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 話 題


  • 2019年 アメリカ血液学会 (ASH) の話題


     12月6日から4日間、アメリカ血液学会 (ASH: American Society of Hematology) がフロリダ州オランドー市のオレンジ・カウンティ・コンベンション・センターで開かれた。
    ヨーロッパ血液学会(EHA: Eeuropean Hematology Association) と並ぶ、世界最大の血液学の学術集会である。アメリカ学会と銘打っているが、実際には国際学会であり、アメリカのみならず、イギリス・ドイツなどのヨーロッパの国々、日本・中国などアジアの国々、アフリカ・南米など世界中の錚々たる優れた大学・研究所・病院からの発表があった。日本からも多くの大学や研究所・専門病院が基礎研究や臨床研究の発表をしていた。
     当・川又研究室からも安田先生と青山先生の二人が発表をした。ちなみに採択率は30パーセント、、、三人に一人しか発表を許されない!、、、と言われており、安田先生は3回目の挑戦で発表を勝ち取った。青山先生も2回目の挑戦で発表を勝ち取った。本当に優れた研究成果だけが発表を許される、まさしく「狭き門」である。
     そんな中、各国からの発表の中で一際目を引いたのが「Post-CY 免疫抑制治療」であった。この治療は、免疫反応が激しく出る Haplo-移植という同種造血細胞移植のために開発された免疫抑制療法であるが、、、その驚異的な免疫抑制効果に着目して、通常の同種造血幹細胞移植に、この Post-CY 抑制療法を用いたグループがあった。そして、その治療成績が発表されていた。
     再発や移植関連死亡率は元来の免疫抑制療法との差は無かったが、移植後の厄介な副作用であるGVHD(移植片対宿主病)の頻度が大幅に低下して、副作用に苦しむ移植後患者の数が大幅に減少している、と報告されていた。同様の結果は複数の施設から報告されており、同種移植の際の免疫抑制療法の方法論を根本的に変える大きな研究成果に思われた。(文責 川又紀彦 2019. 12. 12 記)

  • ポスト・ゲノム時代の新規癌治療法の開発


      癌研究は長い間、癌を引き起こす遺伝子異常の発見が、その主流であった。RAS 遺伝子を始めとする癌遺伝子の発見に心血が注がれた70年代。RB遺伝子・TP53遺伝子を始めとする癌抑制遺伝子の発見と、その機能解析が盛んだった80年代。 遺伝子の異常は多くの病気の本質である。Genetics の教科書 Genetics in Medicine  通称Thompson Thompson
    この間、一貫して分子生物学的な方法論は癌研究の要だった。90年代からヒト・ゲノム計画が世界規模で組織され、ヒトの全遺伝子を解読するプロジェクトが進んだ。2000年を越えた頃、ヒト・ゲノムの全配列が解読された。
    多くの研究者が手にした分子生物学の教科書 Recmbinant DNA


     ヒト・ゲノム計画のさなか、ゲノム研究の巨人・クレッグ・ベンター率いるゲノム解析ベンチャー企業・セレラ社がコンピューター技術を最大限に駆使した「ショットガン遺伝子解析法」を発表した。まさに、癌研究は「コンピューターの助け」を借りてデータを解析する「ビッグ・データ」の時代へと突入していった。


     2008年に、カリフォルニアの小さなベンチャー企業 ソレクサ社が、画期的な遺伝子配列解読技術「パラレル・シークエンス法(次世代シークエンス法 Next Generation Sequencing NSG とも呼ばれる)」を開発した。20以上の先進国が1990年に開始した「ヒト・ゲノム計画」は10年以上の歳月を掛け、3千億円という膨大な資金を注ぎ込んで、たった一人の人間の全ゲノムを読み解いた。が、ショットガン・シークエンス、パラレル・シークエンス、そしてコンピューターによる自動配列技術により、今日では、わずか1カ月で、しかも30万円という低価格で、ヒト・全ゲノム配列の読解が実現されるようになった。時代は「ゲノムの全配列を決定するのは当たり前」の時代に突入している。 ゲノム・プロジェクト完了を告げる科学誌
                                Nature と Science (2003)


     多種・多様な癌腫の、何万というサンプルの全ゲノム解析が次々の報告され、全ての癌における全ての遺伝子異常が完全に解明された。「癌ゲノム」時代が完全に幕を降ろした。「人間の英知」は、ここまで「人間の本質」を解明したのか、、、と嘆息が漏れる思いである。


     今、癌の本体である遺伝子異常は解明され、「癌における遺伝子異常の発見」は研究テーマとして研究者が一生を掛けて打ち込むものでは無くなってしまった。正しく時代は「ポスト・ゲノム時代」である。

     個々の癌において、異常を来している遺伝子異常のパターンから細胞内で狂っているシグナル伝達系を知ることができ、その狂ったシグナル伝達系をターゲットとした薬剤を用いて癌治療が行われる時代を迎えつつある。旧来の「細胞障害」を主体とした、「毒物としての抗癌剤」治療から癌細胞内で異常を持った分子を狙った「分子標的療法」が癌治療の主体となる時代が到来しつつある。
    世界最大の血液学の学会「アメリカ血液学会」略称ASH のプログラム・ブック


     癌の正体を明らかにした時代に、癌研究の主体は「癌治療開発」にシフトしている。その一つが上述の分子標的療法薬の開発だが、それと肩を並べているのが抗腫瘍免疫療法である。抗腫瘍免疫療法は、古くから研究されてきたテーマだが、その長い歴史の中で華々しい成果はなかった。それが、ここ最近、多くの治療法が花開いている。それが1)抗体療法 2)免疫チェック・ポイント阻害療法 3)CAR-T 療法 4)癌ワクチン療法 の4つである。


    ここでは当教室で取り組んでいる3)CAR-T 細胞療法の話を概説する。

    CAR-T 細胞 (キメラ抗原受容体T細胞 Chimeric Antigen Receptor T cell)療法とは、
    近年、欧米で爆発的に研究が進んでいる新規がん治療法である。


     ヒトの体内には、元来、癌細胞を駆逐するための細胞障害性T細胞という免疫細胞が備わっている。このT細胞を体外で遺伝子操作して、癌細胞に対する反応性を高くして、生体に戻す方法である。癌細胞への特異性を得た遺伝子操作済みT細胞は癌細胞を効率的に駆逐してくれる。この遺伝子操作されたT細胞をCAR-T細胞と呼ぶ。


     キメラ抗原受容体(CAR) とはヒトが人工的に作成したタンパク質である。このCARは癌細胞の表面にあるタンパク質に反応し、T細胞を活性化して、殺細胞効果を発揮させる人工タンパク質である。


     急性白血病の中に、その細胞表面にCD19と呼ばれるタンパク質を豊富に発言しているB細胞性急性リンパ性白血病という疾患がある。このCD19タンパク質に反応するCARが開発され、CD19に反応するCAR-T細胞の作成が成功を収めた。


     このCD19反応性CAR-T細胞は生体内で効率的に白血病細胞を駆逐することが報告され、難治性の白血病の治療に用いられ、驚異的な効果を発揮している。この方法は、全ての癌種に応用可能であり、各国が開発に凌ぎを削っている。我々の研究室も又、同療法の効率化と、他の癌種への応用を目指した基礎研究を行っている。

     世界最高峰の癌学会「アメリカ癌学会 AACR American Association Cancer                            Research」のプログラム冊子。

    また、我々の研究室では、今、世界中で大流行しているゲノム編集技術を用いて、新規細胞株の作成や、遺伝子改変マウスの作成も行っている。


    当研究室で「研究をしてみたい!」と熱意溢れる若者は、どうかメールで私に御一報いただきたい(nkawamata.hema@tmd.ac.jp) .


東京医科歯科大学血液内科http://www.tmd.ac.jp/grad/hema/ へのリンク

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