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ポリグルタミン病と精神遅滞に関与する分子PQBP-1 (~2010)

 ポリグルタミン病は遺伝子のエクソン内のCAGリピート配列が異常な 長さに伸長するために起きる一連の遺伝性神経変性疾患群の総称です。遺伝性脊髄小脳変性症、ハンチントン病、球脊髄性筋萎縮症など少なくとも9種類の変性疾患がこの範疇に含まれることが分かっています。ポリグルタミン配列は多くの核タンパクに含まれること、いくつかの疾患原因タンパクの機能が核の生理機能に深く関わっていること、疾患タンパクに結合するもののなかに転写関連因子が多いことなどが明らかにされて、核機能障害がポリグルタミン病の発症につながるとの考え方が有力になってきています。

 わたしたちはポリグルタミン配列と結合する新しい分子(PQBP-1, PQBP1)を発見し(Waragai et al., Human Molecular Genetics 1999)、PQBP-1が転写とRNA修飾に関連した機能を果たすことを明らかにしてきました。PQBP-1はポリグルタミン病原因タンパクである変異型のAtaxin-1やhuntingtinと結合した結果、PQBP-1が関与する転写障害やスプライシングの異常を起こすことが想定されます(Okazawa et al., Neuron 2002)。PQBP-1はスプライシングが行われる核のnuclear bodyに存在すること(Okazawa et al., Neuron 2002)や、スプライシング因子U5-15kDと結合すること(Waragai et al., BBRC 2002)もその予想を支持しています。

PQBP-1の結合関係を示す。転写基本因子RNA polymerase IIとRNA splicing factor U5-15kDをリン酸化依存的に結合する。結合には、それぞれWWドメイン(WWD)とC-terminalドメイン(CTD)が使われる。したがってPQBP-1は転写とスプライシングの機能連関に関わる分子であることが予想され、PRドメイン(PRD)に結合する異常ポリグルタミンはこの両機能に悪影響を与えることが予想される。一方、ヒトPQBP1遺伝子に変異が起きて、C-terminalドメインが失われると精神遅滞が生じることが明らかになりました。PQBP1は神経幹細胞にも多く発現しているようであり、現在その機能を解析しています。

PQBP-1の核内部での分布を示す。中抜けを持ったnuclear bodyを多数形成していることが分かる。nuclear matrixにも薄く分布している。左(緑)の黒く大きく抜けた場所は核小体である。

 PQBP-1の発現量はかなり厳密に調節されているらしく、その変化は神経細胞の機能失調や細胞死につながるようです。実際にPQBP-1過剰発現マウスでは運動ニューロンの遅発性神経変性が起きることを発見しました(Okuda et al., Human Molecular Genetics 2003)。さらにこのマウスの運動ニューロン変性過程をマイクロアレイで解析を進めた結果、神経細胞においてミトコンドリアの異常が起きていることがわかりました(Marubuchi et al., Journal of Neurochemistry 2005)。ALS(筋萎縮性側索硬化症)など運動ニューロン疾患では、他のグループからもミトコンドリア異常が報告されており、興味深い結果と考えています。こららの点からPQBP-1を介した神経細胞の変化は変性のモデルと考えられます。

 PQBP-1(PQBP1)について新しい情報が2003年にヨーロッパからもたらされました。ヒトPQBP1遺伝子に変異がおこると小頭症を伴う精神遅滞が起きると言う事実です(Kalcheuer et al., Nature Genetics 2003)。PQBP-1が神経変性のみならず、精神遅滞にも関与することになりました。この分子病態的意味については、まだ公表できませんが、クリアーかつエキサイティングな説明が可能です。

一方、PQBP1ノックダウンマウスを作成したところ、興味深い症状を示しました。すなわち、学習の中で不安に関連したものが十分達成できないとのものでした(Ito et al., Hum Mol Genet 2009)。また、ショウジョウバエのPQBP1変異モデルでも学習障害が認められました(Tamura et al., J Neurosci)。しかし、驚いたことに記憶自体には何の問題もありませんでした。マウスとショウジョウバエの双方でシナプス伝達に重要な機能を果たすNMDA受容体のNR1サブユニットの発現低下があり、PQBP1の遺伝子発現機能障害の結果起きていると考えられます。NR1の低下は認知、学習の障害と関連するものと予想しています。さらに、これらのマウスとショウジョウバエの症状はPBAというHDAC阻害剤により、成体になっても改善することも分かりました。つまり、発達障害の症状は固定したものではなく、大人になってからでも薬によって改善する可能性がある、ということが示された訳です。これは、患者さんの治療に大きな光明を与える成果であると考えています。

近年、PQBP1変異の患者さんの報告が相次ぎ、発達障害・精神遅滞においては、fragile-X症候群、Rett症候群に次ぐ、主要な疾患であると考えられています。

神経病理学分野