産業保健学
Occupational
Health Nursing
眞 野 喜 洋
1 科目の概要
働く者の健康指導と健康管理並びに職業起因性障害や災害の予防に関する指導と管理のあり方は保健師にとって必須の事項であり,その考え方や実践の方法を身につけることを前提とした産業保健活動の理論を究明する。
2 教育方針・教育目標
産業に関わる看護師・保健師は産業医やコ・メディカルスタッフと協同して,そこに勤務する職業人としての個人に対する健康の保持増進の指導や集団に対する公衆衛生活動を要求される。そしてその業務の遂行には保健師としての倫理観と人格が求められ,保健・医療・福祉・文化・行政などの学際的な幅広い知識や技能に基づいた問題解決能力を身につける上での基本的な概念を修得させる必要がある。
産業という個々の管理社会とそれを取り囲む外環境とが調和され,社会的に対応できない個人や企業を生ぜしめないような,予防的保健活動と共に健康増進活動の意義を認識させ,自由な発想で個人や社会の痛みを理解でき,望ましい保健分野における社会機構を考えられる基礎学力を身につけることを目標とする。
3 教育内容
衛生学・公衆衛生学に裏付けられた個人および集団の健康保全・増進をメインテーマとして働く人々が快適な職場環境で健康を損なうことなく,仕事を自分に適合させて,肉体的・精神的・社会的に良好な状態を維持増進させる上での基礎知識を系統的に付与する。
そのためには,健康な人も,健康に障害を持った人も,労働という営みの中で,保健指導を進める上での最重要課題を取り上げて,項目別に事例を列挙しながら,産業保健の理念・歴史・健康管理体制・労働者の実態・労働内容・労働環境・産業疲労・業務上疾病(職業性疾患)・産業災害とその対策や予防方法・社会保障と医療などについて,産業保健学の幅広い視野に立って,これらの原理と実際について理解させる。
回数 |
日 時 |
項 目 |
内 容 |
担当者 |
1 |
4/11(月) 2 |
・産業保健学の定義と目的 ・産業保健の歴史と産業保健行政のしくみ |
・産業看護の意義,職場と労働。 ・保健活動の目的とその重要性を理解させる。 ・労働者,労働基準法,労働安全衛生法,衛生管理体制について理解させる。 |
眞野喜洋 |
2 |
4/18(月) 2 |
・産業看護の目的及び歴史ならびに労働衛生と産業看護職 |
・諸外国および日本の労働衛生史と産業看護関連史,ILO/WHO,対象の把握と機能,産業保健の場における看護職の役割の特徴を理解させる。 ・労働安全衛生法との係わり,労働衛生の管理,最近の労働衛生の状況,主に労働衛生統計,法律を基本として,他職種との関連および協調の必要性を学ばせる。 |
眞野喜洋 |
3 |
4/25(月) 2 |
・業務上疾病における産業保健師の役割ならびに産業災害 |
・有機溶剤,特定化学物質の取り扱いと環境制御,環境測定と作業環境の整備,保健師による現場の把握と対処のしかたを学ばせる。 ・労働災害の発症要因と日常管理。 ・度数率,強度率,労災保険。 ・安全対策と日常生活指導の重要性を理解させる。 |
高橋明美 |
4 |
5/9(月) 2 |
・産業看護の定義と役割 ・産業看護の事例による展開 |
・企業に必要な業務内容を揚げ,各項目について解説。 ・業務遂行に必要な姿勢・能力を学ばせ,業務全体像を理解させる。 ・健康診断の事後措置−健康相談,健康教育,職場の巡視,メンタルヘルス,記録保存と統計処理,THPの実施等のFollow
upの重要性と健康増進の内容を理解させる。 |
京谷美奈子 |
5 |
5/16(月) 2 |
・産業疲労と業務上疾病 |
・機械化,オートメ化に伴う問題点。 ・作業因子,身体因子,心理因子に伴う疲労,ストレス,バイオリズムとサーカディアンリズム,自覚症状調べ,CFSIを例に疲労度の評価法を学ばせる。 ・職業病,職業性ガン,標的臓器。 ・作業強度とRMR,最大許容濃度。 ・労働災害の認定基準などについて理解を深めさせる。 |
京谷美奈子 |
6 |
5/23(月) 2 |
・作業現場の理解と求められる行動 |
・産業工程に伴う健康管理の必要性をVTRにより理解させ,問題点を探る。 ・作業関連疾患における健康管理業務内容,特に『じん肺』について解説,現場参加型の産業保健に必要な知識を身につけさせる。 |
嶋田和人 |
7 |
5/30(月) 2 |
・衛生管理 |
・産業医と産業保健師の役割分担。 ・健康相談,生活相談と産業保健計画の立て方,健康管理の進め方を復習する。 ・衛生教育,Bresloの生活習慣と保健増進について理解させる。 |
高橋明美 |
8 |
6/6(月) 2 |
・産業保健のまとめ |
・メンタル・ヘルス・ケア ・産業保健師に求められること |
高橋明美 |
〔単位〕必修1単位
〔場所〕保健衛生学講義室 1 (医歯学総合研究棟18階)
4 教科書(必携)
津村智恵子編:地域看護学、中央法規、1998
参考書
眞野喜洋,遠藤立一(監著):健康管理者のための公衆衛生学,圭文社,東京
眞野喜洋(監著):スタンダード公衆衛生学,文光堂,東京
平山朝子,宮地文子(編集):産業保健指導論,公衆衛生看護大学体系#6,日本看護協会出版会,東京
(財)厚生統計協会:国民衛生の動向,厚生の指標臨時増刊,(財)厚生統計協会,東京
労働衛生のしおり(労働省労働基準局編),成人地域看護活動(地域看護学講座No7),医学書院
など産業保健に関する書籍はすべて参考となるが,購入の折にはできるだけ新しい数値の乗った統計データを有するものから選ぶこと。
5 他科目との関連
公衆衛生学,地域保健学・看護学とは密接な関係にあり,クロス・オーバーする領域が多い。
母性,成人老人,精神の各保健学,看護学とも関連性が高い。
基礎学力としての生理学,薬理学,病理学などの知識は講義の理解を深める上で重要である。
6 受講上の注意
産業保健学は他領域とそれぞれ深く係る学際性の高い分野なので,日頃からマスメディアの医療の関与する社会ニュースなどにも関心を持つことが望ましい。
7 成績評価方法
学期末筆答試験,および出席点により評価する。