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「自己免疫疾患を引き起こすT細胞の運命を決定する遺伝子を同定」【高柳広 教授】

高柳 広 教授
大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学分野

- 免疫難病の新規治療法へ道 -


概要

東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・分子情報伝達学分野の高柳広教授と岡本一男客員助教のグループは、東北大学・大学院生命科学研究科・細胞認識応答分野、大阪大学・免疫学フロンティア研究センター、米国国立環境健康科学研究所などの研究グループとの共同研究で、自己免疫疾患の原因となる自己免疫型T細胞「Th17細胞」の分化が、転写制御因子IκBζによって決定されることをつきとめました。この研究は文部科学省・科学研究費補助金、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業(ERATO型研究)、ならびに日本学術振興会・グローバルCOEプログラムなどの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Nature(ネイチャー)に、2010年4月11日付けオンライン版で発表されました。

ポイント

・関節リウマチや多発性硬化症に代表される自己免疫疾患は、私たちの身体の構成成分を誤認し攻撃してしまう「Th17細胞」と呼ばれる特殊なT細胞が原因で引き起こされます。今回、IκBζと呼ばれる転写制御因子が、この自己免疫型T細胞「Th17細胞」の運命決定遺伝子であることをつきとめました。
・IκBζ遺伝子を破壊したマウスは、実験的に多発性硬化症を誘発させても、全く発症しないことが分かりました。したがってIκBζは、自己免疫疾患治療の有望な創薬ターゲットになり得ると考えられます。
・Th17細胞は免疫難病の治療標的として注目されており、現在最も国際競争が激しい研究分野の一つですが、この研究成果によって、日本における免疫疾患研究が一層進展することが期待されます。

研究の背景

免疫系は本来、体外の病原菌やウイルス等の異物を認識し排除するシステムですが、時には私たちの身体を構成している成分(自己抗原)を異物と誤認し、その結果自己の組織の炎症・損傷が引き起こされるケースがあります。こうした現象により生ずる病気を、総じて「自己免疫疾患」と呼び、我が国でも罹患率の高い関節リウマチや、運動麻痺・視力障害を来す中枢性脱髄疾患である多発性硬化症がそれに分類されます。これらを含め、自己免疫疾患のほとんどが厚生労働省・難治性疾患克服事業による「特定疾患」に認定されており、その原因究明および治療法の開発が急務とされています。
免疫応答の司令塔として働くのは、リンパ球の一種であるT細胞です。近年その中でも自己抗原を認識し自己免疫疾患を誘発する細胞として、「Th17細胞」と呼ばれる特殊なT細胞が同定されました。Th17細胞は、インターロイキン17(IL-17)と呼ばれるサイトカインをはじめ、様々な特異的サイトカインやタンパク質を産生することで、他の免疫担当細胞を動員させたり、組織の炎症を引き起こす能力を持っています。また我々の以前の研究成果より、関節リウマチにおいて、Th17細胞は破骨細胞を異常に活性化させて骨を破壊するT細胞であることが分かりました。こうしたことから、以後この自己免疫型T細胞「Th17細胞」は自己免疫疾患の治療標的として注目され、Th17細胞をめぐる研究が世界中で盛んに行われるようになりました。

研究の概要

未刺激のT細胞がTh17細胞へと分化するには、自己抗原を認識し、IL-6とTGF-βと呼ばれるサイトカインの刺激を受けることが必要です。しかしながら、こうした刺激によって、細胞内でどういう分子メカニズムが働いて、Th17細胞への運命が決定されているのか、不明な点が多く残されていました (図1参照)。そこで、運命決定に関わる分子メカニズムを明らかにすれば、Th17細胞を標的とした治療法の基盤が築けると考えました。

図1 自己免疫型T細胞「Th17細胞」は、自己免疫疾患発症の原因となる
未刺激のT細胞が、自己の成分(自己抗原)を認識し、さらにIL-6およびTGF-βと呼ばれるサイトカインの刺激を受けることで、Th17細胞へ分化する。その結果Th17細胞は、自己の組織の炎症・損傷を促し、関節リウマチや多発性硬化症などに代表される自己免疫疾患の発症が引き起こされる。しかしながらTh17細胞への運命決定が、細胞内のどういう分子メカニズムによって制御されているのか、今まで不明な点が多かった。

我々は、DNAに結合して遺伝子の発現調節を行う転写制御因子の一つ、IκBζと呼ばれるタンパク質がTh17細胞内で高く発現していることを見出しました。抗原刺激ならびに、IL-6とTGF-βの刺激によって、T細胞内のIκBζの発現量が増強されました。IκBζは、IL-17遺伝子をはじめ、様々なTh17細胞機能に関わる遺伝子のDNA領域近傍に結合し、それらTh17細胞特異的な遺伝子の発現を制御していることが明らかになりました (図2参照)。

図2 転写制御因子IκBζはTh17細胞の分化に必須である
未刺激のT細胞が抗原刺激とサイトカイン(IL-6とTGF-β)による刺激を受けると、細胞内のIκBζの発現量が増大する。IκBζは、IL-17遺伝子をはじめとした、様々なTh17細胞機能に関わる遺伝子の発現を誘導し、Th17細胞の運命を決定する。したがってIκBζは、自己免疫疾患治療の有望な創薬ターゲットとなり得る。

IκBζ遺伝子を破壊したマウス由来のT細胞では、Th17細胞への分化が障害されており、IκBζ遺伝子はTh17細胞の運命を決定する必須遺伝子であることが分かりました。さらにIκBζ遺伝子を破壊したマウスに、実験的に多発性硬化症を誘発させても全く発症しないことが示されました (図3参照)。

図3 IκBζ遺伝子を破壊したマウスは多発性硬化症を発症しない
野生型マウスおよびIκBζ遺伝子を破壊したマウスに、実験的に多発性硬化症を誘発させた。(A)野生型マウスでは約一週間後から発症が認められ、重度の中枢神経系障害が認められた。一方、IκBζ遺伝子を破壊したマウスは全く発症しなかった。(B)各マウスから脊髄を摘出し、病理組織学的検査を行った。野生型マウスの脊髄には、炎症性細胞の浸潤が広範囲に認められ(上段)、それにともない脱髄班が観察される(下段)。それに対して、IκBζ遺伝子を破壊したマウスでは、炎症性細胞浸潤および脱髄班が認められず、脊髄が無傷のままであることが観察された。

研究成果の意義

本研究成果により、IκBζを標的とした治療法が、自己免疫疾患に対して強い治療効果を 発揮すると期待されます (図2参照)。したがって、今後IκBζの機能を特異的に阻害できる治療薬やIκBζの発現量を抑えるような治療技術の開発が必要であると考えています。また、本研究成果はTh17細胞の分化制御過程を解明したという点で学術的意義が非常に高いと言えます。国際競争が激しい当該研究分野において先導的な研究を成し得たことで、日本における免疫疾患研究が一層進展することが期待されます。

お問い合わせ先

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野教授
高柳 広(たかやなぎ ひろし)
電話:03-5803-5471 ファックス:03-5803-0192
E-mail:taka.csi(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp