第13回 外側翼突筋の話

第13回 外側翼突筋の話

 前回の中心位に続き,顆頭位を考える上で重要な「外側翼突筋」についてのお話です.外側翼突筋を触診できるのか,という議論は現在でも見受けられます.

 今回の記事では,触診あるいは筋電図による評価が可能かどうかについての考察を経て,外側翼突筋の緊張状態の測定法と「なぜ,外側翼突筋は機能亢進が生じやすいのか?」について議論が展開されます.前回の記事と合わせて,是非,お楽しみください.

第13回 外側翼突筋の話

 大学院時代だったか、ある学会で外側翼突筋の活動を筋電図に記録したという発表を聴いたことがあった。外側翼突筋が顎関節の運動に主体的に働くことは知っていたが、それが頭蓋底の深いところにあり、筋活動を記録するのは容易でないと思い、その発表に興味をもった。内容は殆ど忘れてしまったが、ただ針電極の設置がかなり難しいことやこの筋が上頭と下頭で活動が異なることなどが記憶に残った。以来、咀嚼筋としておぼろげであったこの筋に強くひかれるようになった。さらに顎の機能異常を研究するようになって改めてこの筋の重要性を知った。今回はその外側翼突筋を話題にする。

Vaughanの研究

 顎筋の働きについては古くから四肢の筋と同様、解剖学的な観察結果から推測されてきた。起始と停止の位置や筋の走行を観察し、停止する骨の動きを推定するというやり方で、それはレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿にもみられる。やがて1940年頃から筋電図法が顎筋に応用されるようになり、その働きが大分明らかになった。しかし、この方法は表層にある側頭筋や咬筋などにはよいが深部にある外側翼突筋にはなかなか応用が難しい。よって、この筋の研究は多くが解剖学的観察やX 線による観察、臨床所見などに基づくものだった。その中で以前から自分が注目していたのはVaughanの研究である。
 これは古く1934から世界大戦を挟んで62年まで、長期にわたって発表されている。NY大学の補綴学臨床教授だった彼は顎関節周囲の痛みや下顎運動の障害、関節雑音などを訴える患者の治療に当たる傍ら、35~37年、解剖学的観察として120以上の頭蓋骨と60以上の解剖例の観察を行った。その結果、下顎頭は常に前方に引っ張られていてそれには外側翼突筋が主に関わっている、また下顎頭には摩耗が見られるが、前方運動や側方運動時に圧迫されて生じたと考えられると結論し、顎関節部の痛みや下顎運動障害などに対する治療には、顎関節の骨変化よりも筋の作用を第一に考えるべきだとした。これは当時、専ら顎関節周囲の骨の変化を問題にしていた考え方に対して新たな主張であった。
 1955年にはThe external pterygoid mechanismという論文を発表した。これは右側外側翼突筋の機能を喪失した症例の観察結果をもとに論じたものである。その症例とは12年前、右側顔面の無痛性痙攣に侵されて治療を受け、三叉神経第三枝(下顎神経枝)の部分切断によって痙攣は完全に消失したが、右側の外側翼突筋への神経が破壊されて機能を失ってしまったという患者である。ほかの咀嚼筋や顔面筋は正常に保たれていた。
 この症例について観察した結果、(1)X線検査では閉口時右側下顎頭は後方へ移動していた。これは健常体では外側翼突筋が下顎頭を常に前方へ引っ張っていることを裏付けるものであった。(2)開口運動は右側(患側)へ偏った非常に不規則な運動だった。それは舌骨上筋群の働きによると考えられ、外側翼突筋は開口には必ずしも必要ではないこと、また当筋をコントロールする自己受容器官が関わっていることが推測された。(3)通常の前方運動はできなかった。それは、この運動には両側の外側翼突筋の共同作用が不可欠であることを示すものであり、対側の外側翼突筋にも機能的な制約が見られた。(4)閉口時の下顎の正中のずれはさほど顕著ではなく、安静時の顔にも偏りが見られなかった。それは手術後12年間で補償が起きたためと考えられた。
 Vaughanはこの稀有な症例で得られた下顎頭のX線所見や下顎運動の観察結果は、先に行った解剖学的な知見や臨床的な所見から導き出された推論を裏付けるものだったという。そして、外側翼突筋、関節円板、下顎頭は一つの機能ユニットと考えられるとしてExternal pterygoid mechanism という概念を提起した。この三者の調和は顎関節の機能を正常に保つのに必須であり、なかでも外側翼突筋の障害はその調和を乱すもので、下顎頭の偏位や運動障害、関節雑音、さらには顔面痛、頭痛を引き起こす原因になり、治療の主な対象になる部分だとしている。彼はこのように長期間にわたる研究を通じて終始、外側翼突筋の重要性を指摘したのである。

自分が経験した症例

 40年ほど前、外側翼突筋の著しい機能亢進と考えられる症例に出会ったことがある。現在、殆どのデータが失われてしまったが、初診時の僅かな記録が手元に残っていたのでそれを手がかりにその時の状況を思い起こしてみる。
 患者は65歳の男性で咀嚼ができないとの訴えで来院した。脳卒中(脳動脈硬化症の診断)の後遺症があり、現在リハビリテーション中という。顔は下顎が前に出た状態を呈していたが、関節や頬部に痛みはないようだった(図1a)。上下無歯顎で、意識すれば口唇は閉じることができるが下顎を後方に引くことはできず、以前使用していた義歯は装着しても噛み合わせができない。流動食を摂っているという。会話はかろうじてできる程度だった。
 診察すると、安静した状態で両側の下顎頭は前方に移動していた。開閉口運動には特に異常は見られず、最大開口量は義歯装着時で切歯間距離53㎜と正常範囲にあった。頭頚部の触診では、側頭筋後部、胸鎖乳突筋、舌筋以外の部位には両側に圧痛が認められた。これほど多くの部位の圧痛は滅多に見られないことだった。頤部を手でおさえて下顎を後方へ誘導しようとすると抵抗感がある。義歯を入れて同様に誘導して嵌合位でしっかり噛ませると一時はその状態を保つが(図1b)、すぐに噛み合わせが緩んで下顎は前方に出てきた。義歯を使って咀嚼するのはとても無理と判断された。

図1.外側翼突筋の機能亢進とみられた症例

 こうした所見からすべての咀嚼筋に異常が生じている、特に下顎を前方に動かす外側翼突筋の機能が異常に亢進していると推測された。顎関節部の触診で圧痛が認められ、周囲の組織に損傷が疑われた。X線写真は現在失われてしまったが、安静時に下顎頭は関節窩から前方に移動していた記憶がある。
 この広範囲な咀嚼筋の異常がどのような原因で生じたのか分からない。Vaughanの症例では右側の外側翼突筋の機能喪失はその筋を支配する神経線維の損傷が原因であることがはっきりしていた。しかし、本例の場合は脳動脈硬化が関わっていることは確かのようだが、それがどうして咀嚼筋全体の緊張を亢進させたのか、脳内出血あるいは脳梗塞が生じて三叉神経の下顎神経に連なる中枢が侵されたとも想像されるが、不明である。
 筋に緊張亢進があると、その筋に関係する運動に変化が現れることがある。本例の場合、殆どの咀嚼筋に圧痛があり異常であるが、閉口状態が維持できないことや下顎の前方への強い突出傾向は、特に外側翼突筋の極度の緊張亢進の持続を示唆するものと推測された。しかし、なぜ咀嚼筋のなかでとくに外側翼突筋に際立った異常が生じたのかは分からない。ただ、この筋は自己受容機構が不完全で、ひとたび過度な緊張が生じると弛緩するのが難しく緊張が持続するとの指摘がある。
 この症例の治療には多くの筋の緊張の緩和が必要と考えられたが全身的な視野での処置の必要から他の医療機関に依頼した。脳卒中が近年増加傾向にあると言われるが、こうした症例も稀ではなくなるだろう。適切な対応の仕方と医科との緊密な連携の必要性が痛感された。

外側翼突筋の触診の信頼性

 ここで、筋の触診について少し考えてみたい。触診は問診、視診、聴診などと共に病気の基本的な検査である。頭頚部についても同様だが、問診で患者が訴えるところを触ってその触感を確かめたり軽く圧迫してその感じを尋ねたりするのが一般的である。自分も以前はそのように行っていた。しかし、1969~70年にコペンハーゲン歯科大学咬合科に留学した時、そこでは患者の訴える部位だけでなく、顎関節や頭頚部の筋について決まった部位を全て触診して図に記録する方法をとっていた。それは痛みや違和感の全体像を把握し、また来院ごとに行うことによって病気の推移や治療の効果を判断するのに役立つからであった。以来、自分もその方法を用いることにしたが、当時北欧、米国、ドイツなどのこの分野の診療科ではよく使われていた。
 しかし、この触診で当初から疑問に思っていたことがあった。それは外側翼突筋の触診である。これは口腔内から上顎最後臼歯部の粘膜を遠心内側へ加圧する方法であるが、それで果たして外側翼突筋を触診できるのかということである。この筋は起始が大体2頭で、上頭は蝶形骨の大翼下面、下頭は主に翼状突起外側板で、個体によっては下方へ上顎骨背面にまで及ぶが、それぞれの筋束は下顎頭や関節円板の停止へ向かって収束する。口腔内からの触診で加圧できるとすれば下頭の起始部に近い筋束の一部ということになる。しかし、本当に加圧できるのか疑わしい。そこで、解剖体について口腔内の触診する部と外側翼突筋下頭までの距離を測定してみることにした(図2)。すると、全44例で外側翼突筋下頭は種々な程度で内側翼突筋の外側部で薄く覆われていて、外側翼突筋を触診するにはその部よりも上方でなければならないことが分かった。そこで、覆われていない外側翼突筋の部までの距離を測ると5~15㎜で個体差が大きく、そのうち何とか加圧できると思われる10㎜以下の個体は25例57%だった。つまり、この触診の仕方では外側翼突筋の検査可能なのは半数程度ということであった。
 しかし、実際にこの方法で触診するとかなりの人が圧痛を感じる。触診での圧痛個所の調査でもこの部が最も多いことが報告されている。これについてどう考えるか。外側翼突筋の状態を生体で個々に確かめる方法がないので圧痛があってもこの筋なのか、上を覆う内側翼突筋なのか、あるいは別な原因なのか分からないということになる。また、この筋に損傷や機能亢進があっても触診で圧が届かなければ圧痛は感じられないだろう。というわけで、外側翼突筋の検査にこの触診法は信頼性が低いと言わざるを得なかった。したがって、実際にはこうした事実を知ったうえで触診を行うということになるだろう。

図2.口腔と内側翼突筋,外側翼突筋のの位置的関係
A:口腔内での外側翼突筋に対する触診部位 B:最後臼歯欠損部顎堤 C:内側翼突筋 D:外側翼突筋下頭 E:頬筋 a:触診部位から外側翼突筋までの距離

外側翼突筋の緊張状態の測定

図3.外側翼突筋の緊張度測定装置

 さて、先の症例では著しい下顎の前突が見られ、外側翼突筋の機能が異常に亢進していると推測された。後方へ誘導しようとすると抵抗があった。この抵抗する力が測定できればこの筋の緊張の程度が分かるのではないかと考えられた。だが、どうすればよいか思いつかなかった。後日、簡単に測定する方法を紹介した論文を見つけた。
 測定用具としては図3に示すように、下顎有歯顎の印象用トレイの柄の部分に金属棒を取り付け、そのさきに重りを乗せるための皿を固定する。棒のトレイに近いところに指針となる突起を設ける、といった簡単なものである。測定には、患者を仰臥位に寝かせ、トレイにコンパウンドを盛って下顎歯列に固定する。その際、棒の先に固定した皿がほぼ水平になるよう、また指針の突起が上顎中切歯の唇面から2~3㎜離れるように気を付ける。この状態で重りを少しずつ加える。初めのうちは指針の位置は変わらない。外側翼突筋は等尺性の収縮を保っている。重りを増していくとやがて指針が動き出す。この時、この筋の等尺性収縮が最大に達したことになるので、その重りの値を読み取るという方法である。
 この測定結果は18~22歳の健常者では平均28ポンド(12.7 kg)、下顎頭の過可動性がある者では平均51ポンド(23.1 kg)で、最大78ポンド(35.4 kg)に達するものもいたという。なお、この下顎頭の過可動性は外側翼突筋の活動の亢進によるとされる。
 この論文も1966年と大分古いが、今日に至るまで外側翼突筋の緊張度を簡単に測定する方法に関する論文は見当たらなかった。

外側翼突筋の筋電図記録

 筋の健康状態を知るには、一般に安静時や運動時の痛み、触診時の圧痛、発揮できる筋力の程度、運動の異常などを調べる方法があるが、頭頸部の筋についても同様で、それらは臨床的な問題解決に有効である。だが、より詳しく筋の機能状態を知るには直接筋の活動を筋電図に記録して測る方法がある。
 筋電図が頭頚部の筋に応用されるようになったのは1950年頃からのようで、側頭筋、咬筋、舌骨上筋など皮膚に近いところにある筋は表面電極を使って、また深部にある内側、外側翼突筋は針電極で記録された。その結果、安静時や種々な下顎運動時の各筋の活動状態やそれぞれの役割が明らかになった。下顎が安静状態にある時、かつては殆どの筋が活動を停止するように考えられたこともあった。しかし、この方法が使われたことで下顎を保持するため挙上筋、下制筋が最小の活動をしながらバランスをとっていることが分かった。下顎の前方運動、開閉運動、側方運動に際して関係する筋やその関与の仕方、筋相互の関係などもわかってきた。
 そのなかで外側翼突筋では上頭と下頭で働きに違いがあることが早くから推測され、その活動状態について多くの観測が試みられた。そして、下顎頭が運動する際、下頭は前進にあたって活動性が高まり、後退するときには活動性が低下するといった運動との関係が明らかにされた。しかし、上頭についてははっきりした結論は得られなかった。理由は主にその場所と組織学的な構造にあった。上頭は側頭窩深くにあり外側が下顎骨筋突起でほぼ閉ざされていて、筋電計の電極の設置がかなり制約されること、そして組織学的構造については上頭の一部の筋束は関節円板に付着し、その他の部分は下頭の筋束と一緒になって下顎骨頸部に付着するという二つの構造体に停止すること、さらに上頭、下頭のいずれにも側頭筋や内側翼突筋の筋線維が交錯することが少なくないことが挙げられる。こうした理由で上頭の活動の記録が行われても一定の結果が得られなかったと推測される。
 1990年前後、この問題に関して興味深い論文が発表された。下顎頭の運動と共に高精度で本筋の活動記録を行い、上頭、下頭の機能的な相違を検討した論文である。健常な青年男性6名を対象にそれぞれの電極の設置をできるだけ厳密に規定している。その知見で注目されるのは、一つは上頭、下頭それぞれの活動筋電は多くの場合分離して記録されたが、一方の筋電が漏洩する場合もあったということである。それは部位を厳密に規定しても筋線維の状態は生体では分からないので起こり得ることである。つまり、上頭、下頭と厳密に分けて電極を設置しても筋線維は全て上頭、下頭にはっきり分離しているわけでなく、相互に交錯するものがあるからである。
 もう一つの注目点は、上頭、下頭の活動筋電が分離して記録されたものについての下顎の前進後退時の活動様相である。下頭は前進時に活動が現れ、後退時には消失したが、上頭は下顎頭が閉口位から前進する時には活動が消失し、後方に戻るときに活動が発現した。この上頭、下頭の活動の時期は殆ど重複することなく、この傾向は他の運動時にも見られ、両者は相反性の活動をすると結論している。
 ここに外側翼突筋上頭、下頭の活動の様子が明確に示されたことは画期的であるが、問題は上頭の活動についての解釈である。つまり、上頭は下顎が前方位から後退するときに活動するという下頭と真逆の活動の仕方をどう考えるかである。
 著者はこれについて開閉運動の場合を例に説明している。閉口位(顆頭安定位)では下顎頭は窩の中央にあり、その関節面は関節円板の薄い中央部(狭窄部)を介して関節結節と対向している。開口時、下顎頭が回転しながら前進すると、関節円板は後方へ移動し始める。このとき上頭の筋は弛緩している。最大開口位では円板の狭窄部は下顎頭の頂上に移動している。ここから閉口に移ると、下頭は弛緩し、上頭は下顎頭の後退に合わせて後方に移動していた円板を元の状態に戻すための活動を開始する。やがて下顎頭が閉口位の位置に戻ると上頭は活動を停止し弛緩する。こうして上頭は関節円板をコントロールしながら下顎頭を下顎窩の安定した位置に固定保持するように働くと考察している。
 この論文によって外側翼突筋の上頭、下頭の働きが大分はっきりした。こうした研究が重ねられ、さらに知見が加わることによってこの筋の活動様相がより明確になると思う。

外側翼突筋の機能亢進についての考え方

 次に外側翼突筋の活動の上昇、機能亢進がなぜ起きるかを問題にしたい。一般に、筋は収縮と弛緩を繰り返すが、その収縮が阻害されるとそれに抗してさらに収縮しようとする性質がある。この収縮が持続するとやがて疲労する。血流が悪化し、疲労物質が蓄積して痛みが現れる。筋の機能亢進はこの収縮が頻繁に起きた状態であるが、外側翼突筋ではなぜそうした状態がよく起きるのか。
 それに関わるのは実は下顎の挙上筋(閉口筋)の機能亢進と考えられる。挙上筋が強く緊張すると下顎は挙上する。下顎頭も上昇して関節空隙が狭くなり、関節円板は関節窩上面に押し付けられる。こうした状態で開口運動や側方運動が行われると外側翼突筋は下顎頭や関節円板を前方に引くように収縮するが、抵抗が大きいと収縮を強めなければならなくなる。それが繰り返されると外側翼突筋が機能亢進に陥るという考え方である。
 こうした考えは実験的証左によるのではなく、臨床的な所見から形成されたと思うが、それに基づいて解決できた症例は少なくない。つまり、挙上筋の緊張緩和を図ることによって外側翼突筋の機能亢進が減少できたという数々の実例である。また、噛みしめをしないように指導することで顎関節症状が改善できるという行動療法もこの考え方に通じるものと言える。
 しかし、外側翼突筋の機能亢進はその本来の収縮が障害されることに起因するにせよ、過度な収縮を筋自体が感知して回避するようにはならないのかである。これは多くの筋に見られる自己受容機構の働きであるが、先にも触れたが、外側翼突筋にはそれが不備であるとの意見がある。もしそうであれば、ひとたび機能亢進に陥った外側翼突筋の機能回復には、その収縮の原因因子を排除してしばらく時間をかけて回復を待つ以外に方法がないのかもしれない。ただ、この筋の自己受容機構に関する共通認識はまだ得られていない。今後この筋の緊張のメカニズムが解明され、緩和させる方法が開発されるといいと思うのだが。

終わりに

 最後に、忘れられないエピソードを紹介したい。退職して間もなく、顎関節症についてまとめる必要から上野正先生に論文別刷を請求したことがあった。先生は周知のように、この名称の名付け親である。ほどなく別刷が届いたが、続いて葉書もいただいた。こまごま書かれた中に「外側翼突筋を制する者は顎関節症を制する」とあり、「この筋の研究を続けるよう」とあった。自分が退職したことを先生はご存知なかったのだろうが、意外であると共にうれしかった。というのは、先生は顎関節疾患に関する広範な業績の中で、顎関節症については組織学・病理学的な研究、症状の調査分類、関節の病変など関節本体の研究が主であった。講義や講演でも顎筋に触れることは殆どなかった。また、自分が咀嚼筋の機能障害について話したときも何の発言もされなかった。以来、顎関節症として顎筋は重要でなく問題外と考えておられるとばかり思っていた。そこにこのように書いてこられたことが大変意外であり、外側翼突筋などの顎筋の研究が評価されたことがうれしかったのである。

 以上、長々と述べたが、検討すべき課題が多々あると思う。今後の研究に期待するとしたい。

文献

1) Vaughan,H.C.: The external pterygoid mechanism. J Prosthet Dent,5:80, 1955.
2) 藍 稔、中村和夫、松浦基一ほか:外側翼突筋下頭起始部の位置に関する解剖学的検討.補綴誌、25:288,1981.
3) Gerry,R.G.: Mandibular joint disease of kinesiopathic origin.J Prosthet Dent,16:316,1966.
4) 日比野和人、平場勝成、平沼謙二:ヒト外側翼突筋上頭・下頭の機能的相違について、1.各種基本運動時の活動様式ならびに解剖学的考察.補綴誌、36:314,1992.