Indocyanine green用いたpulsedye densitometry法による心拍出量測定
―日本集中治療医学会優秀論文賞を受賞して―

大学院医歯学総合研究科救命救急医学分野 教授 今 井 孝 祐


 心拍出量は生体の最も基本的な情報の一つであり,Swan‐Ganz catheterの普及によりベッドサイドで簡便に測定できるようになったとはいえ,依然として侵襲的方法であるがためにその利害得失に議論が多いのが現状であります。ある波長の光が組織を透過した時の吸光度を観察した時,脈動をなして変化する成分の存在に気づかれたのが,パルスオキシメトリー発見の端緒でありました(1)。組織中で拍動をもって変化している成分は動脈血に由来するに相違ないことから,この成分を抽出することにより非侵襲的に動脈血中の酸素化ヘモグロビンの割合を測定できるパルスオキシメトリー(日本光電,青柳ら)が開発されてきました。従来,動脈血を採血して測定していた動脈血ヘモグロビン酸素飽和度測定法と比較して,非侵襲的,連続的に測定できる本法の利便は大きく,瞬く間に全世界の手術室,集中治療部等に普及しました。この原理を応用することにより,血液成分と異なる外因性に血中投与した成分(indocyanine green dye)の脈動変化を光学的にとらえ,ヘモグロビンに対する比率(酸素化,還元型ヘモグロビンで吸光度がほぼ等しい波長を用いる)として検出できれば,ヘモグロビン濃度は短時間で変化しないので別途測定した値を入力することにより,心拍毎の動脈血中色素濃度の絶対値が測定できることになります。この理論のもとにindocyanine greenを用いて,その動脈血中濃度を心拍毎に測定,その初循環の濃度希釈曲線から心拍出量を,肝臓から選択的に排泄されることを利用した肝臓からの排泄曲線の傾き(K)を,またこのクリアランス曲線を注入時点に外挿することによる血管内注入時点における理論的初期血中色素濃度から循環血液量の測定が非侵襲的に可能な,Pulse dye densitometry 法が開発されてきました。我々はこのようにして開発されてきたPulse dye densitometryを用いて,現時点でのgold standardである,熱希釈法による心拍出量測定法との比較を手術患者において検討した。その結果は,本法による心拍出量測定は熱希釈法と同程度の精度であるが,両者の間に乖離の存在する患者も存在する,従って充分に臨床使用可能である,でありました(2)。この報告は,今後の臨床的多方面への応用の可能性の大きいことからして,優秀論文としての評価を受けたと考えております。なぜ,特定の患者で従来の標準法との間に乖離が生じるかは,種々要因から解析を行い,今後の精度改良,臨床的評価の定着につながると考えております(3)

     

引用文献
1.Wahr JA, Tremper KK:Pulse oximetry, Monitoring in Anesthesia and Critical Care Medicine, 3rd edition. Edited by Blitt CD, Hines RL. New York, Churchill‐Livingstone, 1995;385‐405
2.Takasuke Imai, et al. Measurement of cardiac output by pulse dye densitometry using indocyanine green. A comparison with the thermodilution method. Anesthesiology 1997;87:816‐22
3.T Imai, et al.Measurement of blood concentration of indo‐cyanine green by pulse dye densitometry‐comparison with the conventional spectrophotometric method. J Clin Monit 1999 in press

Pulse dye densitometry法と,熱希釈法による心拍出量測定の差のパーセント表示(Bland‐Altman法)。横軸は両者の平均,縦軸は平均値に対する差のパーセント表示。Bias=4.5±19.6%(mean±SD)