ここでは,ProMedで流れた感染症情報のうち,寄生虫に関連したものについて,その抄訳をお知らせするコーナーです。


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2007.8.22更新
Date: Tue 21 Aug 2007
サファリキャンプで発生した住血吸虫症(タンザニア・エヤシ湖)
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国際旅行者医学会の疾病サーベイランスプログラムGeoSentinelは,タンザニアのエヤシ湖近くのテントキャンプホテルにある遊泳用人造池で旅行者が罹患した急性の住血吸虫症が発生していると報告している。

この池の水が住血吸虫の病原体に汚染されていたらしく,余り特徴的でない症状を見せたり,原因不明あるいは無症状のまま正しく診断されない旅行者が自分の国に帰国しているかもしれない。

Eli Schwartz医師 (ISR Geosentinel Site)によれば,タンザニアのサファリ旅行に参加した2組合計28人のイスラエル人が,2007年4月にEyasi湖近くのKisima Ngedaでテントを張って一晩過ごした。Eyasi湖は塩水湖で住血吸虫は塩水中では生存できない。しかし,ホテルにあった淡水の池の周りには植物が繁茂しており,病気になった旅行者の話では貝もいたという。28名のうち3名を除く全員がたった一度だけ30分から1時間ほどその池で泳いだ。このとき以外に淡水に暴露された可能性はなく,2名のイスラエル人ガイドを除いてそれまで誰もアフリカを旅行したことはなかったということであった。

最初の患者が我々のクリニックを訪れたのは,彼らが帰国して4週間ばかり経って,2,3日の発熱,蕁麻疹,が見られたあとであった。そのあと咳嗽が見られ,好酸球増多も確認された。急性の住血吸虫症と診断され,残りの人たちも診察を受けた。池で泳いだ25名中23名が血清学的に感染していると診断された。血清学的診断は米国CDCで実施されウエスタンブロットでは大部分の人がマンソン住血吸虫の感染であったが,2名の患者ではマンソン住血吸虫とビルハルツ住血吸虫の両方に陽性反応を示した。

23名中17名(74%)に何らかの症状が見られた。2名のガイド(二人とも重症であった)によれば,これまで何年にもわたってこのホテルを利用してきたがこれまでは何の問題もなかったという。1週間前にこのホテルに宿泊した1家族6名のうち,3名がやはり同じような症状を呈し,現在検査中である。

ミュンヘン大学のProf. Dr. Frank von Sonnenburg (MUC GeoSentinel Site )の報告では,2007年5月にひとりのジャーナリストが病院を訪れた。彼女は2ヶ月におよぶアフリカ旅行中に一度だけ高熱を発し,マラリア陰性であったので通常の抗生物質の服用で治療したということであった。来院時,臨床的には健康そうであったが,17%の好酸球増多症が見られ,直腸擦過物の検査で多数のマンソン住血吸虫卵が検出された。旅行中,Kisima Ngedaで宿泊したときにプールに入った以外淡水に接触した記憶はないといっている。現在我々は,過去2週間にタンザニアに旅行したドイツ人旅行者に異常がないかどうかを調査しているところである。

ホテルのホームページによれば,キャンプ地は以前農地であったところで,トイレは殺菌処理をして排水しているとのことである。排水設備に不具合があった可能性がある。

【編集部】
旅行者が同じような感染源に暴露されて住血吸虫症に感染したという報告はこれまでにもいくつかある。

多くの場合感染しても症状に乏しいが,好酸球増多や総IgEが上昇している一部の患者では住血吸虫特異的抗体を検出することによって感染を裏付けることが出来る。特異抗体が産生されるには数ヶ月かかることがあるので,抗体検査は帰国後数週間目に検査して仮に陰性であったとしても,少なくても2ヶ月後にもう一度検査すべきである。