ここでは,ProMedで流れた感染症情報のうち,寄生虫に関連したものについて,その抄訳をお知らせするコーナーです。


● 成田検疫所で翻訳提供されていた情報については【こちら】をご覧ください。
● 2006年11月21日以前のProMed情報については【こちら】を参照してください。
● 本家,ProMed mailのHomepageは【ここ】です。

2012.03.06更新
Date: Fri 2 Mar 2012
イヌの眼フィラリア症
----------------------------------------------------------
イヌの眼オンコセルカ症ー米国(ニューメキシコ州):新興感染症
-----------------------------------------------------------

フィラリアの一種であるOnchocera lupiがニューメキシコ州アルバカーキーで飼育されていた犬から分離された。アルバカーキーの地元眼科獣医師が最近診断して治療した眼肉芽腫の第6例目の症例である。この病気は米国南西部で飼育されている犬では新しい新興感染症であると信じられている。

Onchocera lupiはヨーロッパのオオカミから最初に分離された。この寄生虫は、成虫の繁殖を補助する昆虫由来の細菌と共生関係にあると考えられている。媒介昆虫に刺咬されると、未成熟Onchocera lupiのミクロフィラリアが昆虫からイヌへと移行し、イヌの皮膚に定着する。そしてそのあと眼窩へと移行してゆく。

このイヌの眼には複数のOnchocera lupi成虫が集まってできた結節をみとめた。治療されずに放置されると失明の原因となる。この患犬は寄生虫の詰まった肉芽腫を2012年3月1日の手術で摘出される前に、3週間にわたってテトラサイクリンとプレドニゾロンで治療された。術後さらにプレドニゾロンと抗生剤、さらにイベルメクチン(イヌ糸状虫予防薬)を処方されている。必要ならば、抗寄生虫薬(immiticide)も投与されることになっている【下記の注釈を参照】。この薬は別種のオンコセルカによって引き起こされる人の河川盲目症の治療に使われているものと同じものであるが、イヌの眼オンコセルカ症にも効果があると考えている。

【注釈】
Immiticide (melarsomine) はイヌのフィラリア症の治療で成虫の駆虫に用いられる砒素剤であり、ヒト用の駆虫薬ではない。また、この薬は現在使用されていないか、ごく限られた目的にのみ用いられている。
-- Patricia Colley, DVM, MPVM

ブユがこのフィラリア症を媒介と考えられている。ブユは流れの速い川に生息し、患犬はニューメキシコ州北中部の流れの速いJemez Riverで昨年秋に泳いだことがあるという。O. lupiがJemez 川のブユから見つかったという報告はこれまでまかった。

患犬から摘出された虫体のDNA検査が現在行われており、ブユが本当にこの寄生虫症を媒介するかどうかについても検討されている。とりあえずは米国の山岳地方の流れの速い川沿いで飼育されているペットのイヌには、O. lupiによるイヌの河川盲目症の予防のためにフィラリア予防薬を年1回服用するのが望ましいと考える。

【編集部のコメント】
この寄生虫症がブユと関連しているとするなら興味深い。しかし、米国のどこに住んでいようと年1回のフィラリア予防薬の投与はすべきである。このような投薬によってペットの健康によって飼い主の不快感や潜在的な死のリスクが左右されることがないようにつとめなければならない。比較的寒冷な土地に住んでいたとしても蚊は暖かい地下室や建物を好む。筆者はかつて米国北部の建物の中で冬の蚊に刺されたことがある。結論としては、フィラリアに限らずO. lupiの予防のためにもイヌは年1回は治療を受けるべきである。

過去数十年にわたり、世界中からイヌの眼オンコセルカ症の症例が報告されている。特に米国や欧州では人のオンコセルカ症も報告されている。最初オオカミから報告されたO. lupiはこのような人の症例と関連すると考えられており、その人獣共通感染症としての役割が、2例のヒトの眼オンコセルカ症の再検討をもとに仮説として取り上げられてきた。摘出された寄生虫は形態学的な検査とcおx1と12S rDNAの遺伝子検査によってO. lupiと同定された。このことから、ヒトの感染症でも鑑別診断としてO. lupiを考慮しなければならないことが明らかになった。O. lupiによる人獣共通寄生虫症の自然宿主としてのイヌの役割や媒介昆虫についてさらに調査が必要である。