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森口 裕之


研究内容/論文・解説学会発表
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図1

研究内容(題名)

   多細胞生物を見るときに、その生物体を構成する細胞集団が、器官、そして一個体としての生理的機能を発揮するには、個々の細胞がそれぞれ特有の機能を担うだけでなく、細胞が集団として機能的な空間配置やネットワークパターンを構成することが必要であり、多細胞生物体の発生・進化および現在そして未来について考える際には、そのような細胞集団の空間配置やネットワークパターン、つまり「細胞集団のトポグラフィー」、が担う機能がどういうものであるか、ということに関する理解が必要になってくる、という考え方ができると思います。
  例えば、我々ヒトの脳は約一千億個もの多種類の神経細胞によって構成される極めて複雑な細胞ネットワークの集合体として、ヒトの一生の間常に変化し続ける多様な「記憶」機能を、細胞数を大きく変化させることなしに実現していると考えられています。そのような脳の記憶機能は、個々の細胞・シナプスレベルの可塑性に加え、ネットッワークパターン自体の可塑性も重要な役割を果たしているのではないかという考え方があります。また、脳のようにすでにある程度まで形態形成が終了した組織においてのみならず、多細胞生物が受精卵から個体へ発生するときのような細胞数の急激な増加が伴う場合のダイナミクスについても、未分化な細胞がその位置情報やマトリクス、他の細胞との相互作用の変化に依存して分裂し分化したり分化因子を分泌したり時にはアポトーシスを起こしたりすることによって新たなトポグラフィーを決定し、そのトポグラフィーがまた個々の細胞の分化に影響を与える、そしてそのような個々の細胞の状態と細胞集団のトポグラフィーの間での継続的な相互作用があってはじめて機能的な細胞種で構成された機能的な3次元構造を持つ器官が形成される、という図式で捉えることができると考えます。
  そしてここに2つの生物学的な疑問と、1つの方法論的疑問が湧いてきます。細胞集団はどのようなメカニズムで機能的なトポグラフィーを形成するのか?そして、形成されたトポグラフィーはどのようなメカニズムでその機能を実現するのだろうか?また、そのようなメカニズムを明らかにするには、どのような実験が要請されるだろうか?という疑問です。
  細胞集団のトポグラフィー形成のメカニズムに関しては、分子レベル・細胞レベルから組織・個体レベルに至るまでの様々な階層で生体分子の動態に注目した研究が盛んに進められてきました。その結果として近年は、器官や個体の設計図であるゲノムが担うジェネティックな要素と二次的に生じるエピジェネティックな要素が、ある程度切り離されて機能しており、時にはゲノム情報に全く依存しない「自己組織化」と呼ばれるような働きによって機能的なトポグラフィーが形成されることもある[1]、という構図が浮かび上がってきており、形態形成におけるエピジェネティックな機能が注目されています。
また、細胞集団のトポグラフィーが担う機能とそのメカニズムについては、古くから、様々な生物種のさまざまな器官について、その形態が機能実現のために見事に最適化されたものである例が網羅的に抽出されてきました。その結果、今では当然のように語られることですが、器官を構成する細胞集団のトポグラフィーは、結果的にはその器官が果たすべき機能にとって有利なように形成されている傾向があることが分かっています。さらに最近では、そのような生物の「知恵」から得たアイデアを新しいテクノロジーに応用する工学的試み[2]も非常に盛んであり、そのような試みから逆に、生物のトポグラフィーが担う機能とそのメカニズムの一端が理解されるようにもなってきています。
  しかし、細胞集団のトポグラフィーは一度形成されると不動である、というものではなく、むしろ常に周囲の環境と相互作用し、再構成を行っているものと考えられます。そしてその動的な変化自体が、細胞集団の機能の実現に重要な役割を担っていることも考えられます。細胞集団のトポグラフィーがその機能を実現するメカニズムをさらに本質的に探るためには、単に形態形成の結果として生じているトポグラフィーを観察するだけでなく、細胞集団のトポグラフィーを積極的に変化させたときに起こる細胞、あるいは細胞集団レベルの機能の変化を計測する手法が有効である、と私は考えます。そしてそのために必要となる、
  @ 培養細胞集団のトポグラフィーを構成的かつ段階的に変化させる技術
  A 細胞・細胞集団の状態変化をリアルタイムで計測する技術
をまず確立し、従来の培養解析技術とあわせてそれらの新規技術を積極的に利用して、細胞集団のトポグラフィーが担う機能の一端を理解したいと考え、安田研で研究を行ってきました。
具体的には、
  @ アガロースゲルの2次元・3次元の微細加工技術
  A アガロースゲルを細胞接着因子やその他の生理活性物質で修飾する技術
  B アガロースゲル以外のハイドロゲルの微細加工・成型技術
などの技術開発を行い、それらを複合的に用いて、
  C 神経様ネットワークの2次元パターン制御培養系
  D 細胞接着性または非接着性のハイドロゲルの2次元・3次元微細構造の表面および腔を利用したで培養細胞集団の形態制御培養系
を立ち上げる実験を行ってきました。左の写真はアガロースゲルのマイクロチャンバー内で培養されるPC12細胞がチャンバー間を連結するように作られたマイクロトンネルを通してはしご状の2次元的神経ネットワークを形成している様子です。今後は、これまでに開発した新規技術の汎用に向けたキャリブレーションやさらなる技術開発などと並行して、実際の細胞培養と解析により何らかの生物学的知見を得ることを目標に研究室内の仲間と協力して研究を進めていく予定です。
1. 日本生物物理学会編、生物の形の数理と物理、2000、シリーズ・ニューバイオフィジックスU、第6巻
2. 長田義仁編、バイオミメティクスハンドブック、2000

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論文・解説

H. Moriguchi, K. Takahashi, Y. Sugio, Y. Wakamoto, I. Inoue, Y. Jimbo, K. Yasuda.
"On-chip neural cell cultivation using agarose-microchamber array constructed by a photothermal etching method."
Electr. Eng. Jpn. (2004) Vol. 146, Issue 2, 37-42

H. Moriguchi, Y. Wakamoto, Y. Sugio, K. Takahashi, I. Inoue and K. Yasuda
"An agar-microchamber cell-cultivation system:flexible change of microchamber shapes during cultivation by photo-thermal etching."
Lab on a Chip, (2002) 2,: 125-130.

森口裕之、高橋一憲、杉尾嘉宏、若本祐一、井之上一平、神保泰彦、安田賢二
「集束光加熱エッチング法によって加工したアガロースマイクロチャンバアレイを用いた神経細胞の培養」
電気学会論文誌,(2002) 122-C: 1453-1458.

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学会発表

<国際学会>

H. Moriguchi, K. Takahashi, T. Kaneko, and K. Yasuda.
“On-chip agarose microchamber (AMC) array cell-cultivation system for topographical control of neural network.”
6th International Symposium on Micro Total Analysis System (Micro-TAS2002)
(Nara, Japan, November 3-7, 2002)

H. Moriguchi, K. Takahashi, Y. Wakamoto, Y. Sugio, I. Inoue, and K. Yasuda
“On-chip agar-microchamber system for single cells cultivation and observation.”
Biophysical Society 46th Annual meeting,
(San Francisco, USA, February 23-27, 2002)
807-Pos

<国内学会>

森口裕之、金子智行、安田賢二
”アガロースゲルのマイクロストラクチャーを用いた培養細胞集団のトポグラフィー制御技術の開発”
第41回日本生物物理学会年会
(新潟、朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター、9月23日〜9月25日、2003)
講演予稿集, S231, B829

森口裕之、高橋一憲、金子智行、安田賢二
“アガロースマイクロチャンバーアレイ(AMCA)と集束レーザー光による局所加熱法を利用した培養神経ネットワークの形態制御”
第40回日本生物物理学会年会
(名古屋、名古屋大学、11月2日〜11月4日、2002)
講演予稿集, p. S209, 3R1500

森口裕之、若本祐一、杉尾嘉宏、高橋一憲、井之上一平、安田賢二
“Agar Micro-chamber ―マイクロファブリケーションの細胞培養観察系への新しい応用―”
第39回日本生物物理学会年会
(大阪、大阪大学、10月6日〜10月8日、2001)
講演予稿集, p. S155, 2P237

森口裕之、井之上一平、若本祐一、岡野和宣、大沼清、四方哲也、金子邦彦、安田賢二
“Observation of individual E. coli immobilized by semipermeable membrane wrapping method”
第56回日本物理学会年次大会
(東京、中央大学、3月27日〜3月30日、2001)
講演予稿集, p316, 29pWA2

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