Caチャンネル異常による小脳失調症の発症機序の解明 ―日本医師会医学研究助成費を受賞―  脊髄小脳変性症は本邦で多くの原因遺伝子が判明するなど最も研究が進んだ分野であるが,いまだ治療法のない神経難病にとどまっており,早急に治療法の開発が望まれている。その理由の一つは,原因遺伝子の機能が全く不明なことによる。遺伝性皮質性小脳萎縮症(HCCA)は,Holmes型小脳失調症とも呼ばれ,ほぼ純粋にPurkinje細胞が障害され,純粋な小脳失調症を呈する。世界的にはまれとされていたが,わが国ではJoseph病に次いで多く,我々はここ数年来本邦のHCCAの多数例を対象にマイクロサテライト多型を用いて連鎖解析を進め,その臨床像・神経病理所見を明らかにするとともに,1995年米国から報告された第11番染色体に連鎖するSCA5と本邦のHCCAとは連鎖しないことを示した(Brain 1996;119:1173−1182)。そして,1996年末には,我々の手によって初めて本邦のHCCAの約半数が第19番染色体短腕19p13.1に遺伝子座を有することが明らかとなった(Am J Hum Genet,1997;61:336−346)。さらに直後に米国から報告された脊髄小脳失調症6型(SCA6)(Nature Genet1997;15:62)と同一疾患であること,その臨床的・遺伝学的所見,ならびにそれと遺伝子異常との関係などを初めて明確にした(Am J Hum Genet,1997;61:336−346)。すなわち,SCA6においてα1A‐Caチャンネル遺伝子という初めて機能の知られた遺伝子のCAGリピートの異常延長が原因と判明した訳である。Caチャンネルに関しては,これまでの研究による基礎データも多く,機能異常と発症機序の解明が早く進むと思われる。またSCA6では小脳Purkinje細胞がほぼ選択的に障害されるため,その発症機序の解明と治療法の開発は,逆に変性疾患に限らず多くの小脳疾患に役立つものと期待される。 本研究では,小脳失調症の治療法開発の基盤を確立するため,α1A‐Caチャンネル遺伝子のCAGリピート延長によって生ずるSCA6において,Caチャンネルの機能障害の内容・機序,ならびに小脳Purkinje細胞のほぼ選択的な細胞死のメカニズムを解明する。現在,SCA6の臨床ならびに剖検脳所見とCAGリピートとの関連を明らかにするとともに,mRNAの発現パターンも明らかにしている。さらに,異常遺伝子を導入した各種培養細胞,培養小脳スライス,トランスジェニック・マウスなどについて,パッチクランプ法やアポートシスの誘導を用いてCaチャンネルの異常による小脳プルキンエ細胞の機能障害と細胞死の機序について研究を進めている。この研究は,前任の筑波大学時代からのもので多くの方々との共同研究であり,何よりも患者さんとその家族の方々の協力なくしてはなし得ないものである。現在も当講座内のみならず薬理学講座等広く共同研究を行っており,この場をかりて深謝するとともに,これらの研究に興味のある学生,医師,研究者の方は気軽にご連絡いただきたい。