グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム  > 神経病理学分野  > 研究紹介  > 小頭症モデル動物の人為的脳サイズ回復に成功 (2014)

小頭症モデル動物の人為的脳サイズ回復に成功 (2014)

脳サイズは動物間あるいはヒト個人の間で異なるが、知能、感情を初めとする様々な脳活動の違いを生み出す根本的な要素と考えられている。脳サイズ調節の分子メカニズムを解明する糸口として期待されてきたのが、小頭症と呼ばれる脳サイズの縮小を来す疾患である。近年、その原因遺伝子が相次いで明らかになったが、その一つにPQBP1 がある。PQBP1 は変性疾患ポリグルタミン病において中間病態を担うタンパクとして我々が15 年前に発見した分子であるが(Waragai et al., Hum Mol Genet 1999、Okazawa et al., Neuron 2002)、その後、欧米の大規模研究からPQBP1 遺伝子変異がX 染色体連鎖知的障害/精神遅滞家系(XLID/XLMR) で高頻度に見つかり、PQBP1 が知的障害の主要な原因遺伝子であることが示されている(Kalscheuer et al., Nature Genetics 2003 等)。細胞レベルの機能として、我々あるいはハーバード大学のSilver 教授のグループは、PQBP1 がRNA のスプライシングに関わることを報告してきたが(BBRC 2000; Neuron 2002; Cell 2010; Genes Develp 2013; Nat Commun 2014)、小頭症あるいは知的障害の生じる具体的な病態メカニズム、またPQBP1 異常症の治療戦略については重要な問題が残っていた。

これらの問題点に対して、今回の研究では、1)従来知られていなかった新たな脳サイズ調節機構、2)PQBP1 異常症における小頭症の発症メカニズム、3)PQBP1 異常症の遺伝子治療の道筋、を明らかにした。
 小頭症は従来、神経幹細胞の分化効率が上昇する(このために幹細胞が枯渇する)、神経幹細胞の細胞死が亢進する、分化ニューロンの細胞移動が障害されるという3 つのメカニズムが重要な役割を果たすと考えられてきた。ところが、我々の作成した神経幹細胞内のPQBP1 を欠損するモデルマウス、PQBP1 Nestin-Cre-conditional KO(PQBP1-cKO)は、小頭症は再現するものの、これらの何れのメカニズムにも当てはまらず、その代わりに胎児の脳形成期における細胞周期時間が異常に延長していることが分かった。この延長こそが神経幹細胞の分裂回数を減らし、結果としてニューロン産生を減らしているものと考えた。
さらに、PQBP1-cKO マウスとコントロールマウスを比較すると、PQBP 1のスプライシング障害により、数百個のM 期、S 期などの細胞周期調節タンパク質やユビキチンプロテアソーム関連タンパク質が影響を受けていることを明らかにした。特にPQBP1 は、間接的に結合しているであるAPC4(ユビキチンリガーゼ複合体サブユニット)の減少により細胞周期延長に貢献していることも判明した。また、PQBP1 欠損による神経幹細胞の細胞増殖抑制は、APC4 を補うことにより回復し、胎生期のPQBP1-cKO マウスにAPC4 を補うことにより、大脳皮質形成が回復した。

最後に本研究では小頭症の治療を主眼として、PQBP1-cKO を対象に胎児期遺伝子治療を試みた。PQBP1 欠損による機能低下を妊娠中の母マウスへAAV ベクターを腹腔注射してPQBP1 を補充すると、生後の小頭症モデルマウスの脳サイズが部分的に回復し、行動解析においても学習能力など知的障害関連の症状が改善した。本研究成果は、人為的に脳サイズを調節することが可能であることを証明し、遺伝的な脳サイズ• 知能の障害を改善しうる治療法への道筋を示したものであり、将来治療に向けた取組がなされる可能性がある。また、PQBP1 は複数の変性疾患の原因タンパク質と結合して機能低下を来すことが既に知られており、本研究で示した遺伝子治療を成人期に用いることが変性疾患に対しても有効である可能性がある。さらに、将来的にはヒト知能を高めることが可能か? という問題にもつながる可能性のある発見でもある。

神経病理学分野