ここでは,ProMedで流れた感染症情報のうち,寄生虫に関連したものについて,その抄訳をお知らせするコーナーです。


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2006.12.11更新
Date: Wed 8 Dec 2006
コネチカット州でSWIMMER'S ITCH(セルカリア性皮膚炎)の集団発生
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コネチカット州公衆衛生局は10月28日に開催されたクロスカントリー競技に参加していた230名のニューイングランドの大学生が皮膚炎を起こした問題の調査を開始した。この競技はコネチカット大学の主催で,ウォータフォールドのハークネス州立記念公園で開催された。担当者は,皮膚炎の原因は「swimmer's itch」あるいは「clam digger's itch」として知られているセルカリア性皮膚炎あるいは住血吸虫性皮膚炎と呼ばれるものであり,セルカリアが水を介して皮膚から侵入することによって起きるものであると語った。

しかし,現時点では調査は完了していないし,診断も確定はしていないとLedge Light地区衛生部環境衛生部のStephen Mansfieldは話す。発疹は発赤と小さな傷口をつくり,二次感染の原因となるが,治療によく反応し,あとに傷跡も残さずに消失する。Ledge LightではWaterford と New Londonを含めいくつかの都市に公衆衛生サービスを提供していて,Harknessにも衛生担当官を派遣した。

競技の参加者はコースの途中にあった3フィートばかりのよどんだ水の中を走ったあとに発疹が出たと考えられた。水たまりはレース中に降った激しい雨と高潮によって出来,コースを整備したその朝にはなかったと女子クロスカントリーの監督で男女陸上競技監督のNed Bishopは語った。発疹の原因となった寄生虫は鳥の糞に汚染された水の中に見つかり,競技のおこなわれたこの公園の沼地には秋になると多くの水鳥がわたってくる。

おおよそ380名が参加した競技で60%以上の人に発疹が見られた。「私たちが目にしたものは一生に一度しか見ることの出来ないような不思議な出来事であった」と先の監督は話してくれた。 競技に参加したMeaghan Seelhausさんの話では,発赤はレースのあと1週間ほどして出現し,足は赤くてかゆみを持ったぶつぶつだらけになったという。「いまはもう綺麗になりました」と彼女。「まだ少し後が残っていますが,できもののようでじくじくしていました。本当にかゆくて痛かったです。怖い経験でした」

彼女は治療を受け,ステロイドを処方され,二次感染を防ぐために抗生物質も処方された。それほどひどくない症例では市販のステロイド剤で十分であるが,症状がひどい場合にはステロイドを処方してもらわなければならない。

彼女はレースに出場し,「NESCAC 発疹の犠牲者」というウェブに自分の経験を投稿した何十人もの大学生の中の一人である。そのウェブには発疹の写真も投稿されている。

Ledge Lightの担当官とコネチカット大学陸上部の監督は合同で,参加した学生の調査を始めている。その結果を大学の健康管理センターに送るよう指示している。

「swimmer's itchは夏の間にはしょっちゅう見られるもので,泳いだあとにタオルを使ってよく躰を拭けば予防することが出来る」とLedge Lightの環境衛生部長は述べた。事件同日の激しい雨のせいで,ランナーたちはレース中ずっと身体が濡れたままで,レース終了後もバスで長時間かけて自宅に戻る間中身体を乾かすことが出来なかった。


Date: Wed 7 Dec 2006
中米ジャマイカ・キングストンでの熱帯熱マラリア:旅行者への勧告
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米国CDCはジャマイカ保健省,パンアメリカ保健機構との会合のあと,最近ジャマイカで13例のマラリアが確認されたと発表した。ジャマイカはこれまで通常マラリアの伝播が起きない国だと認識されており,実際これまでCDCは米国市民に抗マラリア剤による予防内服を勧告しては来なかった。今回の流行は2006年10月に始まったと考えられている。

13症例のうち2例は子供で,ジャマイカ国民である。もう1例,10月29日から11月6日までジャマイカを旅行した米国市民もマラリアに罹患したことが確認されている。このうち11例はキングストン市に隣接する3地区に住んでおり,残り2例はキングストン市の隣のシデンハム,セントキャサリン両県に住んでした。すべて熱帯熱マラリアであった。

ジャマイカはマラリアの流行地ではないと考えられていた。今回の流行を受けて,ジャマイカ保健省はマラリアサーべーランスを強化し,蚊対策,地区住民に対する衛生教育などの対策に乗り出した。カリブ疫学センターとパンアメリカ機構,WHOは共同で保健省のこれらの対策を支援すること発表した。

抗マラリア薬
2006年12月4日までに,CDCはジャマイカ。キングストンに宿泊する旅行者に対して,マラリア予防薬の服用を勧告した。他の地域への旅行者は今回の勧告の対象ではなく,この勧告も一時的なものになると思われる。ジャマイカへの旅行者は定期的にCDCのホームページをチェックするように。

ジャマイカでの予防内服薬として勧告されているクロロキンは長い間用いられてきた実績があり,安全で子供を含めたいていの人で薬剤に対して何ら副作用がない。しかし,クロロキンにアレルギーのある人は各自の医療専門家に相談して別の抗マラリア薬について相談すること。服用量などのクロロキンに関するさらに詳しい情報については政府公報のマラリア処方薬を参照すること。

【編集部注】
ジャマイカは1966年にマラリア撲滅を宣言したが,媒介蚊であるAnopheles albimanusは恐らくなお生息している。今回のCDCの勧告からすると,ジャマイカの熱帯熱マラリアはクロロキンに対して感受性があるを思われる。しかし,我々の理解するところでは,これはまだ確認されたわけではない。今回の流行は恐らく輸入熱帯熱マラリアが原因と思われ,クロロキン耐性かそうでないかは,どこからそのマラリアが入ってきたかによって違ってくるのではなかろうか。例えば,ハイチの熱帯熱マラリアはクロロキン感受性であるが,クロロキン耐性マラリアはパナマの南部,コロンビア,アマゾン盆地で発見されている。


Date: Wed 6 Dec 2006
ジンバブエHurungwe県でビルハルツ住血吸虫症の流行
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Hurungwe県で流行しているビルハルツ住血吸虫症が他の地区へもその流行を拡大する恐れがある。この感染症はHurungwe県にあるNyama再定住施設の川や池で遊ぶ学童がよく罹患していた。現地NPO法人は3940ドルをかけてインターベンション計画を実施してきた。
国立衛生研究所の調査チームは12月3日の日曜日から調査を開始し,これまでの所,Nyama小学校の児童のほとんどが感染していることを明らかにした。現地NPOの申し立てに従って,今後さらに調査をもっと多くの感染者がいると思われる地域にまで広げることにしている。

【編集部注】
ジンバブエはビルハルツ住血吸虫の流行地で,最近の研究によると,20歳以下の女性の60%が感染しているとされる。また別の調査によれば,小学校の児童でも同じくらいの感染率を示している。流行は,感染者の発見と治療に失敗すると起こり,今回のような流行の報告はジンバブエでは住血吸虫症対策が機能していないことを示している。さらなる情報を歓迎する。


Date: Mon, 4 Dec 2006
ロシア国境豆満地区でトキソカラ症の流行
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ロシアの豆満地区でトキソカラ症の患者が増加している。

連邦消費者保護健康局地域管理庁は2006年の9ヶ月間に登録されたトキソカラ症患者が9名に上り,これは2005年の同期の1名に比べ大幅に増加したと発表した。

トキソカラ症は犬蛔虫やネコ回虫の幼虫によって起きる疾患で,その虫卵は身近な環境中にイヌやネコの糞便と共に巻散らかされている。この病気は一年中見られるが,時に土の中の虫卵がもっとも増えて,ヒトがこの虫卵に接触する機会が多くなる夏から秋にかけて最も多くなる傾向にある。

トキソカラ属虫卵は,室温では年余にわたって感染力を持ち続け,3−5歳の子供や獣医師,獣医看護師,サーカスの団員,動物園職員,衛生意識に乏しい人たち,個人地主,猟師などがトキソカラ症に罹りやすいグループである。


Date: 17 Nov 200
フランスコルシカ島で土着マラリアの発生
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2006年8月,コルシカ島で三日熱マラリアの1例が報告された。これは,1972年以来,この地方で初めて報告された土着マラリアの症例である。マラリアはフランス本土(こりしかを含めた地中海諸島も含む)では届出伝染病である。空港や港湾地域で,流行地から入ってきたかによってマラリアが流行したり輸血や臓器移植によってマラリア感染が起きた例はあるが稀であった。しかし,コルシカ島は1953年以前,あるいは1965年から1971年の間マラリアの流行地ではあった。


Date: Sun 4 Nov 2006
インドネシア東ヌサテンガラ州で数十頭のウシが鼾病のために死亡ーーSchistosoma nasale感染
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東ヌサテンガラ州のクパンの2つの地区で数十頭のウシが鼻住血吸虫症ー鼾病のために死亡したと政府関係者が語った。

Amabi Oefeto TimurとSemauの少なくとも32頭のウシが11月2日までに死亡し,他に数百頭のウシが発症していると地区担当官は語った。 そして,政府は病気が近隣地区に拡がらないように政府は緊急対策をとると述べた。

「住民は,ウシが症状を出してから数時間以内に死亡したことに非常に驚いている」と語り,クパン農業局から動物衛生担当チームがウシの治療のために派遣されたことを説明した。「感染牛はすでに治療のため他のウシから隔離されている」とこの担当官は話している。

【編集部注】
鼻住血吸虫症はウシ,ウマ,水牛の慢性疾患で,インドア大陸,東アジア,東南アジアに分布する。重症例では大量の粘液膿の排出,鼾,呼吸困難を見る。軽症例では無症状であることが多い。
原因となる寄生虫は_Schistosoma nasale_で,成虫は鼻粘膜の静脈内に寄生するが,病原性はその虫卵によっておき,粘膜の膿瘍を形成する。膿瘍は破裂し,虫卵と膿を鼻腔内に放出する。これがついには繊維化をおこす。さらに,大きな肉芽腫が鼻粘膜にしばしば形成され,鼻腔を閉塞して呼吸困難をもたらす。
今回報告された事例が本当に _S. nasale_ によるものかどうかを疑う理由はないが,もしも報道が正確ならば,経過が急激であることから,細菌性(例えば炭疽)やウイルス性(伝染性出血性疾患),何らかの中毒などの鑑別診断を行い,さらに正確な診断が行われることが必要であろう。

この寄生虫感染症はヒトには感染しない。


Archive Number 20061004.2843
04 Oct 2006
安徽省でマラリアの流行
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中国東部の安徽省でマラリアが流行している。2006年9月25日までに17917例が報告されている。去年の同時期に比べ89.8%の増加であった。安徽省北部の亳州,淮北,蘇州,蚌埠,埠陽から多くの報告があった。

この地域でのマラリア患者の報告は2000年から増え始め,地元の衛生当局は疫学モニタリングを強化するよう注意喚起を行っていた。そして,流行を抑えるために予防と治療に関する知識を住民に広めるよう指示を出した。

【編集部】
安徽省は中国国内でもマラリアの危険性の低い地域だと見なされていた。今回の症例はおそらくすべて三日熱マラリアによるものと思われる。マラリアの感染リスクが非常に低いと見なされていた地域で発生していることが問題であろう。CDCは安徽省を旅行する旅行者に予防内服を勧めてはいない。勧告をかえるためにはさらに情報が必要である。
中国のマラリア疫学マップ2001では,安徽省のマラリア発生件数は人口10万人あたり0ないし1例以下となっている。


Archive Number 20061001.2811
01 Oct 2006
北京で発生した広東住血線虫による髄膜炎
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北京で,「貝から感染する寄生虫症」の新たな症例が報告され,現在までの患者数が132例に達したことが明らかになった。31歳の男性患者が北京友愛病院で金曜日に広東住血線虫症と診断されるまでに,8箇所の病院で医者にかかっていた。

 他の患者と同様に,Shuguo Yanyi レストランで四川料理のひとつとして提供されたカタツムリ料理を食べて,7月11日に頭痛と発熱で発症した。これまで友愛病院に入院した8名の患者は回復し,来週には退院の予定であると主治医は答えた。

 この病気は寄生虫によって起こり,脳と脊髄を侵し,髄膜炎を起こす。これまでこの病院では112例の患者を診断し,6月21日以来71名が入院した。死亡したものはいない。

 感染源と思われたアマゾンカタツムリは広西荘族自治区から持ち込まれたものであった。もともとは1980年代に珍味として南米から中国にもたらされたもので,この貝による広東住血線虫症の第1例は広州から報告されている。この手の貝類は近年,北京のような大きな市場で売れ筋の海産物であった。

【編集部】 2006年8月26日のProMedへの最後の投稿では87症例が報告されていたが,その数が132例に増加している。このことはまだこの集団感染がコントロールされていないことを物語っている。


Archive Number 20060918.2658
8 Sep 2006
イノシシ肉から感染するヒトの旋毛虫症のリスクはフランスで依然として高い
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2006年初頭以来,フランス旋毛虫国立レファレンスセンターではイノシシ肉の摂食による旋毛虫症の3件の発症例を報告している。 1例はミディピレネー地方,残り2件はプロバンス地方で発生した。
1975年から今日まで,フランス国内で発症した20件の集団感染例のうち,過去6ヶ月間の発生数が有意に増加している。その特徴は以下の通りである。

★すべて猟師とその家族ないし友人が感染した。

★肉は猟師自身(あるいは家族)が調理した。即ち感染の恐れのある肉は市場には出回っていない。食肉監視員の検査を受けていない

★感染者はしばしばこのようにして自分で調理して肉を食べていた人たちで,生肉を食べたり半生の肉を焼き肉にして食べていた。

★感染肉は個人的なネットワークで配られており,どれだけのヒトが汚染肉を食べたのか調査したり残りの肉を回収することは困難であった。

★イノシシ以外にも同時に狩猟をして調理していたので,どの肉が汚染されていたかを決めるのが大変だった。


表1.1975年以降にフランス国内で発症したイノシシ肉による旋毛虫症の集団発生事例
地方別の件数(種類)

1975-1980 2 4A, 3B
1981-1985 4 5C, 13D , 39E , 3?
1986-1990 2 11F, 4G
1991-1995 6 10F (T. britovi) , 4F, 3G, 3H, 4G, 3A
1996-2000 1 4G (T. pseudospiralis)
2001-2005 2 6F (T. britovi) ,4I
2006 3 3D, 3B (T.spiralis) , 6B (T. britovi)
Total    20

A: ピレネーゾリアンタル地方, B: バール地方, C: ピレネーザトランティク地方, D: オートガロンヌ地方, E: シェール地方 F: アルプマリティム地方, G: ブーシュデュローヌ地方, H: エロー地方, I: オード地方


Archive Number 20060923.2716
23 Sep 2006
ジアルジア症,噴水(米国)
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多数の子供が水系媒介腸管寄生虫であるジアルジア症に罹り下痢や腹痛を訴えた。患児たちはカリフォルニア州オレンジ郡Tanya King通りにある公園の噴射式ジェット噴水で遊んでいた。

地元の小児科医によるジアルジア感染の報告を憂慮したオレンジ郡健康局の担当官は2週間後に噴水の検査を行ったところ,その噴水はすでに閉鎖されていたが,塩素消毒の跡がなく,藻が繁殖して汚れており,排水が適切に処理されていないことや不適切な塩素用のポンプが使われていたことが明らかになった。

郡衛生局の疫学担当官は,噴水の見ずとジアルジア感染を結びつけるためにはさらに調査が必要だと述べたが,水の検査は,コストもかかり,何十リットルもの水を濾過する必要があるので現実的ではないとも述べている。「しかし,今回ジアルジアが見つかった子供たちは確かにその噴水と何らかの摂食があったことは間違いない」と述べ,最近10ヶ月の間に整備上の問題が理由で噴水が止まった3回目におきた事例であった。

【編集部】
噴水が原因でジアルジアに感染したというProMedへの報告はこれが最初である。しかし,同じ感染経路で,サイクロスポーラの感染はすでに報告がある。ジアルジアはサイクロスポーラよりも塩素殺菌に感受性があり,塩素殺菌が不十分な場合に集団発生がおきる。もし噴水の水が上水道から引かれたものであった場合,郡の飲料水がジアルジアに汚染されていることになり,塩素殺菌が必要である。


Archive Number 20060923.2718
23 Sep 2006
これまでシャーガス病の非流行地と考えられてきたリマOxapampa州(ペルー)でのトリパノソーマ症
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8月第1週に,Oxapampa州Pozuzo地区に住む6歳の女の子がリマのSan Bartolome母子病院でシャーガス病と診断された。この子が住む地区はこれまでシャーガス病の流行地とは考えられていなかった。診断は,ペルー国立衛生研究所のシャーガス病リーシュマニア症研究室で確定された。患児は1ヶ月間発熱に苦しみ,肝脾腫があったが,シャーガス病に特徴的なシャゴーマは見られなかった。しかし,患児の血液塗抹標本には多数のTrypanosoma cruziが認められた。確定診断がつく前に患児は町の病院を訪れ診察を受けていたが,どの医者もシャーガス病だとは考えもしなかった。というのも患児が住むペルー中央森林地帯はシャーガス病の流行地と見なされていなかったからである。

Pozuzoはペルーの中央高原森林地帯(いわゆるSelva alta)の標高800mに位置し,アンデス山脈の東斜面にあり熱帯多雨気候である。この地域でシャーガス病が報告されたのはこれがまったく始めてである。

【編集部】
パンアメリカン保健機構は,シャーガス病の流行地に住む人口を60万人と推測しており,1999年に行われた献血時の検査で,0.8%の陽性者が確認されている。
今回の症例は,ペルーにおける感染リスクのある人口推計の見直しを迫るものである。