歯周病におけるプロスタグランジンの役割
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11th International Conference on Periodontal Research
   Young Investigator Award を受賞して−

歯学部 歯科保存学第二講座 助手 野 口 和 行


 歯周病はカリエスとともに歯科の二大疾患の一つであり,成人以降の歯牙喪失の主要な疾患です。さらに最近の研究により,歯周病と心臓血管系疾患や低体重児出産などの全身との関連が示唆されており,歯周病の治療の重要性が増してきています。歯周病は細菌性プラークの感染による炎症性病変でありますが,歯槽骨吸収を含む歯周組織の破壊には,細菌との相互作用の結果,生体側から産生される様々な物質が大きく関与しています。その中で,プロスタグランジン(PG)は重要な働きをすると考えられている因子でありますが,特にPGE2は血管透過性亢進・骨吸収などの多彩な生物活性を有し,多くの注目を集めています。しかしその産生機構あるいは作用機構についての解明は十分ではありません。私のテーマとして,PGを含むアラキドン酸代謝物の歯周病での役割を研究してきましたが,この度,11th International Conference on Periodontal ResearchにてYoung Investigator Awardを受賞することができ,このことにより今回のこの原稿を書かせていただく機会を得ましたので,研究内容の一部を紹介させていただきます。

 PGPG合成酵素であるcyclooxygenaseCOX)によって産生されますが,近年COXには構成酵素であるCOX-1と炎症あるいは大腸癌との関連が報告されているCOX-2(誘導酵素)の2つのアイソフォームの存在が明らかにされました。我々はヒト歯肉線維芽細胞(HGF)を用いて,PGE2の産生機構さらにPGE2HGFへの作用機構の解明を行いました。interleukinIL-1βあるいはリポポリサッカライド刺激によりPGE2産生が亢進しますが,この産生は主としてCOX-2の誘導に依存していました。PGE2HGFへの作用として,PGE2IL-1βによって誘導されるmatrix metalloproteinase-1MMP-1)産生をコントロールすることが明らかとなりました。すなわち,PGE2EP1,EP2,EP3,EP4と4種類のレセプターを介して作用を発揮しますが(EP1は細胞内カルシウムの上昇,EP2とEP4は細胞内cAMPの亢進,EP3は細胞内cAMPの抑制に関与),HGFではPGE2EP2およびEP4を介してMMP-1の産生をcyclic AMP依存性に抑制する一方,EP1を介して亢進的に作用するという,2つの経路によって調節していました。歯周病患者間におけるPGE2の産生量の違いが歯周病の病態と関連するとの報告がなされていますが,PGE2に対する応答性の違いも関係するのではないかと考え,現在研究を進めているところであり,そのようなデータが得られつつあります。また,従来型の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は歯周病の進行の抑制に有効と報告されていますが,NSAIDsは消化器潰瘍や腎障害等の副作用を示すことがあります。それに対しCOX-2特異的阻害薬はそのような副作用が少ないため,新しい抗炎症薬として活発な研究が行われていますが,歯周病の治療薬としてこのCOX-2特異的阻害薬の応用を期待しているところです。

 高齢化社会を迎え,十分な咀嚼機能の保持は高齢者のQuality of Lifeの向上のためにも極めて重要な課題です。基礎的な研究はすぐに臨床に直結するのは難しいことですが,「8020」運動に貢献できるよう,歯周病治療の発展につながれば幸いと願っています。

11th ICPR Young Investigtor Award受賞式:賞状,賞金,賞品を授与された。(右側が筆者)