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「アトピー性皮膚炎などの慢性アレルギーをひきおこす
新たなメカニズムが明らかにされた」(詳細)
 | 掲載論文の要旨 |
アトピー性皮膚炎などの慢性アレルギー炎症をひきおこす新たな仕組みが明らかとなり、それにはこれまでほとんど注目されていなかった好塩基球と呼ばれる細胞が深く関わっていることが判明しました。
 | 掲載誌 |
この新発見の掲載誌はImmunity 23巻2号(2005年8月号)です。この雑誌は、アメリカ合衆国Cell Press社発行の免疫学専門誌で、学術誌のグレードを評価するひとつの指標となるImpact factorは15と非常に高く、トップクラスの医学生物学専門誌です。
※Immunity8月号に掲載された論文は こちら
 | 掲載論文の英文表題とその和訳 |
- Basophils play a critical role in the development of IgE-mediated chronic allergic inflammation independently of T cells and mast cells
- 「好塩基球が、T細胞やマスト細胞の関与無しに、IgE依存性慢性アレルギー炎症をひきおこす」
 | アレルギー疾患について(補足説明) |
アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症(アレルギー性鼻炎・結膜炎)、蕁麻疹、食物アレルギー、薬物アレルギー、アナフィラキシー・ショックなどの疾患の総称です。それぞれの疾患で、症状のでる身体の部位(皮膚とか肺とか)が異なるのでまったく違った病気のように思えますが、その発症の仕組みには共通点があると考えられ、アレルギー疾患と総称されています。
私達の身体に備わっている免疫系は、ウイルスや細菌など私達の身体に害をおよぼす病原体を攻撃・排除する働きをしています。花粉やダニ抗原、食物などは私達に害を及ぼすわけではないので、これらが身体に入ろうとしても免疫系は普段は攻撃を仕掛けることはありません。ところがどういうわけか、アレルギー患者ではこのような無害な物質にも免疫系が過剰に反応して攻撃をかけるため、不快な、時には命取りともなるアレルギー反応が誘発されます。とりわけ、アトピー性皮膚炎や喘息など、長期にわたり症状が継続する慢性アレルギーの発病・悪化メカニズムについては不明な点が多く、いまだ有効な根本治療法が確立されていません。近年、アレルギー疾患に悩む患者が増え(図1)、国民病、現代病ともいわれるようになり、アレルギーの原因解明と新規治療法の開発は最重要課題となっています。
 | 研究内容の詳細 |
アトピー性皮膚炎(図2)や喘息などの慢性アレルギー疾患にかかっている患者では、多くの場合、血液中のIgE(アレルギーをひきおこす物質「アレルゲン」に反応する抗体の1種)の値が高く、しかも重症になればなるほどIgE値が高い傾向があることがよく知られています。そこで、アレルギー患者と同様に血液中のIgE値が高いアレルギーモデル動物を作製して、皮膚にアレルゲンを投与して、皮膚でおきるアレルギー反応を詳細に解析しました。アレルギー反応がおこると、ちょうど蕁麻疹のときのように、皮膚が腫れあがります。このアレルギーモデル動物では、たった1回のアレルゲン投与によって、皮膚の腫れが時間をずらして3回おこることがわかりました。1回目の腫れはアレルゲン投与後1時間以内に、2回目の腫れは6-10時間後に出現したのに対して、3回目の腫れはアレルゲン投与後2日後とかなり遅れて出現し、しかも1週間以上にわたって腫れが持続しました。3回目の腫れをおこしている皮膚を採取して顕微鏡で見てみると、好酸球(アレルギー性炎症をひきおこすことで有名な細胞)がたくさん侵入してきていて、皮膚表面の細胞も増殖しているなど典型的な慢性アレルギー炎症の病像が認められました。
そこで次に、この3回目の皮膚の腫れ(慢性アレルギー炎症)をひきおこす犯人(原因細胞)を突き止めることにしました。花粉症など急性の(即時型)アレルギーをひきおこすことで有名なマスト細胞が生まれつき存在しない動物を使って同様な実験をしたところ、たしかに1回目と2回目の皮膚の腫れはおこりませんでしたが、3回目の腫れは出現しました。次に、慢性アレルギー炎症をひきおこす主役として知られるT細胞を欠損する動物を使って実験をおこなったところ、この場合も3回目の腫れが出現しました。つまり、マスト細胞もT細胞も慢性アレルギー炎症の犯人ではないことがわかりました。そこで、免疫系に関与する細胞をひとつひとつ吟味していった結果、予想外なことに、これまでほとんど注目されていなかった好塩基球と呼ばれる細胞(図3)が慢性アレルギー炎症をひきおこす真犯人であることをついに突き止めました。3回目の腫れをひきおこしている皮膚にたくさん侵入している炎症性細胞のうち、好塩基球は1-2%を占めるに過ぎないのですが、好塩基球が無いと慢性アレルギー炎症は全くおこりません。したがって、好塩基球は慢性アレルギー炎症の実行犯というよりも実行犯に命令する中枢司令塔的存在(図4)であると考えられます。好塩基球は、血液中を流れる白血球の0.5%を占めるに過ぎない少数細胞集団であり、アレルギー炎症の現場でも多数を占めるものではないことから、従来脇役的な存在と考えられてきました。今回の研究により、数こそ少ないものの、実は好塩基球が脇役ではなく、慢性アレルギーをひきおこす主役であることが明らかになりました。
今回の研究により、従来考えられていたT細胞を主役とする慢性アレルギー炎症とは別に、好塩基球を主役とする慢性アレルギー炎症が存在することが明らかとなりました。この研究をさらに発展させることにより、好塩基球自体あるいは好塩基球が分泌する物質を標的とした新薬など新規治療法の開発が期待されます。
【共同研究グループ】
1. | 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 |
(1) | 免疫アレルギー学分野 |
| 烏山 一(代表、教授) |
| 峯岸克行(助教授) |
| 向井香織(大学院生) |
| 久保田俊之(大学院生) |
(2) | 皮膚科学分野 |
| 横関博雄(教授) |
| 西岡 清(名誉教授) |
(3) | 包括病理学分野 |
| 廣川勝c(名誉教授) |
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2. | 東京都臨床医学総合研究所 |
| 米川博通(副所長) |
| 松岡邦枝(疾患モデル開発センター) |
| 多屋長治(疾患モデル開発センター) |
| 鈴木英紀(電子顕微鏡室) |
図1
全国調査におけるアレルギー疾患有症率(%)
■乳幼児(0〜5歳)
| ぜんそく | ぜん鳴 | アトピー性 皮膚炎 | アレルギー性 鼻炎 | アレルギー性 結膜炎 | 何等かのアレルギー疾患 |
男 | 5.5 | 14.8 | 10.2 | 8.6 | 2.5 | 30.8 |
女 | 4.2 | 11.2 | 10.4 | 5.2 | 2.9 | 25.8 |
全体 | 4.9 | 13.0 | 10.3 | 6.9 | 2.7 | 28.3 |
■小・中学生(6〜15歳)
| ぜんそく | ぜん鳴 | アトピー性 皮膚炎 | アレルギー性 鼻炎 | アレルギー性 結膜炎 | 何等かのアレルギー疾患 |
男 | 6.2 | 6.1 | 7.1 | 22.6 | 10.6 | 35.3 |
女 | 3.9 | 4.6 | 7.9 | 16.2 | 11.5 | 29.9 |
全体 | 5.0 | 5.4 | 7.5 | 19.5 | 11.0 | 32.6 |
■成人(16歳以上)
| ぜんそく | ぜん鳴 | アトピー性 皮膚炎 | アレルギー性 鼻炎 | アレルギー性 結膜炎 | 何等かのアレルギー疾患 |
男 | 2.0 | 2.5 | 1.7 | 20.6 | 11.3 | 28.2 |
女 | 2.3 | 1.8 | 1.9 | 23.3 | 16.7 | 32.8 |
全体 | 2.2 | 2.1 | 1.8 | 22.0 | 14.2 | 30.6 |
厚生省アレルギー総合研究事業疫学班
厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー疫学班の研究より
図2
図3 好塩基球は白血球の0.5%を占めるに過ぎない少数細胞集団であるが-----
図4 好塩基球は慢性アレルギーをひきおこす中枢司令塔的役割を果たす
 | 問い合わせ先 |
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
免疫アレルギー学分野
烏山 一 (からすやま はじめ)
TEL 03-5803-5162 FAX 03-3814-7172
e-mail: karasuyama.mbch@tmd.ac.jp
研究室ホームページ http://www.tmd.ac.jp/med/mbch/Immunology
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