遺伝生化 概要

遺伝生化


Department of Biochemical Genetics,Medical Research Institute,Tokyo Medical and Dental Univ.

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当分野の研究概要


始めに・・・

 生命の設計図であるゲノム情報は、遺伝子発現という過程を経て最終的な機能実行分子であるタンパク質に
翻訳されますが、転写反応はその第一義的な調節段階です。

 その制御に関わる基本的な因子とその近傍で働く転写制御因子は、複合体を作り協調した働きをしていますが、
その異常は転写症候群と呼ばれる疾患群を含め、がんや多くの疾患とその病態に深く関わっています。
我々の分野では、遺伝子の発現制御を識ることによって、病気の成り立ち、さらには予防、
治療も可能になるに違いないという信念のもとに研究しています。

また、終末分化して分裂能を失った心筋を再生するユニークな方法を見出し、その臨床応用に向けた研究も進めています。


主な研究課題は以下の4つです

1.転写サイクルの研究

転写は、遺伝子開始の正確な部位からスタートし、伸長、終結、リサイクリングの過程を経て合成され、mRNA合成を行うRNAポリメラーゼUとそれを制御する因子の働きによって行われています。

 転写は、遺伝子転写開始、伸長、終結、リサイクリングの過程で進みます。
この過程で、mRNA合成を行う主役であるRNAポリメラーゼ IIは、多くの制御因子の働きによって制御されています。我々の研究対象は、

(1)クロマチンの構造制御を行うAsh1の研究
Ash1が白血病発症に深く関わるMLLと相互作用しHoxの発現を制御する ことを見出しており血液分化での役割と小児白血病への関わりを解析しています。

(2)伸長因子の研究(次に詳しく紹介しています)

(3)Pol II CTDのリン酸化・脱リン酸化制御を担うCP1の解析
FCP1は、 CCFDN (Congenital cataracta facial deformity neuropathy)という遺伝疾患の原因遺伝子です。





2.転写伸長制御の研究

@immediate early geneの転写はすでに開始していて、停止している。

@図は、遺伝子の転写開始部位へのPol IIの結合量を表しています。不活性なsilent geneでは結合は見られず、active geneに数多くのPol IIが結合しています。

 生体は、細胞のホメオスターシスを維持するために、外界の刺激に速やかに応答して自分の生死を決定しなければいけません。このストレス刺激に迅速に応答する遺伝子の転写は、実は、既に40〜50base開始された準備状態にあって、その場所に停止(paused)していることが明らかにされています。

 従って、ストレス刺激による誘導は、停止したPol IIを再活性化することであり、種々の伸長因子の働きで行われます。HIVウイルスの増殖に関わるTatや、コケイン症候群の原因遺伝子CSBなどはその例で、真核細胞ではおよそ20種類の伸長因子がありますが、それぞれが特有な働きをしています。

AElongin Aの欠損は細胞抑制に至る

A当研究室は、そのうちの1つ伸長因子Elongin Aの研究を行っています。
Elongin Aノックアウトマウスは、生体の各組織が低形成であり胎児致死でしたし、Elongin A欠損細胞は、老化やアポトーシスに至ることも明らかとなりました。 Elongin Aは、個体レベル、細胞レベルで重要な働きをしているわけです。
 しかし、どのように機能しているかはまだ明らかではありません。

AElongin Aの2つの姿 

B 最近、その回答として2つの可能性を明らかにしました。

i)ストレスに応答してElongin Aは、熱ショックHSP70(分子シャペロン)などに誘導に必須であり伸長因子として生体に必須な遺伝子を誘導する。(左向きの働き)。

iiElongin Aは、E3リガーゼの因子と結合し、mRNAを転写する本体であるPol IIをユビキチン化し分解する(右向きの働き)。これから、Elongin APol IIの伸長因子であると同時に、転写の本体machinePol IIを分解するという重要な働きが明らかになりました。
 
さて、このようなElongin Aの2つの働きは、生体にとってどのような意味を持つのでしょう。また、その制御はどのように行われるのでしょうか?
これが、次に残された課題です。


主な発表論文

1. J Biol Chem 275:6546,2000
2.J Biol Chem 277:26444,2002
3.J Biol Chem 278:13585,2003
4.Cell  Death and Differentiation 14:716,2007
5.Embo J . 27:3256-3266,2008




3.がん、細胞運命と遺伝制御の研究

 DNAに含まれる遺伝情報の発現は、下図のように転写因子 → 基本因子 → RNA Polymerase II→ 標的遺伝子 の流れで調節され多段階の発現制御が関わっています。
*( )の中の数字は、ヒトにおける遺伝子数です。

ATF3とは

 ヒトの転写因子の中に、構造的にbZip型(basic leucine zipper)

と呼ばれるものが53種あります。





























この中のATF3は、円口類から高いホモロジーで出現

します.Basic領域でDNAに結合し、ロイシンジッパー構造で

ホモ、ヘテロ2量体を作ります。
 ATF3は、各種ストレスで誘導される転写因子であり、発がん、
転移、がん抑制、がん治療にわたっての関与が示唆されている興味深い因子です。
しかし、詳細な機能は、現在活発な解析が進められています。



ATF3の細胞抑制、がん抑制作用

 ATF3は、生体のGenomic gatewayの生体応答のオーケストラの指揮者として、細胞運命を制御する“Gatekeeper”としての働きを持っています。
我々は、ATF3がどのような生物機能を持つか、特に、“がん”との関わりを研究しています。
 これまでに、紫外線、放射線、抗がん剤などDNA傷害、酸化ストレス、TGF-bによる細胞抑制、細胞死を引き起こすことは明らかにされています。

ATF3のその他の生物機能


 さらにATF3が他の多くの現象に関わることも示唆されました。
自然免疫に関わるTLR4 (Toll-like receptor-4) の下流で過剰な免疫反応を抑制したり、HIV感染進入時に特異的に誘導されたり、喘息にも関わるなど多彩な機能が報告されています。
 
 bZip型転写因子は広範な生物機能を有し、生物界に広く存在し進化してきた分子ですので、ATF3のハエホモログA3-3の遺伝子破壊larvaは部分的に致死でありfemale fertilityの異常を来たすことも知られています。
ATF3研究はbZipファミリーの中でも研究が遅れていますが、当研究室は、国内外から問い合わせが多く、ATF3研究に貢献しています。


私達はATF3研究の複合的アプローチを試みています

*発現アレイ、網羅的ChIP解析
ATF3は転写因子ですから、標的遺伝子を網羅的に解析するために、
mRNAの発現アレイ、遺伝子プロモーターアレイのChIP解析を進めます。

ATF3蛋白複合体

転写因子は、ほとんどが2量体としてプロモーターのコンセンサス配列を
認識します.また、ある因子を介して間接的に結合することもあります。
ATF3転写複合体の免疫沈降と質量分析を進めます。

細胞レベルの機能解析
様々なヒトがん細胞を用いたストレス応答、細胞死実験を行い、分子
生物学的実験を進めています


Atf3 KOマウスを用いた個体レベルの機能解析
Atf3遺伝子改変マウスを作成しています.これは、Cre-lox系を用いて
組織特異的、時期特異的にatf3遺伝子をKOできます。











主な発表論文


1. Blood 96:2140,2000
2.J Biol Chem 276:35867,2001
3.Nucleic Acids Res 30:2398,2002
4.J Biol Chem 277:39025,2002
5.Embo J . 24:2590,2005
6.J Biol Chem 281:1620,2006
7.Cancer Res. 66:2376,2006
8.Cell Death and Differention 15:1472,2008
9.Nucleic Acids Res in press, 2009
5.Cell Death and Differentiation. in press,2009


4.心筋終末分化細胞の細胞周期と再分裂誘導

 心筋細胞は、生後すぐに増殖能を失いその細胞周期はG0/G1期に停止します。そのため、心筋梗塞症や拡張型心筋症によって心筋細胞の壊死・喪失が起こった場合、心筋細胞が再生されず重症心不全に陥るのです。本研究は、分裂能力を失った終末心筋細胞の細胞周期の基本メカニズムを解明し、その結果in situあるいは、ex vivoにおいて心筋を分裂させる新しい心筋 再生治療法の開発を目的としています。
 
これまでに、細胞周期促進因子であるサイクリンD1が心筋では核内に移行が阻害されているために、核移行シグナル(Nuclear Localizing Signal=NLS)を付加し、核へ強制発現させることにより心筋細胞の分裂誘導に成功しました( BBRC 2002, Circ Res 2003、 朝日新聞掲載 2002)。

 さらに、サイクリンD1の核内発現と細胞周期抑制因p27kip1分解を組み合わせることで、安定した心筋細胞の分裂を促進できました。

 そこで、本法を、ラットの心筋梗塞モデル実験に適用したところ、梗塞サイズの縮小・心筋再生・心機能の庇護、改善の治療効果を明らかにすることができました(Cardiovasc Res 2008、アスビオファーマ共同実験)。
今後は、さらに、心筋細胞周期制御の機構を明らかにして、心筋のin situ再生に応用できる研究を目指してい ます。

主な発表論文


1.Cardiovascular Res. 80:181-190,2008
2.Cell Cycle 7:3768-3774,2008
3.Proc Natl Acad Sci USA 105:20900-20905,2008
4. J Biol Chem. 279:50429-50436,2004
5. CIrc Res. 92: e12-e19,2003