１４。冠詞の有無
＝＝＝＝＝読者が主役＝＝＝＝＝
   In ¹a previous paper we proposed ²a quantum-mechanical
model calculating ³the surface energy of ⁴a LiF crystal.

¹a： 不定冠詞で始める。それは、読者が主役（著者でない）。
²a： そのモデルが読者にとって初耳の話だから。
●読者にとって未知か既知かが冠詞の選択基準である。同じ論文を次に言及する
ときは、当然 the がつく。
³the： 「LiF 結晶の」で限定。
⁴a： LiF 結晶一般を指す（crystals と複数にしてもよい）。


   ¹A platinum wire was placed at ²a distance of 11.5 cm 
from ³the orifice of ⁴the crucible.

^1,2a, a： ともに読者にとって始めてである。
●著者にとっては11.5cmという距離はそう定めた値で動かし難い。もし theを
使うと、読者がその値をあらかじめ知っているはずという響きになる。）
³③the：　ルツボと限定。
⁴④the： 既知。


＝＝＝＝＝限定・非限定＝＝＝＝＝
●名詞が定冠詞を必要とするかしないかは、その名詞を限定的に（同類間で
区別できるように）使うか、非限定的に使うかによる。

   ¹Steel of ²great strength is needed for 
³themanufacture of ⁴guns.  ⁵The steel of 
⁶the autoclave was strong enough.

¹： どのsteel かを特定しない。「of great strength」は、具体的に鋼を
限定していない。「高強度」という莫然とした意味をに付与するだけ。
²②：非限定、一般的に strength が使われている。
●前置詞+名詞（＝形容詞句、副詞句）の冠詞は省略されることが多い。
　　例： The resonance curve used as reference is of Lorentzian shape.
³③the：「銃の」と限定している。
⁴④：特定の銃を意味しない。
⁵⑤the： 「オートクレーブに用いられる」と限定された鋼。
⁶⑥the： 読者が知っている「あのオートクレー ブ」という意味。


   Before ¹immersion into ²the test solution, 
³the active surface of ⁴the sample was electropolished 
in ⁵a mixture of ⁶perchloric and ⁷acetic acids.

¹： immersion が浸すという「作業」を表す抽象名詞。
²the： 読者既知の溶液という意味。
³the： 「資料」の表面と限定されている。
⁴the： 読者既知の資料。
⁵a： 混合液が初出。
^6,7： 過塩素酸も酢酸も物質名詞。
●２つ以上の可算名詞の並列する場合、冠詞は省略されることがある。
　　区別がはっきりして誤る恐れがないとき　(例：the ship and plane）
　　二つのものが一組になっているとき　　　(例：a watch and chain)
●ある名詞では、「不可算」と「可算」の両方。
例：force, temperature 　　　　　　　　ふつう不可算名詞。
　　a strong force, low temperatures 　形容詞がつくと可算名詞。


   ¹Dynamic calibration of ²the model material showed 
³appreciable variation of ⁴stress-optical sensitivity 
with ⁵loading time.

¹： calibration（更正）が「作業」を意味しているからである。
●抽象名詞（作業・行為・現象をしめす）は冠詞を省略。
²the： は読者既知の材料という意味。
³： 変動という「現象」。
⁴： 「stress-optical sensivity」という１纏め（ユニット）の概念。
●１纏め／ユニットの概念
　　例： the depth of focus, 　　a set of electrodes
⁵： 「荷重時間」という一般的な意味の time 。
●time でも、限定的に使えば the が必要になる。
　　例：　She informed me of the time of his arrival. 


＝＝＝＝＝定冠詞の有無＝＝＝＝＝
   ¹The purpose of ²the present study is to determine 
³the  Debye temperature of CsBr.

¹the： 目的が、「本研究の」と限定されている。
²the： 最初であっても読者が題名を見てその論文を選択した以上、
本研究がまったく初耳であるはずがないという感じ。
³③the： 論文としては初出でも、「CsBr の」と限定されている。
●固有名詞（人名等）は形容詞の働きをする。
例：　the Maxwell equations, 　a Wilson seal,
　　　Penning gauges,　　　　　the Kyoto Conference
●人名＋"s"（＝所有格）で使う場合、所有代名詞と同じく冠詞をつけない。
例：　Snells law can be derived from Fermat's principle.
　　　my book　　his desk.


   ¹The second expression can be arrived at by combining 
² eqs.(9), (14)and (15).  

¹the： second という序数で 限定されている。
●名詞が形容詞の最上級や序数によって限定されるとき、必ず定冠詞を伴う。
　　　　　　　　　例：the most sensitive detector
 　　　 　　　　　　　the first law of thermodynamics
²②： (9),(14),(15)は、式の順番。
●「序列・順番」や「記号」のつく名詞は無冠詞。
  　　　　　　　　例：Table 4,　 Chapter 5, 　　specimen A.


 ¹The author wishes to thank ²the Central Reserch Fund 
of London University for ³extensive financial support for 
⁴the purchase of ⁵equipment. He is grateful also to 
⁶JSPS for ⁷a Research Grant to support 
⁸collaborative research with Professor Takagi of ⁹the 
University of Tokyo.

¹the： 既知。
²the： ³：¹⁰the： 
●大学・機関・団体を表す固有名詞は、定冠詞をつることが多い。つけない
ところもあり（習慣）。
⁷：機関名の略称
●機関名の略称は冠詞をつけない。
　　　　　　　例：UNESCO, IBM
●装置・機械の略称は必ず the をつける。
　　　　　　　例：陽子シンクロトロン the AGS
⁴： support が援助という「行為」を表す抽象名詞。
⁵the： 購入が「実験装置の」と限定。
⁶： equipment が集合名詞で非限定。
⁹： 研究という「行為」を表す抽象名詞。
⁸a：固有名詞 Research Grant の普通名詞化。
●固有名詞の普通名詞化はしばしば見られる。
  　　　　　　例　He is an Italian. 
　 　　　　　　　 Recently he bought a new Toyota. 


＝＝＝＝＝冠詞の難しさ＝＝＝＝＝
冠詞の難しさ：　平均的日本人の書く英文では、定冠詞が使われ過ぎる。
「名詞+of+名詞」には、
　　所有関係（the car of my brother）,
　　同格関係（the city of London）,
　　主格関係（the arrival of Tanaka at the court）,
　　目的関係（the picture of Mt. Fuji）,
　　部分関係（one of the students）,
　　形容詞句（the pearl of great value）
等の用法がある。
　このうち必ず the がつくのは 「of 名詞」が「前にくる名詞」を限定する同
格関係だけ。

冠詞の難しさ：　the の位置
This substantiates ¹occurrence of ²the cavity cooling 
described earlier.
　これまでに述べてきた「空洞冷却という現象」が起きる事が実証された。
This substantiates ²the occurrence of ²cavity cooling 
described earlier.
　これまでに述べてきた「空洞冷却が発生することが」が実証された。


冠詞の難しさ： 固有名詞に不定冠詞がつく例
　To overcome the major difficulties, ¹an Admiralty Ship Welding 
Committee was organized in 1943.
　軍艦溶接委員会の存在は、一般の人が知らないのは当たり前。
いきなり定冠詞が出ると、読者は、知らないのは自分だけの責任といった感じを
受ける。

冠詞の難しさ：　the をつける
 ¹The modern man reads the "Daily Post" because it keeps him 
up-to-date with the world.
　この文は「デイリーポストの広告」。man はもちろんふつう無冠詞。われわれ
すべて現代人であるから modern man。しかし、the modern man は、「デイリー
ポスト」を読むほど進歩的ではなく、old-fashioned かも知れないという響きが
伝わってくる。