乳がん治療への取り組み

乳がん治療への取り組み

乳がん治療は集学的治療が必要です
乳がん治療は、正確な画像診断の後、手術、化学療法(抗がん剤治療)、内分泌治療、放射線治療などを組み合わせて、再発のリスクを可能な限り下げていくことが重要です。

手術

手術症例数推移

2010-2019年の手術件数を右のグラフに示します。当科の特徴として、一次再建(同時再建)の比率が高いことが挙げられます。当院形成外科と協力し、1992年より開始した一次再建施行症例数は約500例になりました。乳房温存術の整容性も向上してきましたが、個々に最適な再建法を提示し、一次再建によりさらなる整容性の向上を目指しております。これまでの人工物、広背筋皮弁再建だけでなく、2008年より遊離下腹壁動脈穿通枝皮弁(free DIEP flap)による再建も行っております。また人工物を使用する再建に関しては、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の乳房再建用エキスパンダー/インプラント実施施設認定を受けております。

2020年より、HBOCの方の、保険適応での予防的乳房切除を開始しました。

センチネルリンパ節生検は2004年より導入しました。RI(ラジオアイソトープ)法と色素法の併用により、より高い正診率を得られます。臨床上腋窩リンパ節転移のない方への適応となり、近年は手術適応のある方の70-80%に適応されております。

化学療法(抗がん剤治療)

外来化学療法注射センターのスタッフの皆さん

乳癌の化学療法は「術前化学療法」、「術後補助化学療法」、「進行再発乳癌に対する化学療法」の3つに分けられます。

「術前化学療法」は2004年より統一レジメ(外来主治医にかかわらず、同じ薬剤で治療をする)で施行しております。年間20人前後の方に「術前化学療法」を行っております。

「術後補助化学療法」は手術での摘出標本の病理結果をもとに、適切な薬剤選択をいたします。

「進行再発乳癌に対する化学療法」は年間50名前後の方が治療を受けられております。ハーセプチンやアバスチンなどの分子標的治療薬の投与経験も豊富です。

いずれの化学療法も、病院3階の「外来化学療法注射センター」で施行します。常駐医師、薬剤師および経験豊富な看護師がサポートいたします。

乳がんの画像診断

*乳癌治療と画像診断は切っても切り離せません。

 当院放射線科の乳腺専門の診断チームが、マンモグラフィ(乳房トモシンセシス)、超音波検査、MRI、PET-CT等の読影を行います。また超音波ガイド下での針生検、ステレオガイド下マンモトームを行い、外科医師、放射線科医師、病理医師と連携し、十分な検討を重ねた上での診断をいたします。乳房温存術施行の際には、切除範囲の設定(術前マーキング)を行います。

*乳房トモシンセシス
 最新のマンモグラフィ装置を導入しています。これまでの2D画像のみでなく3D画像(トモシンセシス)を撮影できるため、乳癌の早期発見ができることや、偽陽性(癌ではないのに病変が疑われること)を減らすことに期待されます。

*乳房MRI

  ・MRIガイド下乳房針生検
   MRIでは異常があるが、超音波やマンモグラフィで確認できない場合に、MRIを撮像しながら針生検を行います。

*他院からの乳腺精密検査・生検依頼について

 他院からの乳腺疾患の精密検査の依頼や生検の依頼については、放射線診断科のみでの対応も行っています。
 対象:
  ・ステレオガイド下生検が必要な異常石灰化症例
  ・超音波ガイド下生検(穿刺吸引細胞診、針生検、Vacora生検、マンモトーム生検)が必要な症例
  ・MRIで検出された病変に対してのアプローチ、MRIガイド下乳房針生検
  ・術前の広がり範囲診断・マーキング
  ・PET/CTでの転移検索(こちらについてはPETセンターへ直接)
  ・そのほか、診断に苦慮する症例
 生検のみ依頼の場合でも、必要に応じてこちらで検査を追加させて頂く場合があります(例えば、ステレオガイド下マンモトーム生検前に超音波で再確認することがあります)。
 画像診断結果や生検結果についてはご依頼元の施設に報告書をお送りします。
 その後の治療や経過観察が必要な場合には、ご依頼元の施設で受けて頂くことになります。当院での診療継続をご希望の場合には、当院乳腺外科に診療をご依頼下さい。

他院からのご依頼は事前の予約・手続きが必要となりますので、下記までお問い合わせ下さい。
東京医科歯科大学医学部附属病院医療連携支援センター地域連携室

乳房温存手術後の放射線治療

乳房温存手術後の放射線治療は通常25日間要します。現在、症例によっては16日間に短縮した照射も可能となっております。
また、放射線治療科の吉村亮一教授との共同研究を行っており、早期乳癌術後の照射期間を短縮する以下の2つの方法が検討可能になっております。

1 SAVI(Strut Adjusted Volume Implant)による加速乳房部分照射
 SAVIは専用のマルチカテーテル(複数の管が束になっている筒状の装置)を乳房部分切除部に留置し、このカテーテル内に小線源を通して、もともと癌のあった周囲の乳腺に効果的に放射線治療を行うものです。
2 外部照射による加速乳房部分照射
 通常25日間要していた術後の乳房照射を、5日間(1日2回)でかける方法です。こちらは早期癌で、切除した乳腺組織の端に癌が近くないことが適応条件ですが、月~金の5日間で放射線治療が終了します。臨床試験として行っております。

いずれも詳しいことをお聞きになりたい場合は、乳腺外科主治医、または放射線治療科医師にお尋ねください。

乳がんの遺伝カウンセリング

遺伝子診療外来にて、「乳がん卵巣がん症候群」の遺伝子検査、カウンセリングが可能です。以下に当てはまる場合は、カウンセリングをお勧めすることがあります。他院で治療を受けている方も受診も可能です。

*40歳以下である
*トリプルネガティブ乳癌(女性ホルモン受容体、HER2受容体が陰性)
*一方の胸に、2個以上の乳癌が見つかった
*両方の胸に乳癌が見つかった
*卵巣癌の既往がある
*男性乳癌である/男性乳癌を発症した血縁者がいる
*血縁者に以下のいずれかに当てはまる人がいる
  ・50歳以下で乳癌を発症した血縁者がいる
  ・卵巣癌を発症した血縁者がいる
  ・2人以上乳癌または膵癌を発症した血縁者がいる

リスク低減乳房切除術

乳がんや卵巣がんになる前に予め乳房や卵巣を切除してがんリスクを下げる、「リスク低減乳房切除術(RRM)」「リスク低減卵巣・卵管切除術(RRSO)」の実施が、平成29年1月に当院の臨床倫理委員会で承認されました。対象は、BRCA1遺伝子もしくはBRCA2遺伝子に変異が特定された方で、かつ予防的な手術をご希望される方です。実施に当たっては、手術のメリット・デメリット・限界について十分な理解が得られるよう、遺伝子診療科、乳腺外科、周産・女性診療科において事前のカウンセリングを行います。
現在、乳房手術につきましては、①乳癌の既往のある方の対側乳房切除、②卵巣癌の既往のある方の両側乳房切除、が保険適応となっています。

HBOC・乳腺ハイリスク外来

HBOCは遺伝性乳癌卵巣癌症候群の略称であり、乳がん患者の5-10%を占めるとされます。近年、HBOC患者の血縁者に対し、遺伝カウンセリングと遺伝学的検査を行い、BRCA1,BRCA2に変異が確認された場合、乳房(または卵巣)のスクリーニングを行うことが望ましいとされています。また、乳癌卵巣癌の未発症者に対して乳房(または卵巣)の予防切除が検討される場合もあります。そこで、乳腺外科として「HBOC・乳腺ハイリスク外来」を開設しました。また、産婦人科の「HBOC・婦人科ハイリスク外来」と密に連携し、診療にあたります。

対象は、以下の方々です。
①遺伝学的検査でBRCA1,BRCA2に変異のあった方の乳房スクリーニング(保険診療)
②上記に変異がなくても、明らかに家族歴が濃厚な方の乳房スクリーニング(自費診療)
③予防的乳房切除を予定している方、予防的乳房切除後の経過観察(保険診療)

オンコタイプDX

オンコタイプDX検査は、乳がん再発に関連する21種類の遺伝子を分析するもので、10年遠隔再発リスク率及び化学療法から得られる効果を判断する検査です。一定の基準を満たした、早期乳がんの方の術後の補助療法(特に抗がん剤治療の必要性)の決定に有用です。こちらは自費診療となります。

妊孕性について

妊娠・出産の希望のある方の乳がん治療と、治療後の妊娠出産は切り離せない問題です。当院産婦人科では、乳がんの患者さんに対する妊孕性温存の相談と治療を行っており、妊孕性温存の3つの方法:①未受精卵子凍結、②卵巣組織凍結、③胚(=受精卵)凍結、すべてに対応が可能です。産婦人科との連携により妊孕性の問題を可能な限り解決していきます。
妊娠中の乳がん治療も行っております。

参考動画(がん治療を始める前に)はこちらをクリックしてください。

再発乳癌への取り組み

乳がん治療は大きく3つあります。一つは手術、もう一つは再発予防の治療、そして再発治療です。手術と再発予防治療は、再発リスクを下げる治療です。一方、乳がんの再発治療は、ホルモン治療、抗がん剤治療、放射線治療などを適切に施行することによって、病気と長く付き合うことが可能になってきました。当科では、万が一の再発でも、可能な限りお手伝いできる体制を整えております。

①外来化学療法注射センター(A棟3階)
 抗がん剤治療は基本的に外来化学療法注射センターで行います。担当医師に相談しにくいことに対しても、看護師や薬剤師、ソーシャルワーカーに気軽にご相談ができます。
②骨転移外来(整形外科)
 骨転移は、比較的多く、疼痛や神経症状を伴うことがあります。薬物治療、放射線治療、外科的治療含めて、整形外科骨軟部腫瘍グループの骨転移外来と連携しております。
③呼吸器外科
 肺への単発転移は切除により根治に近い状態に近づく可能性があります。また、転移性肺腫瘍を疑った場合の切除生検もお願いすることがあります。
④脳神経外科
 脳転移に対する症状緩和のために、脳神経外科で手術をお願いすることがあります。全脳照射やγナイフの適応などについて相談します。
⑤放射線治療科
 局所再発や骨転移、リンパ節転移に対して、放射線治療を行います。
⑥心療内科
 再発の際は様々な不安を抱えることと思います。心療内科での対応が可能です。
緩和ケア部門
 抗がん剤治療と並行して、再発による痛みのコントロールや倦怠感、副作用などの相談をしていきます。また、抗がん剤治療が困難になった際も、日常生活のサポートを行っております。緩和ケア病棟への入棟のご希望にも対応します。
⑧医療連携支援センター
 ソーシャルワーカーとの連携により、往診や在宅医療のお手伝いもいたします。また、医療費の問題を抱えている方の相談にのります。