第3版の序


 本書は2000年8月に初版が刊行され,2002年12月に新知見を加えて第2版を刊行,2005年1月にも部分的改訂を行った.最新の情報を盛り,読みやすくてコンパクトなテキストとして,初版以来,医学生や臨床検査医学生のみならず,感染症対策に携わる医師,検査技師,環境保健関係者などにも広くご利用いただいた.今回さらに新知見を加えて全面改訂を行うことができたのは著者たちの大きな喜びである.
 世界の寄生虫症患者数は21世紀の現在も増加の一途である.熱帯地域では寄生虫症が多くの人々の命を脅かし,健康を害し,その国の経済発展を妨げている.先進国においても輸入感染症,新興・再興感染症として大きな問題になっている.人類の生活,文化,経済活動がますますグローバル化する現在,国際社会が互いに協力して寄生虫症の流行を制圧することなしには世界の発展はない.
 わが国では寄生虫症は稀な疾患になり,医師や検査技師が日常の医療の現場で症例に遭遇する機会は著しく減ったが,根絶されたわけではないし,グローバル化した今日,多種多様な寄生虫症の輸入症例は年々増えている.医師・検査技師には,これらを見落とさず適切に対応できる能力が要求される.また,寄生虫撲滅で過去に輝かしい実績を持つ日本は,その経験を活かして国際貢献することが求められている.本テキストが寄生虫症を学ぶ人々の一助になることを期待したい.
 今回から執筆者1名が交代した.これまでご執筆いただいた平井和光鳥取大学教授(現名誉教授)に代わって後任教授である福本宗嗣が分担を引き継いだ.総論,各論は4著者がそれぞれの得意分野を分担執筆したが,各原稿について全員で意見を交換し,最新の知見と情報を加え,偏りのないわかりやすい記述となるように努めた.今回の改訂の主な点は次のとおりである.
 @総論を全面的に書き改めた.A各論はすべての分野で新知見を加えて更新し,必要な項目は新たに設け,付図の追加や差し替え,MEMOの追加や配置換えを行った.B本書の特徴であるKey WordsとMinimum Requirementsをより正確・簡潔な表現に更新した.Cインターネットで寄生虫症に関する優れた画像や最新の情報を得られるよう,国内外の主なホームページアドレスを紹介した.D診断・検査法では免疫診断法や遺伝子診断法,衛生動物調査の最新知見を追加した.E治療薬とその用法では新しい薬剤を追加し,用法と副作用の記述を更新した.また,熱帯病治療薬研究班が保管する稀用薬剤一覧と,薬剤保管機関・担当者リストも最新のものに更新した.F寄生虫学のまとめは,学習成果を簡潔にチェックできるものに全面改定した.
 貴重な資料や図版をご提供いただいた先生方に厚くお礼申し上げるとともに,第2版までご執筆いただいた平井和光名誉教授,第3版刊行にあたって多々ご尽力いただいた文光堂の嵩 恭子氏,金子弘毅氏はじめ編集企画部の各位に深謝します.

 2008年3月

上村 清
井関基弘
木村英作
福本宗嗣

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