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My Career Story

片野 尚子 氏

統合研究機構
再生医療研究センター
講師(キャリアアップ)

当制度に申請した理由を教えてください。

1日でも長く研究に携わり、やりがいのある仕事を通じて医学の発展に貢献したいからです。しかし、女性特有のライフイベントを自助努力でこなしながら研究を続けることには限界があり、その現状を打破するため、女性のキャリアアップ支援策を備えた本制度に申請しました。

昭和59(1985)年、本学歯学進学課程に入学した頃、私は何者でもありませんでした。東京の人の多さにも、中高一貫校出身のクラスメートのおしゃれさにもドギマギして怖じ気づく一方、文化人類学など、高校では聞いたこともない授業も多く、どのように勉強したらよいのか見当もつきませんでした。しかし18歳の夏、教科書の参考文献にあったフランス人類学者レヴィ=ストロースの『親族の基本構造』を読んで衝撃を受けると同時に、深い淵の中を垣間見てしまったかのような感覚に、これが研究か、研究というものをやってみたいと初めて思いました。

しかし、研究で身を立てるのは容易ではありませんでした。女性同期20人のうち、学卒者を除くと歯学部卒業直後に大学院に進学したのは自分一人でした。男女雇用機会均等法の施行(1986年)後とはいえ、1990年の段階で女性の大学院生を歓迎してくれる教室は少なく、面接では結婚や出産等のライフイベントに関してどのように考えているか、過去に女子大学院生が退学したことがあるが続けていけるか等を質問されることも珍しくありませんでした。起こりうるライフイベントを想定し、十分な対策を取っていることを求められ、それを示して、ようやくスタートラインに立てる、というサイクルの始まりでした。

私が研究職に就いた2000年以降は共働きも一般化していましたが、妊娠・出産・育児等のライフイベントをサポートする環境は不十分でした。そのため、自力でこれらのライフイベントへの備えを準備し、仕事への支障がないことを周囲に示す必要がありました。出産・育児休暇で業務に支障がでるのではないかという心配の声に対しては、あらかじめ1年間の研究スケジュールを提示し、生後6週から預けられる認可外保育園も早期に確保して3か月で復職しました。0歳児を保育園に預けるのは可哀想だと言われることも多かったので、保育原理、教育原理等9科目、色鉛筆絵画、「3分間のお話」の実技2科目を学び、保育士資格も取りました。2度の転園を経て、庭のある区立の認可保育園に入園させた後は、仕事と子育ての両立が困難になると言われる「小1の壁」を気遣う声に備えて、小学校のことをできるだけ知っておこうと各教科の指導法及びこれに付随する基礎的な教科内容を学び、小学校教員資格認定試験第1次試験にも合格しました。子どもが小学校に入学した後は、学童保育がなくなり仕事の継続が難しいといわれる「小4の壁」に対して、悩んだ末、自宅を引き払い、身体が弱くなっていた夫の両親との同居を選択しました。

ライフイベントへの対応は、研究時間だけでなく、新しい研究や高い目標に挑む力も奪っていきます。小学校PTAのベルマーク委員会のために月1回早退することや、コロナ感染拡大防止のために時差通学になり、登校付添当番で週1回遅刻することなど、仕事に全力を注げないもどかしさ、周囲への申し訳なさが重なると、つい遠慮して周辺的な仕事を選んでしまったり、このポジションには自分よりも相応しい人がいるのではないかと思ってしまうことがあります。任期を付さないポストの数は限られていることから、実績を積んだ若手研究者がより活躍するためには、育児で制約のある自分が退く方が教室として助かるのではないか、と考えることもあります。この閉塞した状況に、ライフイベントへの対応に引け目を感じることなく、果てるまで仕事をしたい、その思いで女性教員上位職登用制度に申請しました。

ご自身のお仕事の内容とその魅力について教えてください。

現在の私の仕事は、研究開発プログラムマネジメントが50%、個々のプロジェクトに資する研究が25%、自由な研究、教育、その他の活動が25%です。所属する再生医療研究センターは2013年設置の若い組織です。私が2014年に着任した当時のミッションはセンターの運営基盤を安定させ、研究代表者が国から大型予算を獲得した軟骨・ひざ半月板再生グループの実用化研究プロジェクトを軌道に乗せることでした。研究代表者が研究に邁進できるよう、総額数千万円から億単位となる国からの委託事業における研究開発計画書・報告書作成、倫理審査、委受託契約、共同研究契約締結、予算管理、求人等の業務を支援します。この新しい地に、研究者が思う存分に研究できる研究者天国を作りたいと思った日から8年が経過しました。その間に、軟骨・ひざ半月板再生は、基礎研究から大型動物を使用したトランスレーショナルリサーチ、臨床試験、医師主導治験と発展しました。複数のプロジェクトが並行して走る研究ロードマップを眺めると、この道の先に、再生医療の新しい製品が販売され、患者さんに治療として届けられる日が確かに来ると感じられます。

プロジェクトに資する研究とは再生医療開発の流れに沿って計画された個々のプロジェクトに必要な研究です。たとえば、治験を実施するためには、対象疾患の患者数の推定が必要ですが、従来は治療の対象とならなかった患者に対する新たな治療を確立する場合には根拠となるデータが求められます。既に受診している患者に対しては国のレセプト情報データベースを使った研究を行い、病院を受診していない一般住民に対しては、あらたに地域住民コホート研究を立ち上げ、自治体との打合せや参加者募集のチラシ配りなどを経てデータベースを作成して解析する研究を行っています。必要に迫られて新しい研究分野に挑戦できることは魅力であり、これまでの業績はFirst author論文4報、共著論文も合わせると38報となりました。2021年度にはFirst author論文2報を投稿し、次の論文作成に取り組んでいます。

キャリアアップ教員に就いたことで、ご自身やご周囲で変化したこと等があれば教えてください。

当制度では支援期間中に卓越した実績をあげることによって上位職ポストに就任できる途が拓かれています。自分が新たなポストに就けば、実質、教室の任期を付さないポストを増やすことができると思うと、積極的にリーダーに立候補できるようになりました。また、周囲からリーダー役、ファシリテータ役を振られる回数も増えました。以前は、新しい仕事に挑戦したくても、それが十分に達成できる見込みがあり、周囲とのバランスにも支障がないことを示して、ようやく応募のスタートラインに立てる気がしていましたが、キャリアアップ教員に就いたことで、新たな挑戦や高い目標を掲げても、もはや仕事と家庭の両立ができるかとは聞かれないだろうと思えるようになりました。最先端のAIを使った研究内容で科学研究費に応募し、未開拓市場を切り拓くといったタイトルで講演を行うこともできました。2022年は学術大会シンポジウムの座長にも挑戦します。

(写真説明) 提案型政策形成の募集ポスターとともに。

2021年4月からは、週2日文部科学省に技術参与として出向する業務も加わりました。産業連携・地域振興に関する政策立案への貢献のほか、省内職員が政策を作って提案するコンテスト形式の取組である「提案型政策形成」に技術職員の活躍促進をテーマとした政策を応募しました。秋の1次書面審査を総合得点1位で通過し、現在は2次審査に向けてプレゼンテーションを練習しているところです。

こうして平日は忙しく、週末は〆切に追われて仕事をしていることが8割、追われずに仕事をしていることが2割という生活です。仕事が重なり、明日の〆切にもう間に合わないと思っていると、眠っている間に考えていてくれるのか、朝、目覚めたときに答えがでているということがよくあります。また、偶然、テレビをつけたときに流れたCMキャッチフレーズが今まで悩んでいた課題を突破するヒントになったり、たまたま入った本屋で目に入った平積み書籍タイトルが何か物足りないと思っていた提案書のアイディアにつながったりということも多く、答えが向こうからやってくる、誰かが応援してくれていると感じています。

当制度に期待すること、ご要望等はありますか。

当制度は名称付与に加えて、手当支給と研究員の配置が実施されることが特長です。月額3万円の手当支給によって家庭内の地位が向上しました。気兼ねすることなく使える資金を得て、最初にしたことは自分への投資です。資金の半分を使って、キャリアアップ期間に修得することが求められているリーダーシップやマネジメント力を鍛えるプログラムに参加しました。

(写真説明) 2021年度アントレプレナー育成プログラム
「ビジネスプランニング」の実習風景。

私が選んだのは東京医科歯科大学と東京都の協定事業として実施された「アントレプレナー育成プログラム」です。半年間に医療・創薬・デジタルヘルスの領域で企業・新規事業開発に関する16科目を学びます。自分でゼロから事業を起こそうという精神であるアントレプレナーシップは、やりたい気持ちを起点として仲間と支援者を募り、実現し、継続するための熱量を持ち続けていくためのよい訓練となりました。「ビジネスプランニング」実習において、起業家を前にして、女性ならでは、医療従事者ならではの視点を活かしたコンサルティング会社「ならでは総研」を作り、東京医科歯科大学病院「ドクターカー」のミニカーを返礼品とした大学への寄附金を創設するという事業プラン(2021年学内コラボ企画・入賞企画)を発表したことも忘れがたい思い出です。

今後の目標を教えてください。

これまでも、今後も、生涯をかけて医学の発展に貢献するという目標は同じです。さらに、キャリアアップ教員としては、何度でも、何歳からでも新しいことに挑戦できるということを伝えたいと思っています。自分が苦労したこと、できなかったことを忘れずに、そのときの悔しかった思いを昇華させて、次の世代に還元したいと考えています。最初の科研費を得るまでに時間がかかったことは、科研費「研究活動スタート支援」申請者向け説明会「審査の視点から考える申請書作成のコツ」の企画・実施に、再生医療の臨床研究を実施するための文書作成に忙殺されたことは、後に申請する研究者への支援にと活かされています。失われた時を振り返らず、他の誰の人生をもうらやまず、進みたいと思います。

片野先生関連ニュース

▲▽▲ ▲▽▲ 論文受理 Scientific Reports(2022年3月10日)▲▽▲ ▲▽▲

片野先生の「Three-dimensional MRI shows cartilage defect extension with no separation from the meniscus in women in their 70 s with knee osteoarthritis」の論文がScientific Reportsに受理されました。

●Scientific Reports
Katano, H., Ozeki, N., Koga, H. et al. Three-dimensional MRI shows cartilage defect extension with no separation from the meniscus in women in their 70 s with knee osteoarthritis. Sci Rep 12, 4198 (2022).

▲▽▲ 「文教ニュース」(2022年2月21日)▲▽▲

文部科学省に技術参与として出向中の片野講師による研究支援者の活躍促進に関する提案が、1月13日に実施された令和3年度の「提案型政策形成」第2次審査で「推進施策」に選定されました。
次いで2月2日の文部科学事務次官との意見交換では、プレゼンテーション審査参加者の一人としてコメントを発表しました。


▲▽▲ 「日経産業新聞」(2022年2月17日)▲▽▲

本学は東京都との協定事業として医療・創薬・デジタルヘルスの領域で起業や新規事業開発を目指す方を対象としたアントレプレナー育成プログラム(2021年6月-11月)を実施しました。本プログラムを受講した再生医療研究センターの片野講師は日経新聞の取材に応じ、起業に関して体系的な知識を付けるためにプログラムに参加したこと、ビジネスプランを発表する授業では、働く女性が気兼ねなく他者に頼る力を養成できる、家族にお使いを頼む際の意思疎通アプリを考案したことを紹介しました。


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