においてフィブリンネットワークの形成が抑制されること、ポリマー分子量、電着条件の相違が表面特性に及ぼす影響、MPCを電着した効果が大きくMPC unit の数はその性能に影響しないことを明らかにした。

MPCポリマーを電着することでチタン表面へのタンパク質吸着は抑制される

研究の終盤では、機能分子・生体分子の電着条件の探索、および電着による分子固定化のメカニズムの解明、分子固定化材料の生体機能発現メカニズムの解明の研究を行ってきた。サイクリックボルタンメトリーにより電着中の両末端アミン修飾PEG(NH2-PEG-NH2)の動的挙動を解析した。その結果、電解液中NH2-PEG-NH2の濃度が大きいほど電流密度が大きいことから、チタン表面近傍ではNH2-PEG-NH2は電離と非電離を繰り返し、末端アミノ基をチタン表面に接し規則的なU字構造に配列していくことが明らかになった。また、PEG電着金属の摩擦特性についても検討した。PEGの分子量の増加に伴い摩擦係数は増加し、PEGの固定化様式の組み合わせによっても摩擦係数が変化することが明らかになった。

以上より、本研究では、金属を生体機能化するための機能分子電着固定化の効果とその機構の解明、さらに電着機構を解明した。これらの成果は、今後の金属材料機能化・生体適合化を支援する重要な基盤となるものである。

成果について

この研究に関連する成果として、

がこれまでに報告されました(~2013年度)。詳細はこちら