1.フォワードケミカルジェネティクスを応用した

HIVインテグラーゼ阻害剤の創製

 

Development of HIV Integrase Inhibitors Based on Forward Chemical Genetics

 

中西 勇太1,2)、堤 浩1)、駒野 淳3)、田中 智博1)、中原 徹1,2)、大橋 南美1)、野村 渉1)、山本 直樹3)、○玉村 啓和1,2)

Yuta Nakanishi, 1,2) Hiroshi Tsutsumi, 1) Atsushi Komano, 3) Tomohiro Tanaka, 1) Toru Nakahara, 1,2) Nami Ohashi, 1) Wataru Nomura, 1) Naoki Yamamoto, 3) Hirokazu Tamamura, 1,2)

1)東京医歯大・生材研、2)東京医歯大・疾患生命、3)国立感染研・エイズ研

1) Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University, 2) School of Medical Science, Tokyo Medical and Dental University, 3) AIDS Research Center, National Institute of Infectious Diseases

 

 AIDS治療薬としては逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤を2, 3剤併用する療法HAARTが成果をあげているが、耐性ウイルスの出現や副作用などの問題により新規の阻害機序を持つ薬の開発が急務となっている。そういった中で、膜融合阻害剤やコレセプターCCR5の阻害剤、インテグラーゼ阻害剤等も登場してきており、抗エイズ薬のレパートリーは年々着実に増えてきおり、これらはエイズ患者の延命効果に貢献すると思われる。これまで開発されてきた抗エイズ薬はターゲット設定型の創薬研究でうまれたものがほとんどである。そこで我々は、今までの概念を全く切り換えて、フォワードケミカルジェネティクスを活用し、ランダムライブラリーから目的活性を持った化合物、すなわち抗エイズ薬を見つけるという手法を応用した。その結果、今回ペプチド性インテグラーゼ阻害剤をHIVの遺伝子産物から見出すことに成功した。

 我々は、HIV遺伝子産物であるタンパク質由来のアミノ酸配列をもとにしたオーバーラッピングペプチドライブラリー(アミノ酸1017残基)から、in vitroにおいて阻害活性を有する化合物を探索した。その結果、HIV自身が有するアクセサリータンパク質であるVpr由来の部分ペプチドライブラリーからインテグラーゼ阻害ペプチドを同定した。そこで、インテグラーゼは細胞内で作用するので、これらのペプチドに細胞膜透過モチーフペプチドであるocta-arginineを付加することで細胞膜透過性を付与させ、cellを用いた抗HIV活性の検討も行った結果、HIV複製を抑制した。今回はさらにアミノ酸置換を含む構造活性相関によりさらに高活性ペプチドを得ることができた。このペプチドは新たな抗HIV治療薬のリード化合物として期待できる。

 

 

2.光機能性リガンドを用いたプロテインキナーゼCの活性化制御

 

Spatio-temporal Activation of Protein Kinase C by a Photoactivatable Ligand

 

野村 渉1), 芹澤 雄樹1, 2), 大橋 南美1, 2), Nancy E. Lewin3), 堤 浩1), 吉田 清嗣4), Peter M. Blumberg3), 古田 寿昭1, 5), 玉村 啓和1, 2)

Wataru Nomura1), Yuki Serizawa1, 2), Nami Ohashi1, 2), Nancy E. Lewin3), Hiroshi Tsutsumi1), Kiyotsugu Yoshida4), Peter M. Blumberg3), Toshiaki Furuta1, 5), Hirokazu Tamamura1, 2)

1)東京医科歯科大学 生体材料工学研究所, 2)東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科, 3)Laboratory of Cancer Biology and Genetics, NCI, National Institutes of Health, 4)東京医科歯科大学 難治疾患研究所, 5)東邦大学 理学部

1)Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University, 2)School of

Medical Science, Tokyo Medical and Dental University, 3)Laboratory of Cancer Biology and Genetics, NCI, National Institute for Health, 4)Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University, 5)Department of Biomolecular Science, Toho University

 

プロテインキナーゼCPKC)はジアシルグリセロール(DAG)をセカンドメッセンジャーとするセリン・スレオニン特異的リン酸化酵素であり, がんやアルツハイマー病の治療薬創製の標的酵素として注目されている。演者らはケージド基で保護したPKC特異的リガンドを創製し, 紫外光照射によるPKC活性化の時間・空間的な制御を試みた。DAGを環化することによって結合活性を上昇させたDAGラクトンの重要なファーマコフォアであるOH基を6-Bromo-7-methoxycoumarinBmc)(光分解性保護基)により保護したケージドDAGラクトン誘導体を合成した。ケージドDAGラクトンを緩衝液中で紫外光照射し, Bmc基の脱保護, 及びDAGラクトンの出現をHPLC分析により確認した。また, その結果から分解反応の量子収率等を算出した。ケージドDAG-ラクトンのPKCd活性化能について, 試験管内での3H[PDBu](ホルボールエステル)との競合阻害活性, リン酸化アッセイ, およびCHO-K1細胞内におけるGFP融合PKCdの細胞内局在変化によって検討した。その結果, ケージドDAGラクトンはいずれの場合もPKCdに対する結合活性, 活性化能を持たず, 紫外光照射によってケージド基を脱保護した場合においてのみPKCdに対する結合活性を出現させ, 活性化も行うことが確認された。以上のことから, ケージドDAGラクトンへの紫外光照射による脱保護, それに伴う結合活性の回復を用いてPKCdの活性化を時間・空間的に制御できる可能性が示された。

 

 

 

3.新規タグ-プローブシステムの開発とタンパク質蛍光イメージングへの応用

 

Development and Application of a New Tag-Probe System for the Fluorescent Imaging of Proteins

 

○堤 浩1・阿部 清一朗1,2・蓑 友明1,2・野村 渉1・玉村 啓和1,2

Hiroshi Tsutsumi1, Seiichiro Abe1,2, Tomoaki Mino1,2, Wataru Nomura1, Hirokazu Tamamura1,2

東京医科歯科大学 1生体材料工学研究所 2大学院疾患生命科学研究部

1Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University, 2School of Biomedical Science, Tokyo Medical and Dental University

 

緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)に代表される蛍光プローブは、細胞中のタンパク質を蛍光イメージングするためのツールとして非常に有用である。近年、遺伝子工学的に標的タンパク質にタグとなるペプチドあるいはタンパク質を付加し、タグ特異的に結合する蛍光性プローブ分子を用いて標的タンパク質を蛍光ラベル化する方法が新たに提唱され、さまざまなタグ-プローブ分子ペアの開発が精力的に行われている。これらのタグ-プローブペアは、翻訳後の任意の時間に種々の蛍光プローブ分子を作用させることにより標的タンパク質の時空間的な「染め分け」を可能とすることから、パルスチェイス実験などにおいて有用なツールとなると期待されている。我々は、これまでにロイシンジッパーペプチドの特性を利用し、タグとの結合に伴ってプローブの蛍光波長および蛍光強度が顕著に変化する新規の蛍光変化型タグ-プローブペア(ZIPタグ-プローブペア)の開発を行ってきた。ZIPタグ-プローブペアはループにより連結した逆平行2本鎖のa-ヘリックスペプチドタグと、親水/疎水の環境に応答して蛍光波長と蛍光強度が変化する蛍光色素である4-Nitrobenzo-2-oxa-1,3-diazole (NBD)を有する1本鎖a-ヘリックスペプチドプローブから構成されている。蛍光滴定実験の結果、このZIPタグ-プローブペアは抗原-抗体反応に匹敵する結合親和性を有し、3本鎖のロイシンジッパー構造を形成したときにNBDがロイシンジッパー構造内部の疎水性コアに選択的に配置されることにより、30 nm以上の蛍光波長シフトと18以上の蛍光強度の増大を示す。これによりタグ-プローブ複合体と遊離のプローブの識別が容易になり、ZIPタグ-プローブペアは洗浄操作が不要なタンパク質イメージングツールであると考えられる。本研究ではZIPタグ-プローブペアを用い、膜タンパク質の一つであるCXCR4の蛍光イメージングに成功したので報告する。また、NBDに代わる蛍光色素として7-Diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid (DEAC)を導入したZIPタグ-プローブペアは、結合に伴って50倍以上の蛍光強度増大を示すことも明らかとなったので、これらの詳細について本発表であわせて報告する。

4..蛍光性 diacylglycerol-lactone 誘導体の合成と機能評価

 

Synthesis and Evaluation of Fluorescent Diacylglycerol-lactone Derivatives

 

○大橋南美1、奥田善章1,2)、野村 渉1)、堤 浩1、芹澤雄樹1、伊倉貞吉2)、伊藤暢聡2)、吉田清嗣3)Nancy E. Lewin4)Peter M. Blumberg4)、玉村啓和1,2)

Nami Ohashi, 2) Yoshiaki Okuda, 1,2) Wataru Nomura, 1) Hiroshi Tsutsumi, 1) Yuki Serizawa, 1) Teikichi Ikura, 2) Nobutoshi Ito, 2) Kiyotsugu Yoshida, 3) Nancy E. Lewin, 4) Peter M. Blumberg, 4)  Hirokazu Tamamura, 1,2)

1) 東京医科歯科大学・生体材料工学研究所、 2) 東京医科歯科大学・疾患生命科学研究部、 3) 東京医科歯科大学・難治疾患研究所、 4) Laboratory of Cancer Biology and Genetics, Center for Cancer Research, NCI, NIH

1) Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University, 2) School of Biomedical Science, Tokyo Medical and Dental University, 3) Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University, 4) Laboratory of Cancer Biology and Genetics, Center for Cancer Research, NCI, NIH

 

Protein kinase C (PKC)は、セリン/スレオニン特異的なリン酸化酵素であり、細胞内シグナル伝達系において重要な役割を果たしている。PKCが持っているC1bドメインは、シグナル伝達系のセカンドメッセンジャーとしてはたらくdiacylglycerol (DAG)の結合標的部位である。このC1bドメインは、腫瘍プロモーターの結合部位でもあり、がん治療薬創製のターゲットとして注目されている。

当研究室では、Marquezらによって開発された方法に基づき、天然のリガンドであるDAGの誘導体を環化することにより、DAG-γ-lactone誘導体を合成している。これらのPKCへの結合活性は、放射性同位体(RI)でラベル化された[20-3H]PDBuをプローブとした競合結合阻害アッセイを用いて評価している。

本研究では、DAG-lactone誘導体のR1またはR2に蛍光基を導入した蛍光性DAG-lactone誘導体を合成し、[20-3H]PDBuに代わる競合プローブの開発を行った(Fig.1)。この蛍光性DAG-lactonePKC-C1bドメインとの結合に伴って蛍光変化を生じた(Fig.1a)ので、その結果リガンド候補品の競合的結合を蛍光変化として検出することができた (Fig.1b)。この方法では、RIアッセイでは必要な余剰プローブ除去操作が不要あり、[20-3H]PDBuにかわる有用なスクリーニングプローブとして期待される。