日本薬学会関東支部 第22回シンポジウム
場所:日本薬学会長井記念館長井記念ホール
日時:2008年11月15日
抗HIV剤を中心とした創薬基礎研究
玉村 啓和
HIV感染症およびAIDSの治療法としては、現在逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤を2,3剤用いるhighly active
anti-retroviral therapy (HAART)が一般に用いられており、多大な成功を収めている。しかし、副作用がある、耐性ウイルスが生じる等の問題点もあり、他の作用点の薬も米国では徐々に臨床に登場してきている。いずれの作用機序を持つ抗HIV剤も根治に至るものではないので、創薬化学者には薬剤のレパートリーを増やすことが求められている。また、最近HIVが標的細胞に侵入する時の動的超分子機構が徐々に解明されてきており、HIV表面蛋白質gp120やgp41が細胞表面の蛋白質(レセプター)CD4やコレセプターCCR5/CXCR4と、ダイナミックな構造変化を伴う相互作用をしていることがわかってきた。そこで、我々はCXCR4阻害剤を中心に、HIV侵入阻害剤を創製している。また、低分子型CD4 mimicの創製も行い、侵入阻害活性を示すだけでなく、gp120に対する顕著なフォメーション変化を誘起する化合物を見出した。これらCD4 mimicは、コレセプター阻害剤や中和抗体等の作用を増強し、その併用において抗HIV活性の相乗効果を示した。このように、HIV侵入の動的超分子機構をターゲットとし、このステップを複数の作用点でブロックすることの有用性が示唆された。さらに、既存のカテゴリーの薬剤に関しても、コンビナトリアル設計に基づくプロテアーゼ阻害剤の創製等を行っており、多剤耐性ウイルスにも有効な阻害剤を見出している。これらは、すべて標的分子設定型のリバースケミカルジェネティクス的手法により創出されたものである。さらに、最近ランダムライブラリーから抗HIV活性を指標にスクリーニングするというフォワードケミカルジェネティクス的手法を用い、有用なリード化合物(インテグラーゼ阻害剤)も見出した。このようにケミカルバイオロジー的方法も取り入れ、いろいろな視点、観点からリード化合物を探索し、これらをもとに種々の抗HIV剤の創製研究を行っている。これらはカクテル療法を視野にいれた抗エイズ薬の創製研究に有用であると思われる。