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研究成果・プレスリリース

カルシウムバイオセンサーマウスの樹立および5D生体イメージングによる自己免疫疾患未病検出

Medical Research Institute Tokyo Medical and Dental University

安達准教授らによる難治疾患共同研究拠点における共同研究の成果がScientific Reportsに発表(2016.1.6)されました。


カルシウムバイオセンサーマウスの5D生体イメージングによる自己免疫疾患の早期検出システムを確立【共同研究拠点成果:安達 貴弘 准教授】

安達 貴弘 准教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所)、烏山 一 教授、吉川 宗一郎 助教(東京医科歯科大学大学院医歯総合研究科)、古川 哲史 教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所)、笹野 哲郎 准教授(東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科)石井 優 教授(大阪大学医学系研究科)、高柳 広 教授(東京大学医学系研究科)、宮脇 敦史 チームリーダー(理化学研究所脳科学総合研究センター)、他

著者名:Yoshikawa S, Usami T, Kikuta J, Ishii M, Sasano T, Sugiyama K, Furukawa T, Nakasho E, Takayanagi H, Tedder TF, Karasuyama H, Miyawaki A, Adachi T. タイトル:Intravital imaging of Ca²⁺ signals in lymphocytes of Ca²⁺ biosensor transgenic mice: indication of autoimmune diseases before the pathological onset. Sci Rep. 2016 Jan 6;6:18738.

ポイント

フェルスター/蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を基盤としたカルシウムバイオセンサーの細胞系譜特異的発現マウスの樹立
5D生体イメージング(x、y、z、時間、カルシウムシグナル)の確立
自己免疫疾患発症以前の病変(未病)を検出

研究の背景

免疫細胞は、からだの中を活発に動きながら病原体、液性因子、他の細胞などと出会い、様々なシグナル応答を起こして、活性化、分化、増殖、ホーミング、細胞死などの運命が決定されます。抗原によりT細胞やB細胞が刺激される時に、情報伝達の1つとしてカルシウムシグナルが使われることはよく知られていましたが、生体内の生理的条件下で、どのような情報伝達が行われているかはほとんど不明でした。カルシウムシグナルは、ほとんどすべての細胞でセカンドメッセンジャーとして使われており、免疫細胞でも抗原、サイトカイン等の刺激にも使われており、免疫細胞の情報伝達をモニターする代表的なシグナル伝達の1つです。それを生理的条件下で調べるために、動きのある細胞や生体イメージングに適したフェルスター/蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を基盤としたカルシウムバイオセンサー発現マウスの樹立は、これまでに多くの研究者により試みられてきたが、免疫系でも正常に発現するマウスの樹立には至っていませんでした。

研究成果の概要

 東京医科歯科大学難治疾患研究所の安達貴弘准教授はFRETを基盤としたカルシウムバイオセンサーYC3.60(図1)のコンディショナル発現トランスジェニックマウスを作製し、細胞系譜特異的、さらには全身性に発現するマウスの樹立に成功しました。これまで困難であった免疫系の細胞でも、B細胞あるいはT細胞特異的発現マウスにおいてYC3.60の十分な強さの発現が認められ、リンパ球におけるカルシウムシグナルの検出に使えることを示しました。また、本学大学院医歯総合研究科の吉川宗一郎 助教、烏山一教授らとの共同研究により、共焦点レーザー顕微鏡あるいは2光子励起顕微鏡を用いて、拍動、呼吸などの影響があり、マウス個体レベルの生体イメージングで脾臓、骨髄、小腸パイエル板などのリンパ組織内で活発に動くリンパ球のシグナル伝達をモニターできることを証明しました(図2、3)。生理的条件下で細胞の動態のみならず、カルシウムシグナルもモニターできる、生きたマウス個体を用いた5D(x、y、z、時間、カルシウムシグナル)生体イメージングシステムを確立しました。さらにこのシステムを使って、自己免疫疾患の素因を持つCD22欠損マウスなどとB細胞あるいはT細胞特異的カルシウムバイオセンサー発現マウスと交配し、自己抗体産生やリンパ組織の肥大などの病態発症以前の超早期(未病の状態)で生体イメージングによる生理的条件下でのカルシウムシグナルを調べたところ、B細胞やT細胞のカルシウムシグナルに異常があることを見出しました(図4)。各種自己免疫疾患モデルマウスを用いた病因・病態解明に、カルシウムシグナルが有効な指標になることが示唆されました。

図1.カルシウムバイオセンサーYC3.60 Ca²⁺と結合すると構造がコンパクトになり、2つの蛍光蛋白質(CFPとYFP)間でFRETが起こり、蛍光波長がシフトする(左)。(VenusはYFPの変異体)CFPを励起した場合、YFP/CFPで細胞内Ca²⁺濃度がモニターできる。

図2.B細胞特異的YC3.60発現マウスの生体イメージング 脾臓B細胞での経時的なカルシウム濃度変化(左)。Ca²⁺濃度が一過性で高くなった細胞(赤)が見られる。蛍光強度およびカルシウム濃度の定量化(右)。YC3.60はマウスの動き等で蛍光強度が変化した場合でも補正でき、カルシウム濃度をモニターできる。

図3.マウス個体を用いた小腸パイエル板の生体イメージングによるB細胞Ca²⁺濃度の3D解析Ca²⁺濃度の高いB細胞は表面近くにいる。

図4.CD22欠損マウスマの生体イメージング 脾臓B細胞のCa²⁺濃度を示す。野生型(WT)に比べ、CD22欠損B細胞ではCa²⁺濃度の高い細胞の頻度が高い。

研究成果の意義

 今回、細胞系譜特異的カルシウムバイオセンサーYC3.60発現マウスの樹立により、呼吸や拍動などにより動きのあるマウス個体を使った生体イメージング、さらには生体内で動きがある免疫細胞などについても、生理的条件下でのカルシウムシグナルを検出することが可能になりました。また、カルシウムシグナルをモニターすることにより、病態の超早期に異常を発見できることがわかり、様々な疾患でも同様に早期の検出ができることを示唆し、病因・病態解明の飛躍的な進展が期待されます。様々な疾患モデルマウスについて早期異常の検出は、それに着目した解析はヒトの疾患についても病因解明につながることが期待されます。

語句の説明
1.CFP(Cyan fluorescent protein;シアン蛍光蛋白質)
オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白質に変異を導入し、短波長側に励起波長、蛍光波長がシフトしたもの。480 nm付近をピークとした蛍光波長。
2.YFP(Yellow fluorescent protein;黄色蛍光蛋白質)
オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白質に変異を導入し、長波長側に励起波長、蛍光波長ともシフトしたもの。430 nm付近をピークとした蛍光波長。なお、VenusはYFPの円順列変異体。
3.YC3.60(Yellow Cameleon 3.60)
分子内のCFPとVenusの蛍光蛋白質の間にカルモジュリンのカルシウム結合部分とミオシン軽鎖キナーゼのM13ペプチドを持ち、カルシウムが結合するとカルモジュリンの部分がM13ペプチドを包み込み、構造がコンパクトになる。その結果、FRETが起こりうる距離にCFPとVenusが隣接する。CFPのみを励起させた場合、YC3.60がカルシウムと結合するとFRETが起こり、蛍光波長がシアンから黄色側にシフトし、これがカルシウムイオンをセンスするメカニズムとなっている。
4.FRET(Förster/Fluorescent resonance energy transfer;フェルスター/蛍光共鳴エネルギー移動)
近接する2つの発色団の間において、供与体で吸収された光エネルギーが他方の受容体にエネルギーが移動する現象をいう。YC3.60の場合、供与体がCFP、受容体がYFPであり、FRETが起こるとCFPの蛍光が弱くなり、YFPの蛍光が放射される。
5.CD22
B細胞の抗原受容体の抑制性共受容体で、これを欠損したB細胞では抗原受容体を介したシグナル伝達が亢進する。

謝辞

本研究の一部は、難治疾患共同研究拠点共同研究経費(共同研究者:東京医科歯科大学大学院・教授 烏山一、助教 吉川宗一郎 平成26年度~27年度)の助成を受けて実施しました。