MRI(核磁気共鳴画像)による超急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法の治療効果診断システムの確立

−日本磁気共鳴医学会大会長賞を受賞して−

 

医学部脳神経外科学講座 助手 長 岡   司

 

 近年のMRの普及率・技術進歩には目覚ましいものがあります。運動・言語・視覚野等の脳機能局在の診断や,脳血流評価,脳梗塞の超急性期診断等の臨床診断にまで応用が可能となっています。本学に導入された動物実験用4.7T高磁場MRシステムは,この急速な技術進歩と実際の臨床診断とのギャップを埋める基礎研究として期待されます。

 本受賞は,虚血性・虚血再灌流後脳損傷におけるMR画像診断の基礎研究に対するものです。臨床の場における脳梗塞の治療は,血栓溶解による血行再建が主として行われ,迅速な血栓溶解は神経症状を劇的に改善させます。一方で治療の遅れは出血や脳浮腫の悪化を来たし,損傷部位を拡大させることとなるため,そのtherapeutic time windowは予後を大きく左右し,迅速かつ適確な適応決定が必要とされます。治療の際には,虚血程度・神経細胞の可塑性と共に脳血液関門の破綻と脳浮腫の悪化が問題となります。本研究では,これらをPerfusion, Diffusion, T1‐Gd, T2‐weighted imagingにて別々に経時的に観察し,従来,摘出脳を用いて研究されてきた結果を,生きたままの生理的状態で経時的に観測しました。拡散強調画像は,虚血数分後から拡散係数の低下領域として虚血損傷部位を明瞭に描出し,神経細胞の可塑性を反映します。神経細胞損傷としては,永久閉塞例・90分以上の虚血後再灌流では拡散係数は低30〜60分虚血後再灌流では拡散係数は正常に復し,まさに治療可能領域が描出されます。脳血液関門の破綻・脳浮腫の悪化に関しては,30分までの虚血では悪化を認めず,永久虚血の場合には6時間までは緩徐に生じます。90分以上の虚血後再灌流では,その悪化は著明となります(表紙裏上段参照)。まとめますと,虚血後再灌流による神経細胞損傷の治療可能時間は60分前後であり,脳血液関門の破綻による脳浮腫の悪化は60分以後漸増していくと考えられます(下図参照)。この結果は,虚血による神経細胞損傷と血管損傷の機序は異なる可能性を示唆し,脳虚血研究における病態生理の解明と同時に,臨床診断〜血栓溶解療法の治療効果判定が明瞭になされることが期待されます。  B棟1階放射線部に導入された最新鋭の臨床用MR機では,超高速撮影技術により上述の撮影は5分程度で可能となっています。今後は,実際の臨床例で治療前における血栓溶解療法の適応決定・治療効果判定に応用し,さらには,低酸素・血圧低下・低体温等の負荷による細胞障害程度の変化を経時的に評価することで,より効果的な脳損傷の診断治療システムの確立に寄与したいと考えております。  最後に,東京医科歯科大学脳神経外科 平川公義教授,難治疾患研究所神経病理 黒岩俊彦助教授,共同研究者の方々に深謝いたします。