これは私が助手になりたての頃つまり35年も前であるが、ボスであったロボット工学のパイオニア、森 政弘先生からうかがった話である。研究者は専門領域では狭くても深く、その道を極めなければならない。これをイメージで表現すると“T”の縦棒となる。いっぽう“T”の横棒は、幅広い関連領域への関心と知識を表す。優れた研究者となるにはこの両者が必要であるというお話であった。 学問は時代が進むにしたがってますます細分化され、関連領域でも少し距離があるとなかなか理解しにくいという状況になっている。また特に若い研究者で精力的に自分のテーマで研究を進めている場合は、いくら時間があっても足りなくて、とても他の領域までは関心をもてないということも自然なことである。しかし研究が暗礁に乗り上げたように見えたとき、幅広い関連領域への関心と知識は何かのヒントを与えてくれるかもしれない。また長い研究生活において研究テーマは少しづつ、時には大きく変わっていくのが普通である。そのような時にも、きっと大きな助けになると思われる。