研究は探検に似ている.
昔,探検家は未知の大陸や,北極・南極,黄金郷を目指して旅に出た.ある者は目的地に到達し名誉と富を手に入れることができたが,多くの者は遭難し,挫折し,名前を残さず消えていった.今日では,地球上には探検に値する場所はほとんどなくなってしまったが,生命の原理,未知の遺伝子,画期的な新薬,新材料,人工臓器を目指して,研究者は探検の旅に出る.
1911年,イギリスのスコット隊は南極点1番乗りを目指して,最新鋭の雪上車をとともに出発した.しかし,犬ぞりを使ったノルウェーのアムンゼン隊に先を越され,失意の内に帰路についたが,遭難し全滅した.研究という探検では命を落とす危険はほとんどないが,人生を,あるいは人生のある期間を,無駄にするリスクはある.
1915年,南極大陸横断を目指したシャックルトン隊は,氷に阻まれて命綱の船を失い,徒歩と救命用の小舟で2年間近く極寒の中を漂流した後,全員が無事に生還した.このシャックルトンが隊員を募集するために出したといわれる有名な新聞広告がある.
「求む男子.至難の旅.僅かな報酬.極寒.暗黒の長い日々.絶えざる危険.生還の保障なし.成功の暁には名誉と賞賛を得る.」
現代の探検である研究を目指す人たちにも,同じような募集広告が相応しい.
「求む男女.困難で長い道のり.無報酬・要学費.将来の保証なし.成功の暁には名誉と学位を得る.」