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「1 個の幹細胞から、傷ついた大腸の再生に成功」【渡辺守 教授】

渡辺 守 教授
大学院医歯学総合研究科 消化器病態学分野(右)
中村 哲也 講師
大学院医歯学総合研究科 消化管先端治療学講座(左)

― 新しい消化管再生医療に期待 ―


 東京医科歯科大学大学院・消化器病態学分野の渡辺守教授と同・消化管先端治療学講座の中村哲也講師の研究グループは、オランダ・Hubrecht 研究所のHans Clevers博士らとの共同研究で、正常な大腸上皮細胞を体外で培養する新技術を開発しました。さらに、この方法でただ1 個の幹細胞から増やした細胞群の移植により、傷害された大腸上皮が修復できることを示しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は国際科学誌 Nature Medicine(ネイチャー・メディスン)に、2012 年3月12 日付オンライン版で発表されました。

ポイント

正常な大腸上皮細胞を体外で培養する新しい技術を開発しました。
この方法で全種類の大腸上皮細胞を生み出す「幹細胞」を体外で増やせることがわかりました。
1 個の幹細胞を体外で増やし移植することにより、傷害された大腸上皮(潰瘍)を修復できました。
少量の正常幹細胞を体外で増やし、傷ついた大腸の再生に用いる新しい治療の開発が期待できます。

研究の背景

 消化管の一部である大腸では、上皮細胞と呼ばれる細胞がもっとも内側に並び、内腔(腸内容物が通過する側)とからだとの境界を形づくっています。上皮細胞の欠損は潰瘍(かいよう)と呼ばれ、さまざまな病気で引き起こされる現象であると同時に、潰瘍により上皮バリアを喪失することが、病気の進行にさらなる影響を与えます。また、大腸上皮細胞は大腸癌の由来となる細胞でもあることから、大腸上皮研究はこれまでにも大きな注目を集めてきました。
しかしながら、大腸上皮細胞が増殖し再生するしくみを詳しく調べるために重要な技術、すなわち正常な大腸上皮を体外で生きたまま長期間維持する技術(培養技術)はこれまで不十分であり、また、体外培養した上皮細胞を用いて傷ついた大腸を再生した例はありませんでした。

研究成果の概要

 今回の研究では、体外への取り出し方や維持方法などの条件を考案した結果、マウスの正常な大腸上皮細胞を数ヶ月以上にわたって培養できる新しい技術を開発しました。しかも、この方法で培養できた細胞は体内の大腸上皮に存在する全タイプの細胞を含むだけでなく、全タイプの細胞を生み出す能力をもつ上皮幹細胞を数多く含むことがわかりました。
そこで、この方法によって体外で増やした幹細胞を再び体内に戻しても幹細胞として働くか、すなわち大腸上皮を正常に再生できるかを調べました。このために、蛍光発色によって識別できるマウスから大腸上皮を取り出して体外で増やし、大腸に傷をつけた別のマウスにこれを移植しました。移植方法に工夫を加えた結果、培養細胞は移植を受けたマウスの大腸上皮欠損部に生着し、傷害された上皮を修復することがわかりました。しかも4 週間後には、移植細胞が周囲と変わらない正常な大腸上皮になることを見いだしました。
これをさらに進め、たった1 個の大腸上皮幹細胞を体外で大量の細胞へと増やし、この培養細胞を用いた移植実験を行いました。その結果、増やした細胞が複数の大腸傷害部位で正常上皮を再生できること、そして移植細胞から生まれた大腸上皮は6ヶ月を超えても被移植マウスに生着し続けることをつきとめました。

研究成果の意義

 この研究には2つの意義があると考えます。
第一に、「体内で大腸上皮を再生できる真の大腸上皮幹細胞」を体外で培養可能であることを示した点です。この研究で開発した新しい培養技術は今後、体内で重要な働きをもつ上皮幹細胞を、体内での性質やふるまいにきわめて近い状態のまま体外で詳しく調べる方法として、大腸上皮研究や大腸癌研究に有用なものになると期待されます。
第二に、本研究では培養細胞移植によって、しかもこれがたった一個の幹細胞から体外で増やした細胞の移植によっても、傷ついた大腸上皮を正常に再生できることを示した点にあります。この成果は、これまで報告が無かった大腸上皮細胞治療が理論的に可能であることを示すのみならず、難病である潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患やさまざまな原因で生じる大腸上皮傷害を、同じひとの大腸健常部分から採取したわずかな組織を体外で大量に増やし、これを使ってより広い範囲の傷ついた大腸上皮を治療するという、新しい再生医療技術の開発に重要な知見を提供するものと考えます。
東京医科歯科大学・消化器病態学および消化管先端治療学講座では、すでに同様の技術を用いてヒトの大腸組織から上皮細胞を大量に増やす技術も確立しています。これらの研究成果をさらに発展させることにより、iPS 細胞やES 細胞による再生医療とは異なる視点に立ち、本来の組織に固有の幹細胞を増やし移植に利用する再生医療に道が開けることが期待されます。

説明図

問い合わせ先

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 消化器病態学分野
渡辺 守(わたなべ まもる)
TEL: 03-5803-5973
E-mail: ibd.gast(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp
URL: http://www.tmd.ac.jp/grad/gast/