学生時代に、ある経済学者(河合榮冶郎さん)が書いた本に書かれていた言葉が忘れられない。内容はたしか「経済学、経済政策という学問は、社会をいかにして理想社会に近づけるかという方法論を教える学問である。しかし、経済学をいくら勉強しても、何が幸福であり理想社会であるかを教えてくれることは無い。これを教えてくれるのは経済学ではなく、人々の理想であり哲学である。この理想を実現するための方法論が経済学である。」というものであったかと思う。 大学という環境とわたしたちとのあり方にも、同じことが言えるのではないだろうか。 大学で学ぶ者たちが「何を求め、目指すのか」、これ自体は、大学が与えてくれるものではなく、各人が自分自身の人生のさまざまな経験の中で考え追い求めるものであり、大学の役割とは、自分自身で進もうとする人々に、この「探求心」そのものをさらに育み、自分自身で見つける手助けをする教養教育と、各人の目標に向かってどのように進んでゆくのか、その「方法」を授ける専門教育を提供する場所であるべきなのであろう。つまり大学で学ぶときに真に重要なことは各人の自主的な向上心であって、その向上心が無ければどのように恵まれた環境であっても無意味であろうし、逆に「自分の力で進もうという志」を持ってすれば、どのような環境であっても何かしら学ぶことができるはずであるということである。
そして大学とは、各人が自分自身で「自分がどうなりたいのか」を十分に考えるとき、「いかにして」その目標を実現してゆくのに最大限の効果を産み出す、さまざまな機会を提供してくれるものとならなければならないのであろう。これは特定の講座が用意されているというより、むしろ分野の枠にはまらないで未知の分野に踏み込んでゆく各人の柔軟性が重要になってゆくものであろう。生体材料工学研究所の特長である研究に集中できる環境で、私の夢、学生の皆さんのさまざまな「夢」や「目標」を一緒に分かち合って、道なき道を模索しながら、ひとつづつ前進してゆきたいと思っている。 大学で学ぶ学生の皆さん、ぜひ「目標」は自分自身で見つけるものであって与えられるものではないことを十分に理解して、世界でただひとつの自分だけの夢を実現するべく一緒に大学で切磋琢磨してゆきましょう。