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「色でわかる遺伝情報発現の変化」【黒柳秀人 講師・萩原正敏 教授】

-タンパク質の多様性の鍵となるスプライシング暗号解読の新たな解析ツール-

黒柳 秀人 講師(右)
萩原 正敏 教授(左)
本学大学院疾患生命科学研究部
形質発現制御学分野

東京医科歯科大学・大学院疾患生命科学研究部の黒柳秀人講師と萩原正敏教授らの研究グループは、線虫をモデル動物として発生段階依存的なmRNAの選択的スプライシング・パターンの変化の様子を可視化して生きたまま観察することに成功し、発生段階依存性の制御機構を明らかにしました。この可視化技術を応用することで、さまざまな遺伝子のスプライシング制御機構(スプライシング暗号)が解明されることが期待されます。この成果は米国の専門誌「Genes & Development(ジーンズ&ディベロプメント)」に、2008年1月29日付オンライン版で発表され、2月1日号の表紙としても掲載されました。この研究は、文部科学省科学研究費補助金による成果です。

ポイント

・モデル生物である線虫を用いて、mRNAの選択的スプライシング・パターン*が発生段階依存的に変化する様子を、生きたまま観察することに成功しました
・選択的スプライシング・パターンを可視化したことによって、発生段階依存性の制御機構(スプライシング暗号)を明らかにしました
・スプライシング暗号が線虫から哺乳類まで動物界に共通であることが解ってきました

研究の背景

ヒトゲノムプロジェクトにより、ヒトの遺伝子の数は2万数千程度と、当初予測されていたよりもずっと少ないことが明らかとなりました。一方、選択的スプライシングは、ひとつの遺伝子から多様なmRNA・タンパク質を生成することを可能にする機構であり、実際に、近年の転写産物の網羅的解析により、ヒトでは実に70%以上の遺伝子が複数の種類のmRNAを造っていることが解ってきました。これら多様なmRNAの多くは、多細胞生物の発生・成長に伴って、さまざまな細胞の種類や発生段階に応じて造り分けられており、選択的スプライシングが少ない遺伝子数でも複雑な多細胞生物の進化を可能にしたと考えられます。このように細胞の種類や発生段階に応じてスプライシング・パターンを変えるための制御機構はスプライシング暗号(splicing code)と呼ばれますが、多細胞生物で生きたまま選択的スプライシング・パターンを解析するシステムがなかったために、スプライシング暗号の解明は遅れていました。黒柳講師と萩原教授のグループでは線虫C. elegansをモデル生物として、生体での選択的スプライシング・パターンを細胞ごとにモニターできるスプライシング・レポーター系を開発し、細胞の種類によってスプライシング・パターンが異なる遺伝子のスプライシング暗号を解明してきました(Kuroyanagi et al. Nature Methods, 2006; Kuroyanagi et al. Molecular and Cellular Biology, 2007)。今回の研究は、発生段階依存的に制御される遺伝子のスプライシング暗号を解明したものです。

研究成果の概要

線虫のコラーゲンの遺伝子let-2は、線虫の成長に伴って、生成される成熟mRNAが胚型から成虫型へと選択的スプライシングによって切り替わります。そこで、胚型なら緑色の蛍光タンパク質GFPが、成虫型なら赤色の蛍光タンパク質RFPが造られるようにレポーター遺伝子を作製し、線虫に導入して、成長に伴うlet-2の選択的スプライシング・パターンの変化を、蛍光の変化として、生きたまま観察することに成功しました。さらに、胚型から成虫型へ切り替わるのに必要な制御因子を同定し、ASD-2 (Alternative Splicing Defective-2)と命名しました。

研究成果の意義

本研究の特色は、let-2遺伝子の選択的スプライシング・パターンを生きたまま可視化することにより、これまでに機能の知られていなかった制御因子ASD-2を同定し、実際にlet-2遺伝子の選択的スプライシングの発生段階依存的性を制御していることを示して、可視化技術の有用性を証明したことです。ASD-2の相同遺伝子は哺乳類やショウジョウバエ(昆虫)にも存在し、同様にスプライシング暗号に関わっていることが近年報告されており、本研究によって、スプライシング暗号は線虫から哺乳類まで動物界に共通であることが明らかとなりました。選択的スプライシングによる多様な成熟mRNAの生成機構が多細胞生物にとって重要であり、進化の過程で維持されてきた結果であると考えられます。

Science誌が選んだ2007年のBreakthrough of the Yearは、「ヒトの遺伝的多様性」でした。私たち一人ひとりの間では、ゲノムの塩基配列が異なる部分が非常に多くあることが解ってきたのです。ヒトの遺伝病の約15%がスプライシングの異常に起因すると考えられてきましたが、ヒトのスプライシング暗号の解明はあまり進んでおらず、スプライシング暗号の異常によって説明できる疾患や体質の違いは、実際にはもっと多いのではないかと推定されています。線虫をはじめとするさまざまなモデル生物を用いてスプライシング暗号の解明が進むことで、これまで不明であったヒトの遺伝的多型が遺伝子機能に与える影響が明らかになっていくものと期待されます。Genes & Development誌2月1日号では、この分野の専門家の1人である米国コロンビア大学教授のJames L. Manley博士らによる展望記事「The search for alternative splicing regulators: new approaches offer a path to a splicing code」が巻頭で本研究成果を取り上げています。

お問い合わせ先

東京医科歯科大学・大学院疾患生命科学研究部
形質発現制御学分野

黒柳 秀人 (くろやなぎ ひでひと)
電話・FAX:03-5803-5853
E-mail:kuroyana.end(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp

萩原 正敏 (はぎわら まさとし)
電話・FAX:03-5803-5836
E-mail:m.hagiwara.end(ここに@を入れてください)mri.tmd.ac.jp

研究室ホームページ:http://www.tmd.ac.jp/mri/mri-end/index.html