81st IBB Seminar
講師:野水基義教授
東京薬科大学薬学部 病態生化学教室
日時:平成20年1月24日(木)
会場:東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
Abstract: 多細胞動物は、細胞同士あるいは細胞外マトリックスと接着することにより、組織、臓器といった高次の構造を構築し、単一の細胞では営むことのできない高次の機能を発現する。インテグリン、ラミニン、コラーゲンといった細胞接着に関連した分子群は、接着という物理的な活性のみならず、細胞に対して多彩な働きかけを行い、組織の発生や再生といった生命現象に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。病態においても、細胞接着分子は、癌の浸潤・転移、肝硬変をはじめとする繊維化疾患、血管新生などに深く関与しており、近い将来人類が克服すべき疾患に対する治療薬開発のターゲットとなりうる。さらに、ラミニンやフィブロネクチン由来の細胞接着活性ペプチドが数多く発見されてきており、DDSや再生医療へむけた応用研究に進展しつつある。しかし一方で、細胞接着活性を示す分子は、巨大な細胞外マトリックスタンパク質を主要な構成成分とし、形態、活性ともに多様である。したがって、「細胞接着分子から創薬へ」という研究の流れには、酵素やレセプターに対する阻害剤の探索が主流をなしている今日の創薬研究とは異なった視点とストラテジーが要求される。
本講義では、細胞接着分子の中でも特に基底膜の中心的役割を担っているラミニンに焦点を当て、ラミニン分子の構造、生物活性部位(ペプチド)の探索とその構造的意義、活性部位のペプチドを用いた再生医療などの医薬分野への応用について演者らの研究を中心に概説し、「細胞接着分子から創薬へ」という課題への取り組みを紹介する。