特別講演

             

大会第1日目 7月25日(土)16:30〜17:30

好塩基球と生体防御

烏山 一 教授
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
免疫アレルギー学分野

座長 吉開泰信
(九州大・生体防御研)
要 旨
 顆粒球のひとつである好塩基球は、1879年にEhlichによって初めてその存在が記載されたが、その後長い間、好塩基球の生体内での役割・存在意義に関してほとんど解明が進んでいなかった。好塩基球は、ヒトでもマウスでも末梢血白血球のわずか0.5%を占めるに過ぎない極少血球細胞集団であり、また高親和性IgE受容体FcオRIの発現やヒスタミンを含むケミカル・メディエーターの分泌などマスト細胞との共通点が多いことから、「血中循環型マスト細胞」と揶揄されるなど、マスト細胞の陰に隠れた脇役として無視され続けてきたといっても過言ではない。一方、進化的に見ると、魚類から両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類に至るまで、広範囲の脊椎動物において好塩基球の存在が確認されており、また、マスト細胞が末梢組織中に定住しているのに対し、好塩基球は末梢血中を循環するといった解剖学的局在の違いからも、好塩基球が生体内でマスト細胞とは異なるユニークな役割を担っていることが示唆されていた。1990年代に入って、好塩基球が活性化されると即座に大量のTh2サイトカイン(IL-4やIL-13)を分泌することが報告され、注目を集めるようになったが、生体内での好塩基球の役割、存在意義は相変わらず未知のままであった。好塩基球の数が極めて少ない上に、マスト細胞の場合とは異なり、好塩基球のみを欠損する実験動物が存在しないことで、好塩基球が研究対象になりにくいという実際面での事情もあった。ところが、この数年の間に立て続けに、生体内におけるアレルギー反応や免疫応答の制御、生体防御において好塩基球が極めて重要な役割を果たしていることが報告されて、これまで日陰者扱いされていた好塩基球が一気に免疫学研究の第一線に躍り出てきた。

 本講演では、私たちが最近見いだした「好塩基球によるIgE依存性慢性アレルギー炎症の誘導ならびに終焉の機構」、「好塩基球・IgG・血小板活性化因子を介する新たな全身性アナフィラキシー・ショックの誘導機構」、「寄生虫感染防御における好塩基球の役割」を中心にして、生体内における好塩基球のユニークな役割について討議したい。

1. Karasuyama, H. et al.: Newly-discovered roles for basophils: a neglected minority gains new respect. Nat. Rev. Immunol. 9: 9-13, 2009.
2. Tsujimura, Y. et al.: Basophils play a pivotal role in immunoglobulin G- but not immunoglobulin E-mediated systemic anaphylaxis. Immunity 28: 581-589, 2008.
3. Obata, K. et al.: Basophils are essential initiators of a novel type of chronic allergic inflammation. Blood 110: 913-920, 2007.
4. Mukai, K. et al.: Basophils play a critical role in the development of IgE-mediated chronic allergic inflammation independently of T cells and mast cells. Immunity 23: 191-202, 2005.