サルコイドーシスとは

 
サルコイドーシスは肉芽腫性疾患のなかでもっとも遭遇する機会の多い病気である。肺、リンパ節、皮膚、眼、肝、脾、心、骨格筋、腎、脳神経など全身諸臓器 に乾酪壊死のない類上皮細胞肉芽腫が形成され多彩な臨床症状を呈する。なかでも両側肺門リンパ節腫脹(BHL)や肺野病変は患者の9割以上に認められる。 本症患者のなかには無症状の人もおり、検診でBHLを指摘され内科に紹介される患者も多い。最近ではブドウ膜炎による眼症状を主訴に眼科初診となる患者が 増加している。眼、心、脳神経など臨床症状がでやすい臓器障害の場合はステロイド治療の対象となるが、生活に支障となる症状がなければ無治療で経過観察さ れることも多い。本症に自然治癒例が存在することも事実である。本症は概して良性の経過をたどるが、約3割の患者では慢性化や再発を繰り返し難治化する。 難治性患者に対する長期ステロイド投与は副作用も多く、その治療成績に関しても多くの問題を抱えている。原因に対する根本的治療法が切望されている所以で ある。


アクネ菌とサルコイドーシス

サルコイドーシス病変部から分離培養可能な唯一の微生物がアクネ菌であることは1970年代から知られている。阿部らの報告では分離頻度は78%、その後の培地改良により92%と上昇し、活動性患者病巣材料からは ほぼ全例に分離されている。ところが他疾患リンパ節でもその21% に本菌が検出されたこと から、培養結果のみでアクネ菌を原因細菌と特定することはできなかった。定量系PCR法 を用いた定量解析では、本症リンパ節か らアクネ菌 (Propionibacterium acnes)あるいはP. granulosum由来のDNAが例外なく検出され、その検出量は結核症における結核菌DNA量に匹敵するほど多量であった(図1)。先の培養結果と同様に、対照群リンパ節でも一部にアクネ菌が検出されたがその検出量は微量であった。国際共同研究では結核菌原因説が主流である欧米諸国の患者においてもアクネ菌が原因となっている可能性が示唆された。その後、高感度ISH法を用いた解析から、アクネ菌DNAが肉芽腫内部に集積して存在することも明らかとなった


病変部に細胞壁欠失L型アクネ菌を同定

 病変部 リンパ節の組織懸濁液をマウスに免疫することで、肉芽腫内部に存在するサ症起因体に対し単クローン抗体が作成された。本抗体は、結核菌や他の一般細菌類と はまったく反応せずアクネ菌と特異的に反応する。サルコイドーシス病変部に反応するアクネ菌・単クローン抗体はこれまでに2種類完成している。PAB抗体はアクネ菌に特異的な抗体で、菌体細胞膜から細胞壁を貫いて分布するリポタイコ酸と呼ばれる糖脂質抗原を認識する。他方、TIG抗体もアクネ菌に高い特異性を示し、細胞質内に多量に存在するリボゾーム結合性シャペロン蛋白トリガーファクターを認識す2つの抗体はいずれも、結核菌を含むマイコバクテリアには反応せず、他の一般細菌ともまったく反応しない。サ ルコイドーシスリンパ節に高率に出現する抗酸性の大型紡錘形小体(HW小体)には、小体外周を取り巻くようにPAB抗体が陽性となり、小体内部領域には細 胞内リボゾームの分布に一致してTIG抗体がドット状に陽性となることから、HW小体が単一のアクネ菌体そのものであることがわかる(図2)。 電顕観察にてこれらの病変部アクネ菌は、通常型細菌が有する細胞壁構造を欠失しており、L型細菌に特徴的な出芽様分裂像を呈する。病変部マクロファージ内 に充満するPAB抗体陽性の小型円形小体も、大型紡錘形HW小体から出芽様に分裂増殖したL型アクネ菌そのものであろう。サイズや形態の多様性はL型細菌 の特徴でもある。


PAB抗体による肉芽腫内アクネ菌の検出

L 型アクネ菌は細胞壁の主要成分であるペプチドグリカンを欠如するが、細胞膜から細胞壁を貫通して存在するリポタイコ酸は保持(エピトープ構造はむしろ露 出)されることから、リポタイコ酸を認識するPAB抗体は細胞内のL型アクネ菌を検出するのに適した抗体である。PAB抗体を用いた免疫染色では、罹患臓 器を問わずその74%から100%の症例で肉芽腫内にアクネ菌が検出される(表1)。肉 芽腫の成熟に伴いリゾチーム活性や細胞内消化能は亢進することから、成熟肉芽腫よりもリンパ球浸潤のめだつ未熟な肉芽腫において陽性所見を認めることが多 い。多くは類上皮細胞内や巨細胞内にサイズの異なる小型円形小体として同定される(図3)。ときに大型のHW小体様のものを認めることもある。PAB抗体 はサルコイド反応と呼ばれる肉芽腫内には陰性となることから、本症とサルコイド反応を区別する上で有用である。また結核性肉芽腫内にPAB抗体陽性像は認 められないことから、サルコイドーシスを臨床的に疑う症例で壊死を伴う肉芽腫がみられるような場合、PAB抗体の免疫染色がその鑑別診断に役立つ。

宿主要因

常 在性のアクネ菌がサルコイドーシスの原因細菌であるとすれば、病因論の本質は宿主要因の方にある。すなわち、アクネ菌由来のなんらかの抗原物質に対して、 アレルギー性免疫反応が存在する。アクネ菌の細胞内増殖を契機に、過度な免疫反応を引き起こす人だけがサルコイドーシスを発症し、当該抗原物質(アレルゲ ン)に対し無反応性の人は、かりに本菌の細胞内増殖が起こったとしても、健康でいられるのかもしれない。アクネ菌遺伝子ライブラリーを患者血清で免疫スク リーニングすることにより、本菌由来のアレルゲン物質を探し出すことができた。患者血清と強く反応する本菌由来のリコンビナント蛋白は、そのアミノ酸配列 からアクネ菌トリガーファクターであることが確定された。アクネ菌トリガーファクターは、そのC末端側に他菌種には存在しない本菌特有のアミノ酸配列を もっておりTIG抗原と呼ばれる。TIG抗原を用いて末梢血リンパ球の刺激試験をおこなうと、約2割の症例で患者特異的な免疫反応性が認められる


実験モデル

 
 TIG抗原をアジュバントとともにマウスに感作免疫し、本抗原に対するアレルギー素因を実験的に誘導すると、一部(25〜57%)のマウスでは肺に多発性の肉芽腫形成を認める。TIG 抗原のかわりに菌体そのものを用いても結果は同様である。また正常マウスの約3分の1で肺からアクネ菌が培養可能であることから、感作免疫のみにて肺肉芽 腫を形成するマウスでは、肺にアクネ菌が常在性に感染している可能性がある。庭先で飼育されているウサギで同様の実験を行うと、マウス以上に高度でびまん 性の肺肉芽腫症が誘導される。マウスにアジスロマイシンを、ウサギにミノマイシンを実験開始まえから投与しておくと、これらの肺肉芽腫形成を抑制すること ができる。ヒトの末梢肺組織や肺門部リンパ節からも約半数の症例で本菌が培養可能であり、他の細菌類はほとんど検出され ない肺や肺門リンパ節はサルコイドーシ スの好発部位であり、これらの臓器にはアクネ菌が不顕性感染している。宿主の本菌に対する 過敏性免疫反応が素因となりサルコイドーシスが発症しているとい う考え方からすれば、本実験系をサルコイドーシスの実験モデルとみなすことができる。抗生剤投与が本実験モデルにおける肺肉芽腫の形成を防止できたことか ら、サルコイドーシス患者においても除菌療法が有効である可能性がでてきた(図4)。


サルコイドーシスのアクネ菌病因説

 これまでの研究経緯から想定されるサルコイドーシスのアクネ菌病因説10に つき概要を紹介する(図4)。アクネ菌は外部環境から経気道的に侵入して不顕性感染することから、サルコイドーシスにおける初発病変は症状の有無にかかわ らず肺や肺門部リンパ節と考えられる。これらの臓器に細胞内潜伏感染するアクネ菌は、何らかの環境要因(ストレスや生活習慣等)を契機に内因性に活性化し 細胞内増殖する。宿主要因として本菌に対するアレルギー素因を有する患者では、アクネ菌の細胞内増殖を契機に感染臓器局所で過度のTh1型免疫反応が起こ り、感染型アクネ菌の拡散防止を目的とした肉芽腫形成が起こる(図5)。細胞内増殖の折に肉芽腫による封じ込めを逃れたいわゆる感染型アクネ菌は、病変部 局所において新たな潜伏感染を引き起こす可能性がある。さらにリンパ向性あるいは血行性に拡がり、肺やリンパ節以外の全身諸臓器に新たな潜伏感染をおこす 可能性もある。全身に拡散した潜伏感染を背景として、同様な環境要因を契機にふたたび内因性活性化は起こり得る。その場合、新たな潜伏感染局所でも同時多 発的にアクネ菌の細胞内増殖が起こり、その結果として全身性肉芽腫形成を特徴とするサルコイドーシスの病態が形成されてくるものと想定される。



アクネ菌病因説にもとづく治療戦略

 サルコイドーシスにおいて、アクネ菌の細胞内増殖は、肉芽腫形成の原因となるばかりでなく、これを契機に、病変部局所において新たな潜伏感染を引き起こ す可能性がある。この潜伏感染が完全に除去されない限り炎症の再燃が起こりえる。再燃を繰り返すたびに、罹患組織は肉芽腫性炎症により破壊されていく。炎 症後の線維化に加えて、新たな再燃性の炎症が加わり、病変の範囲は徐々に広がっていくことになる。現在サルコイドーシスの治療に用いられているステロイ ド、メトトレキセート、Infliximab等の生物製剤はいずれも、過剰な免疫反応による肉芽腫形成を非特異的に抑制することで治療効果を発揮する。肉 芽腫形成により感染型アクネ菌の拡散が封じ込められているとすれば、肉芽腫性炎症を抑制するこれらの治療法は、一方では新たな潜伏感染を引き起こす危険性 もはらんでいる。疾病素因として本菌に対するアレルギー素因を有する患者では、内因性に本菌が活性化する度ごとに増菌局所で肉芽腫反応が生じてくるものと 想定され、細胞内細菌に感受性のある抗生物質の投与は、細胞内増殖菌の殺菌作用や内因性活性化の防止効果により、肉芽腫形成の抑制や予防に効果があるかも しれない。また、本症からの完全緩解を目指すためには、活性化状態にある菌を抑制するだけではなく、代謝活性を低下させて生き残りをはかる細胞内持続感染 状態のアクネ菌も含めて除菌する必要がある。


サルコイドーシス抗菌剤治療の現状

 1999年アクネ菌病因説がランセットに発表されたあと、2001年にはフランスから、ニキビ治療に汎用される抗生剤であるミノサイクリンとドキシサイクリンによる治療効果が報告された11。 皮膚サルコイドーシス12症例に対して、平均26ヶ月間治療され、8症例は完全に効果を示し、2例で部分的な効果がみられ、2例では効果がなかったとの報 告である。ほとんどの症例は、ミノサイクリンを100mg/日2回投与されていたが、一部の症例では、ミノサイクリンの副作用のために減量、あるいは副作 用の少ないドキシサイクリンに変更された。日本の難病研究班によるアンケート調査では、その有効症例は84例中36例(43%)に認められている。米国シ ンシチナ大学では、ミノサイクリンとドキシサイクリンを57症例に投与して、少なくとも40%で治療反応性を認めている。主に皮膚病変で有効性が高いよう である。ミノサイクリンが著効を呈したとする症例報告12−14が多いが、その他にもアジスロマイシン、CAM、CLDM、ST合剤等の使用による治療成功症例が報告されている。マーシャルプロトコール15と は、自身もサルコイドーシス患者であるDr.Marshallにより詳細に記載された細胞内細菌に対する除菌プロトコールである。ミノマイシンを主体に、 アジスロマイシン、クリンダマイシンを加えた多剤併用療法を、Herxheimer反応(梅毒の抗菌剤治療などで知られる。死滅する細胞内細菌から遊離す る菌体成分に対する一種のアレルギー反応)に注意しながら長期投与する治療法である。2006年にロサンジェルスで開催されたサルコイドーシス治験検討会 では92例中57例(62%)で有効であったと報告されている16

参考文献
  1. Abe, C., K. Iwai, R. Mikami, et al. Frequent isolation of Propionibacterium acnes from sarcoidosis lymph nodes. Zentbl. Bakteriol. Mikrobiol. Hyg. A 1984; 256: 541-547.
  2. Ishige I, Usui Y, Takemura T, et al. Quantitative PCR of mycobacterial and propionibacterial DNA in lymph nodes of Japanese patients with sarcoidosis. Lancet 1999; 354: 120-123.
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  4. Yamada T, Eishi Y, Ikeda S, et al. In situ localization of Propionibacterium acnes DNA in lymph nodes from sarcoidosis patients by signal amplification with catalysed reporter deposition. J Pathol 2002; 198: 541-547.
  5. Negi M, Takemura T, Guzman J, et al. Localization of Propionibacterium acnes in granulomas supports a possible etiologic link between sarcoidosis and the bacterium. Modern Pathology 2012; 25: (in press).
  6. Ebe Y, Ikushima S, Yamaguchi T, et al. Proliferative response of peripheral blood mononuclear cells and levels of antibody to recombinat protein from Propionibacterium acnes DNA expression library in Japanese patients with sarcoidosis. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis 2000; 17: 256-265.
  7. Minami J, Eishi Y, Ishige Y, et al. Pulmonary granulomas caused experimentally in mice by a recombinant trigger-factor protein of Propionibacterium acnes. J Med Dent Sci 2003; 50: 245-252.
  8. Ishige I, Eishi Y, Takemura T, et al. Propionibacterium acnes as the most common bacterium commensal in peripheral lung tissue and mediastinal lymph nodes from subjects without sarcoidosis. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis, 2005; 22: 33-42.
  9. Nishiwaki T, Yoneyama H, Eishi Y, et al. Indigenous pulmonary Propionibacterium acnes primes the host in the development of sarcoid-like pulmonary granulomatosis in mice. Am J Pathol 2004; 165: 631-639.
  10. Eishi Y. Propionibacteria as a cause of sarcoidosis. In “Sarcoidosis”, ed. by Baughman R. Marcel Dekker, New York, 2006: 277-296.
  11. Bachelez H, Senet P, Cadranel J, et al. The use of tetracyclines for the treatment of sarcoidosis. Arch Dermatol 2001; 137: 69-73.
  12. Baba K, Yamaguchi E, Matsui S, et al. A case of sarcoidosis with multiple endobronchial mass lesions that disappeared with antibiotics. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis 2006; 23: 78-79.
  13. Park DJ, Woog JJ, Pulido JS, et al. Minocycline for the treatment of ocular and ocular adnexal sarcoidosis. Arch Ophthalmol 2007; 125: 705-709.
  14. Miyazaki E, Ando M, Fukami T, et al. Minocycline for the treatment of sarcoidosis: is the mechanism of action immunomodulating or antimicrobial effect? Clin Rheumatol 2008; 27: 1195-1197.
  15. Marshall TG, Marshall FE. Sarcoidosis succumbs to antibiotics--implications for autoimmune disease. Autoimmun Rev 2004; 3: 295-300.
  16. The Marshall Protocol Study Site, Autoimmunity Research Foundation http://www.marshallprotocol.com


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