生体材料の研究になぜ金属が?とお思いになられる方は少なくないと思われる。
なぜなら、「生体」と「金属」という言葉の間には、「温かく、軟らかい」と「冷たく、硬い」という、相容れない対義語的な印象の違いがあることに加え、人間の中には金属イオンはあっても固まりは不要では?と考えるからであろう。
ところが、金属は生体内で数多く使用され、事故や病気、加齢によって失われた機能回復のために大きく貢献している。例えば「チタン」という金属は、歯科用人工歯根や人工股関節を構成する金属として使用されている。その結果、食事や歩行が困難になった方がその機能を回復し、再び笑みを取りもどすことができる。すなわち、「金属」も「やさしく、温かい」ものとなる。
近年の医療の高度化には、医療用器具を始め、ステント、X線造影性、MRI対応等の新規医療用金属材料の開発が必要不可欠となっている。これらの材料開発は、これまでの工業材料中心の材料開発とは大きく異なり、医療の現場と密接な関連をもちながら材料開発を行う必要があることを意味している。それゆえ、医療用材料の開発には金属を始めとした材料選択はもとより、材料から生体への直接的な作用、さらに検査を含めた医療システムへの影響も考慮する必要がある。
上記の問題は複雑であり、これらの解決に万能な金属はない。どちらかといえば縁の下の力持ち的な存在だが、その役割は大きい。この私たちの生活に「やさしさ、温かさ」を与える広義の生体用金属材料を、私たちと共に研究しませんか?