ナノメディシン分子科学

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(平成23~27年度)
領域略称名「ナノメディシン」 領域番号 2306

「ナノメディシン分子科学」学術領域研究への期待

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  1. 石原 一彦
  2. 東京大学 大学院工学系研究科
  3. マテリアル工学専攻/バイオエンジニアリング専攻
  4. 教授・領域代表

 平成23年度より、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ナノメディシン分子科学」が発足いたしました。工学、理学、医学など幅広い既存の学術分野の融合のもと、新しい分子化学を基盤とする細胞環境の理解と考察を進め、最終的には高度の分化・進化した医療に貢献できる学術領域の構築を目指しています。

 “ナノメディシン”という単語は、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による新しい医療というように思いがちです。いわゆる2つの大きな科学イノベーションの足し算という観点から、バイオチップやバイオセンサー、ナノキャリアーなどの医療技術に利用できるデバイスの研究がされました。一部のデバイスは診断や分析に有効であることは周知の事実ですが、この周辺領域を取り扱う学術はいまだに存在せず、工学としての展開を妨げ、また医療において信頼性を獲得するには至っていません。ここで、新たな観点から「ナノメディシン分子科学」を新学術として創出することで、化学・物理学などの基礎科学で、生命現象を明確に理解する学術領域が生まれるとともに、これは、工学、薬学、医学などと連結し、直接社会貢献する分野に大きな福音をもたらします。

具体的な波及効果としては、以下のことを想定しております。

 現状の医療においても、疾病の発症原因を、細胞内の分子反応により解釈することで、一義的に解釈できると考えています。また、これに対する治療法も、分子反応パラメーターを解析しながら選択することができるようになり、より効果的な治療が可能となります。革新的医療への適切な貢献として、組織再生医療に期待されているES細胞、iPS細胞の製造法確立に有用な分子パラメーターが提供でき、この分野の研究・開発を効率化でき、世界的なイニシアティブを堅持できます。

 医療産業活性化の促進として、正確な生体分子情報が得られることで、安全性と医療機能性を加味した医療デバイスの設計、製造が容易になります。開発プロセスの統一化・簡略化ができるため、開発期間が著しく短縮されます。効率の良い医薬品設計法の確立として、コンピューター科学に正確かつ豊富なパラメーターを提供できます。バイオシミュレーションや、創薬の分子シミュレーションが大きく進展します。

 広範な知識を有する若手研究者の育成として、複雑系である生命・生体活動を統一した情報で理解でき、専門分野を異にしながらも、医工学の領域において優れた研究者の育成が可能となると考えています。

 くれぐれも新学術領域研究「ナノメディシン分子科学」への皆様のご支援とご指導をお願いいたします。

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