現在、エイズおよびHIV感染症の治療法としては逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻剤を2,3剤用いるhighly active
anti-retroviral therapy (HAART)が一般に用いられており、多大な成功を収めている。しかし、治療費が高い、副作用がある、耐性ウイルスが生じやすい等の問題点もあり、他の作用点の薬も徐々に臨床に登場してきている。いずれの作用機序を持つ抗HIV剤も根治に至るものではないので、創薬化学者には薬剤のレパートリーを増やすことが求められている。我々は以前からコレセプターCXCR4阻害剤を中心に、抗HIV剤を創製してきた。また、コンビナトリアル設計に基づくプロテアーゼ阻害剤の創製や、他の侵入阻害剤や中和抗体等との併用を考えたCD4 mimicの創製も行っている。これらは、すべて標的分子設定型のリバースケミカルジェネティクス的手法により創出されたものである。さらに、ランダムライブラリーから抗HIV活性を指標にスクリーニングするというフォワードケミカルジェネティクス的手法を用い、有用なリード化合物(インテグラーゼ阻害剤)も見出した。このようにケミカルバイオロジー的方法も取り入れ、いろいろな視点観点からリード化合物を探索し、これらをもとに種々の抗HIV剤の創製研究を行っている。また、最近再度注目されてきたエイズワクチンに関しても、HIV侵入の動的超分子機構が明らかになる以前はターゲットになっていなかった3箇所を標的とし、また、ペプチドミメティクの合成技術を活用し、抗原分子を作製している。阻害剤およびワクチンの両方に力を入れており、これらはカクテル療法を視野にいれた抗エイズ薬の創製研究に有用であると思われる。
ペプチドミメティックを基盤とした阻害剤と新規概念によるワクチン
玉村啓和、野村 渉、鳴海哲夫、田中智博、駒野 淳、山本直樹