リンパ球アポトーシスについての研究

−平成8年度 日本生化学会奨励賞を受賞して−

 

難治疾患研究所 ウイルス・免疫疾患(免疫疾患) 教授 鍔 田 武 志

 

 リンパ球は抗原との反応により活性化し,抗体産生細胞やキラーT細胞のようなエフェクター細胞になるが,一方,抗原との反応により不活化や細胞死(アポトーシス)を起こし免疫トレランスが誘導される。私が,Bリンパ球のアポトーシスの研究をはじめたのは,1991年であるが,このころは,抗原と反応すると成熟Bリンパ球は活性化し,種々のTリンパ球由来の可溶因子により増殖し,さらに,抗体産生細胞に分化するものと考えられていた。免疫トレランスはより未熟なBリンパ球で起こることはあっても,成熟リンパ球ではトレランスの誘導は起こらないと考えられていた。しかしながら,我々は,成熟Bリンパ球が抗原との反応によりアポトーシスを起こすこと。この抗原との反応によるアポトーシスがTリンパ球由来のシグナルにより阻害されることを明らかにした。この結果は,成熟Bリンパ球でも免疫トレランスが誘導されること,さらに,Bリンパ球が免疫反応を起こすためには,抗原と共にアポトーシスを阻害するシグナルが必要であることを意味する(図)。したがって,この発見は,当時のBリンパ球の活性化についての理解と相反するものであった。実際,当時私の在籍していた教室の本庶教授が,この成果をキーストーン・シンポジウムで発表したところ,フロアから20人以上が立ち上がり,質問のためマイクの前に列を作ったほどであった。しかしながら,この我々の発見は,その後多くの追試がなされ,現在までにはかなり広く認められるようになってきた。  このような,ある生命現象の理解を変えるような仕事は,多くの偶然にも恵まれた結果ではあるが,当たり前の仕事はしないという姿勢も重要ではなかったかと考える。私もこのように努めてきたのではあるが,本庶教授は,自分がやらなくても誰かがやるであろう仕事はする必要がなく,自分にしかできない仕事は自分がしなくてはならないのでやる,というところまで徹底していたのである。もちろん,自分にしかできないと思って仕事をしていても,探してみれば,世界中で同じ仕事をしている人が何人もいるものである。ましてや,他の一流の研究室と同じような仕事をしようというのでは,なかなか一流にはなれないのではなかろうか。また,やっていても余り楽しくないのではないかと思われる。  現在,我々は,我々の見つけたBリンパ球のアポトーシスの制御機構を理解することにより,免疫系の成立機序,そしてその異常,とりわけ,自己免疫の発生機構を理解しようとしている(写真:表紙裏上段)。この場を借りて,これまで御指導,御支援を頂いた先生方に深く感謝したい。また,我々の研究に興味のある方は,気軽に研究室へお寄りください。  神経細胞損傷を反映する拡散係数(ADC)は虚血直後から低下し,60分以内の虚血時間では回復する。脳浮腫の悪化を反映するT2‐W〓では90分虚血後再灌流で著明に悪化している。 Bリンパ球活性化機構