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One for All, All for Oneの精神で、
産婦人科学の連携と協働を推し進めます

東京医科歯科大学生殖機能協関学分野(周産・女性診療科)は、昭和19年に藤井久四郎初代産科婦人科学教室教授により開講され、第二代の斎藤幹教授、第三代の麻生武志教授、第四代の久保田俊郎教授と引き継がれ、平成28年8月から私が第五代教授としてそのバトンを受け継ぐことになりました。

産婦人科学は二つの個体からもう一つの新しい個体が発生する生殖医療に始まり(生殖内分泌医学)、母児が命がけで臨む出産の現場に立ち会い(周産期医学)、加齢とともに生じる女性特有の問題を解決し(女性医学)、女性生殖器に発生する様々な腫瘍と対峙する(婦人科腫瘍学)など、女性の一生に幅広く関わる診療科です。
私どもの教室は開講以来70余年、それぞれの領域で活発な臨床および研究活動を行って参りました。生殖内分泌領域は藤井久四郎初代教授から続く、当教室で最も伝統ある分野で、子宮内膜、卵巣顆粒膜細胞、卵子、精子、受精卵、およびこれらの関連性について、数多くの研究成果を発表してきました。また臨床においては先進的な生殖補助医療を駆使した難治性不妊症の治療、さらに最近は悪性疾患治療女性の卵子凍結保存などにおいても良好な治療成績をおさめております。
周産期領域は先代の久保田俊郎教授の時代に大改革がもたらされ、現在では東京都地域周産期母子医療センターとして多くのハイリスク妊娠を取り扱う中核施設に成長いたしました。胎児新生児の脳障害の病態生理や子宮筋収縮メカニズムなどの基礎研究と同時に、様々な偶発合併症を有する女性の妊娠分娩管理に関する臨床研究などが精力的に行われております。
女性医学領域は、斎藤幹教授の時代に発足した更年期医学研究会に始まり、麻生武志教授の時代に更年期医学会の中核として国際閉経学会を主宰するまでに成長し、久保田俊郎教授の時代にはさらに対象を広げた女性医学学会に発展した当教室の看板分野です。脂質代謝、骨代謝、動脈硬化などの基礎研究のみならず、生活習慣や食と栄養の観点から、女性のクオリティオブライフ向上を目指す臨床研究が活発に行われております。
婦人科腫瘍領域は若手産婦人科医に最も人気のある分野の1つで、これまでも基礎の教室との共同研究で優れた業績を挙げ、臨床においても集学的治療により良好な治療成績をおさめてきましたが、現在多くの若手医師が癌専門研修施設で修練を行っており、今後ますますの発展が望める分野と言えます。

今後この伝統を継承しさらに発展させて行くためのキーワードとして、「連携と協働」を挙げたいと思います。1つは産婦人科内のsubspecialty間の連携と協働です。生殖医療と周産期医療が密接に関連することは言うまでもありませんが、近年注目されている成人病胎児起源説(Developmental Origin of Health and Disease, DOHaD学説)によれば、生殖医療および周産期医療は、女性医学で取り扱う病態・疾患の発生に大きく関与していることになります。この学説を検証しつつそのメカニズムを解明することは、超高齢社会を迎えた本邦で先制医療を実現するために必要不可欠なテーマといえます。また悪性腫瘍治療後のいわゆる癌サバイバーのクオリティオブライフの向上には、婦人科腫瘍領域と女性医学領域の連携が重要となります。さらに近年の内視鏡手術やロボット手術の発達による手術療法の低侵襲化は、婦人科悪性腫瘍の分野にも今以上に導入して行く必要があり、その点で婦人科腫瘍領域と内視鏡手術領域の連携が重要となります。
当教室の強みは、産婦人科学におけるこれらのsubspecialtyのエキスパートが揃っていることであり、この力を結集してさらなる発展を推進したいと思っております。2つ目に挙げたいのは、他診療科や他大学、他学部との連携です。現在のように医学が高度化してくると、1つの分野で完結できる仕事は多くありません。私自身はこれまで、核磁気共鳴医学の研究をして参りましたが、その中で痛切に感じたのは医学工学連携の重要性でした。幸いなことに本学には、難治疾患研究所や生体材料研究所など優れた研究施設を併設しておりますので、是非これらの先生方と連携し指導を仰ぎながら、当教室の研究を推進して行きたいと思っております。

最後に、教育関連病院との連携を挙げたいと思います。
全国的に産婦人科医の減少に歯止めがかからず、地域偏在がますます深刻になってきている現在、若い医師を産婦人科にリクルートし養成することは、大学病院の最も重要な責務の一つと言えます。単に知識と技術を教えるのみでなく、医療安全、患者対応、医療の社会性を含めた医学教育を行い、チーム医療の推進とそのリーダーシップを発揮できる医師を養成する必要があります。さらに、臨床経験の中からリサーチマインドを涵養し、優れた医学研究者を養成することも重要です。そのためには、若手医師を単なる労働力として捉えるのではなく、大学と教育関連病院が強固に連携し、どのような産婦人科医を養成するかという共通目標を持って協働しなければならないと思っております。

私は学生時代、ラグビー部の所属しておりましたが、入部して先輩から最初に教えられた言葉は、one for all, all for one(一人が皆のために、皆が一人のために)でした。教室員、関連病院の先生方の力を結集し、先輩方の指導を仰ぎながら教室の発展に努めたいと思っております。

平成28年11月1日
生殖機能協関学分野教授
宮坂 尚幸