この度,日本神経病理学会賞を受賞しました。これは日本神経病理学会によって平成9年度に創設された賞であり,その初回を授賞していただき,大変光栄に思っております。これをきっかけに,“マイ・リサーチ”を紙面に紹介させていただく機会を得ました。  私はこれまで,〓神経系(特に脳老化・痴呆)とアミロイド,〓神経系の感染と免疫をテーマに研究をしてきました。未曾有の高齢化社会を迎えた今日,〓の脳老化・痴呆関連の研究は中心的な課題となり,さらに〓の中では,近年,狂牛病などで大きな社会問題となっているプリオン病の研究が大きな比重を占めてきています。  さて,痴呆性疾患のなかで,最も重要な位置を占めているのは何といってもアルツハイマー病であり,“ぼけ”の病気の代表として一般にもよく知られています。アルツハイマー病患者さんの脳には,アミロイド・ベータ蛋白という異常蛋白が大量に斑状に沈着し(老人斑とよばれます),さらに異常なタウ蛋白を主成分とする神経原線維変化という構造が多数みられます。私たちは患者さんの脳を観察するとともに,その遺伝子などを解析することで,これらの異常物質の沈着に影響する因子を探索しており,さらに,実験系を用いてそれをコントロールする方法,すなわち治療法の開発を目指しています。  私たちは研究の過程で,アルツハイマー病と似たパターンで神経原線維変化が大量にみられるが,ベータ蛋白の沈着(老人斑)がほとんどみられない,非常に高齢発症の痴呆の一群があることに気が付きました。こうした痴呆例の存在は以前からアルツハイマー病の一つの亜型として指摘されていましたが,私たちは同年代のアルツハイマー病患者を対照として,脳の変化や発病の危険因子となる遺伝子多型などについて比較した結果,アルツハイマー病とは異なる,老年期痴呆の新しい疾患単位であろうという結論に達し,神経原線維変化型老年痴呆という新たな名称を提唱しました。その業績が評価され,今回の受賞となりました。痴呆患者全体の中でこの患者が占める頻度を年代別にみると(図),この疾患は非常に高齢で発症する痴呆の中にみられることがわかります。  その後,この疾患は非アルツハイマー型痴呆の一つとして注目を浴び,昨年10月の日本痴呆学会のシンポジウムでもとりあげられ,講演する機会を得ました。さらに,厚生省長寿科学総合研究の『脳の老化に関連する疾患の病態解明に関する研究』班にて,私たちはこの疾患の研究を担当しており,病因の追究や診断基準の作成を行っています。  これらの研究は本学神経内科の水澤英洋教授,袖山信幸先生,浴風会病院の大友英一院長,伊藤嘉憲医長,末松直美医長,東京都精神医学総合研究所の松下正明所長との共同研究として行われています。また,本学難治疾患研究所神経病理の桶田理喜教授には以前から神経病理学全般にわたり御指導をいただいております。さらに学内外の多数の先生から大きなご支援をいただいており,ここに心より感謝いたします。