19.味 覚

 味は腔空内の味蕾が刺激されたときひき起こされる感覚である。その特徴は非常に 敏感であることである。例えば塩酸の酸っぱさは0.0009Mで感じ、食塩のしおからさ 0.01M、庶糖のあまさ0.01M、キニーネの苦さ0.00008Mで感じる。  味は機能的に人の欲求にあった食物、栄養に必要な食物を選択するのに役立っ ている。この証拠に、上皮小体切除によってCa++が体外に大量に失われるように なったネズミはCa++の入った食物を選択的に摂取し、副腎皮質の切除によって、 Na+が体外に失われるようになったネズミは大量の塩をとる。塩を与えないと数日 で死ぬ。動物にとって生きるために大切な食物がその時時によって選択されている。 さらに、味神経を切断した動物は正しい物質を食物として選択できず、ただむやみに 食べたり飲んだりするようになる。

§1.味の基本感覚

 味は多種多様である。しかし、全ての味は、次の4つの基本味の組合せで生じると 考えられている。  あまい(sweet)  ‥‥‥‥有機物(庶糖、)  しおからい(salt)‥‥‥‥無機物(NaCl,LiCl,RbCl)  すっぱい(acid) ‥‥‥‥酸(醋酸)  にがい(bitter) ‥‥‥‥アルカロイド(quinine) そして、それぞれ、右のような物質が、それぞれの味を生じる。それぞれの味物質に 対して、舌の部位は、感受性を異にする。上から順に、舌尖、舌全部(尖)、舌根、 舌側、部がもっとも感受性がよい。例えばキニーネの苦みに対する閾値は、舌根、 舌尖、舌側で 0.00005%, 0.00029% である。舌根が最も敏感である。  また、味覚は味物質を適応する面積が大きい程、効果大である。すなわち、面積 効果がある。  さらに、味覚は選択的な順応をする。塩は、   5%溶液で7分、10%溶液で18分、15%溶液で25分で順応する。 味は、30−40_Cのときもっとも敏感である。

§2.味受容(味蕾 tastebud)の解剖

 味蕾中にある味覚受容細胞が唾液によって解けた物質によって刺激されると味の 感覚が生じる。  味蕾(taste bud)は、舌の端及び背面、咽頭蓋、軟口蓋、咽頭にもある。 (図20-1)舌上では、種々な乳頭の表面及び溝に存在する。人では10,000個もある といわれる。 <図20−1>  味蕾は樽状で、上皮内に存在する。大きさ60〜80μ×40μ。垂直方向に長い細胞 が集まってできている。人によっては受容細胞と支持細胞に分ける。しかし、受容 細胞の発達の各段階という人もいる。味蕾の細胞は上皮から発達し、最後は変性する。 その life span はラットで250時間という。 これらの細胞の先端は表皮から突出し味孔(taste pore)となる。そこは、糸状で 0.1−0.2μ直径の微小線毛(microvilli)がある。細胞質には多数のミトコンドリア と顆粒がある。  味神経線維は味蕾中で50mμの線維として始まる。そこで神経ごう(plexus)を つくっている。味蕾を出ると有髄線維となる。1つの味蕾から2〜3ほんの神経 線維が出る。そしてこの2〜3本の神経線維の枝が150〜200の味蕾を支配している。

§3.味受容器での興奮

 微小電極は味孔〜刺入し、進めると-30〜-50mVの電位があらわれる。(図20-2)  この電位は急に現れ急に消えるので、味細胞に穿入されたために生じると考えられ ている。この”静止電位”は味物質を舌に適応すると減少(脱分極)する。 この脱分極が受容器細胞のひだの中に埋まっている神経線維終末を興奮させると考 えられている。すなわち脱分極が、起動電位と考えられている。  この起動電位は、味物質に対して、あまり特異性はない。例えばNaClにもっとも 敏感であるときでも、その他のキニーネ、しょ糖、塩酸にも応答する。 <図20−2>

§4.味覚伝導路

 舌、前2/3の味覚は三叉神経第3枝(舌神経)→鼓索(chorda tympani)→ 顔面神経の順に通り、頭蓋内にはいる。  舌、後ろ1/3の味覚は舌咽神経を通る。  また、咽頭蓋、咽頭の味覚は迷走神経を介して中枢にいたる。  味覚線維は平均直径4μで、18%は無髄で1.5μ以下、残りが有髄で1.5〜6.0μ である。 味覚線維は延髄に入り、一旦下行して孤束(tractus solitarius)となり、 孤束核(nucleus of tracus solitarius)でシナプスをかえる。そして交叉して 反対側に行き、内側毛帯のそばを通って視床の後内側腹側核(Nucl. ventralis postmedialis)の後部(弓状核;arcuate nucleus)にゆく。ここでシナプスをかえ、 中心後回の下部で下の他の種の感覚の投射部位に投射する。 <図20−3> <図20−4>

§5.味覚神経線維の放電と味の弁別

 鼓索神経からの味覚の第一次求心神経線維の放電を記録する。すると他の感覚 ユニット同様、味刺激の強さがませば、放電頻度は増大する。また順応もある。  しかし、単一ユニットは一般に味の物質に対する特異性少である。すなわち、 一種以上の基本味液に応答する。それで、4種の基本味に対して、別々の4種の 受容器があり、単独通話線のように、大脳皮質の終着点まで、1対1の対応関係 で結び付いていると考えることはできない。すなわち、spcific modality theory (von Frey)では説明できない。  そこで味の質の知覚に関する考え方が生じる。味覚インパルス群は  (1)空間パターン  (2)時間パターン として、分析されているという考え方である。すなわち、味神経線維中のある集団が、 どの様な放電パターンを示すかによって味の質に関する情報がきまる。この考え方 を支持する事実は次の通りである。(a図20-5)  (イ)空間パターン:NaClに敏感な線維と蔗糖に敏感な線維の応答が異なる。  (ロ)空間パターン:いま、A,B,C,D,Eの5つの線維内の線維からインパルスを誘導 する。この時、食塩に対しては、%%%%で結んだ線のようにA線維がもっとも よく応答するような空間パターンを形成する。(図20-6)KClは逆でDが 一番興奮するパターン。NH4ClはKClと似たパターンをとる。 <図20−5> <図20−6>  KCl溶液を飲むと電気ショックをあたえ、KCl溶液から avidance 学習を させると,KClのみならずNH4Cl溶液もさけるようになる。しかしNaCl はさけない。このように行動的にもKClとNH4Clは似ていることがわかる。  味の上位中枢(例えば Solitary tract)でも、刺激の質に対する特異性は少ない。