ランチョンセミナー

大会第1日目 7月25日(土)12:00〜13:00

マラリアと酸化ストレス

河津信一郎
帯広畜産大学原虫病研究センター


座長 北   潔
(東大・院・生物医化学)


要 旨
 熱帯熱マラリアは、ヒトの4種類のマラリアのうち最も重篤な感染症で、ヒトはハマダラカの吸血によって熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)に感染する。世界人口の約半数がマラリアのリスクの下に生活しており、年間100-200万人がこの感染症によって命を落としている。

 「酸化ストレス」は生体内で生成する活性酸素群の酸化損傷力と生体内の抗酸化システムの抗酸化ポテンシャルとの差として定義され、この生体内レドックス(酸化・還元)バランスの偏りは、マラリアの重症化にも重要な役割を果たすことが知られている。例えば、マラリア患者の血液では、脂質過酸化物の増加、還元型グルタチオンの減少、カタラーゼ活性の低下、あるいはトコフェロールの低下などが観察され、これらの生体内酸化ストレスは、重症マラリア病態形成の基盤となるシークエストレーション(原虫感染赤血球の血管内皮細胞への接着現象)にも影響して、昏睡、重症貧血や呼吸障害などマラリアの臨床症状を憎悪することになる。

 一方、赤血球内に寄生し、活発なDNA合成、ヘム代謝の過程で多量の過酸化物を産生するマラリア原虫にとっても、細胞内レドックスバランスの制御は、宿主内適応、発育および増殖の成否を左右する重要なメカニズムで、その解明はマラリアの新しい制御法開発の起点になると考えられている。

 このように「酸化ストレス」は、マラリア患者の生体防御に関連して、この感染症の重症化に重要な役割を果たすと同時に、マラリア原虫自身の生体防御にも関連して、この感染症の化学療法開発の着眼点としても注目されている。今回のセミナーでは、この「マラリアと酸化ストレス」に関して、これまでに得られている知見を、私達の研究成果も交えながら紹介したいと考えている。