硬組織構造生物学分野
last updated 2021/11/24

歯胚発生の研究 Research of Tooth Germ Development


Tooth Germs

マウスの臼歯は、ヒトの歯と似た形態であり、しかもほどよい大きさのため、器官培養がしやすいとい う利点があります。そこ で、培養歯胚を用いて、歯胚の発生に関与する細胞成長因子などの機能研究をし ています。上皮間葉相互作 用に 関わる因子の解明と歯冠の凹凸形成のメカニズ ムを知るこ とが、最終目 標です。

また新しい試みとして、歯胚構成細胞の機能研究歯の進 化研究も 開始 しています。



■1.歯胚研究の面白さ歯胚発生の概要

歯は、切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯と並んでいて、それぞれの歯のかたちはゆるやかに変化しています。そして、それぞれの歯冠には固有のかたち と大 きさがあります。しかし、歯の発生を見ると、帽状期までは個々の歯胚に形態の差はありません(右図)。

はっきりとしてくるのは鐘状期に入ってからで、複数の咬頭が現れたり、その咬頭の固有の配置とかたちがわかるようになります。しかし、この段 階で も、細胞レベルで見ると、特に差はないのです。

つまり、歯胚づくりとは、どんな歯でも同じブロックを使うことを原則としていて、ただ、その配置を制御することで、固有のかたちを作っている とい うことを思わせます。では、そうした制御がどのように行われているのか、を知りたくなります。

そこで、どういう細胞が制御分子を出し、どういう細胞がそれを受け取っているのか、その結果どのような変化が現れるのかを調べるのが本テーマ の目 標です。

参考文献
田畑純: 口腔の発生と組織 第4版 南山堂 (2019) ★★
田畑純: 口腔の発生と組織 第3版 南山堂 (2015) ★★
田畑純:遺伝子から見た歯の進化.後藤仁敏、大泰司紀之、田畑純、花村肇、佐藤巌編 「歯の比較解剖学 第2版」 医歯薬出版 東京 (2014) ★
田畑純:歯のデザインを決めるもの. 葛西一貴,近藤信太郎編 「歯科に役立つ遺伝学」 わかば出版, 東京 (2014) ★★



■2.細胞成長因子などの歯胚形成への関与HGF-AS

歯胚は器官培養を使用することができる器官です。1900年代から、ウサギの前眼房などを使って生体内培養に使われていたという歴史があるほ どで す。そこで、1992年から、これにアンチセンス法などを組み合わせて、さまざまな実験研究を行ってきました。

最初に取り組んだのは HGF(肝細胞増殖因子)でした。その分布パターンを調べたところ、歯乳頭細胞に発現しており、レセプターがエナメル上皮あることがわかりました。そこ で、アンチセンス法で HGFの翻訳阻害実験を行ったところ、歯胚の上皮と間葉が入れ替わったような”逆転歯胚”ができていました(右写真)。レスキュー実験や増殖活性の部位に よる違いから、HGFは本来はエナメル上皮の増殖を促す仕事をしており、これがブロックされた結果、間葉の方が上皮よりもよく増えてしまい、 上皮の周り を間葉が覆うような構造になることがわかりました。このことは、エナメル芽細 胞の初代培養系を 用いた実験によっても確認されました。この一連の研究で田畑純は第8回歯科基礎医学会賞を受賞しました。

同様の手法を用い、この後、BMP4, PTHrP, Lhx6, dHand などの制御因子の機能を明らかにしていきました。

参考文献


Fujiwara N, Tabata MJ, Endoh M, Ishizeki K, and Nawa T:  Insulin-like growth factor-I stimulates cell proliferation in the outer layer of Hertwig's epithelial root sheath and elongation of the tooth root in mouse molars in vitro.  Cell Tissue Res. 320:69-75 (2005)
Shibaguchi T, Kato J, Abe M, Tamamura Y, Tabata MJ, Liu J-G, Iwamoto M, Wakisaka S, Wanaka A, and Kurisu K:  Expression and role of Lhx8 in murine tooth development. Arch. Histol. Cytol. 66:95-108 (2003)
Tabata MJ, Matsumura T, Fujii T, Abe M, and Kurisu K:  Fibronectin accelerate the growth and the differentiation of ameloblast-lineage cells in vitro.  J. Histochem. Cytochem. 51:1673-1679 (2003)
Abe M, Tamamura Y, Yamagishi H, Maeda T, Kato J, Tabata MJ, Srivastava D, Wakisaka S, and Kurisu K:  Tooth-type specific expression of dHAND/Hand2: possible involvement in murine lower incisor morphogenesis.  Cell Tissue Res 310:201-212 (2002)
Tabata MJ, Fujii T, Liu J-G, Ohmori T, Abe M, Wakisaka S, Iwamoto M, and Kurisu K:  Bone morphogenetic protein 4 is involved in cusp formation in molar tooth germ of mice.  Eur. J. Oral Sci. 110: 114-120 (2002) ★★
Ogi H, Tabata MJ, Yamanaka A, Yasui K, and Uemura M:  Comparison of expression patterns of fibroblast growth factor 8, bone morphogenetic protein 4, and sonic hedgehog in jaw development of the house shrew, Suncus murinus.  Cellular Molecular Biol. 48: OL289-OL296 (2002)
田畑純,劉継光,大盛朝玄,藤井隆文,岩本容泰,栗栖浩二郎: 歯の発生に関与する遺伝子とその役割.咀嚼誌 9: 43 - 49 (2000) ★
田畑純,阿部真土,玉村禎宏,栗栖浩二郎: 歯の形態形成遺伝子とその異常.現代医療 32: 1983 - 1991 (2000)
栗栖浩二郎, 劉継光,田畑純: マウス歯胚の発生における副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)の役割.解剖誌, 75: 371 - 375 (2000)
Liu JG, Tabata MJ, Fujii T, Ohmori T, Abe M, Ohsaki Y, Kato J, Wakisaka S, Iwamoto M, Kurisu K:  Parathyroid hormone-related peptide is involved in protection against invasion of tooth germs by bone via promoting the differentiation of osteoclasts during tooth development.  Mech Dev 95: 189 - 200 (2000)★
田畑純, 栗栖浩二郎: 歯の発生におけるアポトーシス. The Bone, 13: 81 - 88 (1999)
田畑純, 栗栖浩二郎: アンチセンス法と器官培養法による歯胚発生の研究へのアプローチ. Arch. Comp. Biol. Tooth Enamel, 6: 19 - 33 (1999) ★
栗栖浩二郎, 岩本容泰, 田畑純: アンチセンスオリゴDNAによる細胞機能の解析.ブレインサイエンス, 7: 81 - 89 (1996)
Tabata MJ, Kim K, Liu JG, Yamashita K, Matsumura T, Kato J, Iwamoto M, Wakisaka S, Matsumoto K, Nakamura T, Kumegawa M and Kurisu K:  Hepatocyte growth factor is involved in the morphogenesis of tooth germ in murine molars.  Development, 122: 1243 - 1251 (1996) ★★★



■3.歯胚構成細胞の役割解析from Notani's paper

歯胚は、内エナメル上皮、エナメル芽細胞、中間層細胞、星状網細胞、外エナメル上皮、歯乳頭細胞、象牙芽細胞などから構成されています。この うち、エナメル質をつくるエナメル芽細胞、象牙質を作る象牙芽細胞については、その機能と役割がよく研究されていますが、その他の細胞の機能 や役割は不明の点が多いのです。

そこで、こうした個々の細胞にスポットをあて、研究を行っています。エナメル芽細胞や象牙芽細胞との関係性などを明らかにしたいと考えていま す。

参考文献
Notani T, Tabata MJ, Iseki H, Baba O, Takano Y: Introduction of a three-dimensional and layered (TDL) culture, a novel primary co-culture method for ameloblasts and pulp-derived cells.  Arch. Histol. Cytol. 72: 187-198 (2009) ★
田畑純: エナメル質形成の細胞生物学.  鹿大歯学部紀要, 22: 33-40 (2002) 

★ は推奨論文


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