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研究成果・プレスリリース

原因不明の日本人先天異常症645例のマイクロアレイ解析により、155例 (24.0%)に疾患原因となるゲノムコピー数異常(CNV)を検出

Medical Research Institute Tokyo Medical and Dental University

今回、多発奇形をともなう発達遅滞を呈する日本人450名を対象としたSNPアレイを用いた微細ゲノム構造異常のスクリーニングを実施することで、原因不明とされていた日本人先天異常症645例のうち、155例 (24.0%)において疾患原因となるゲノムコピー数異常(CNV)をみつけだすことができました。
 当該成果は、難治疾患共同研究拠点公募研究課題「小脳脳幹部低形成を伴う小頭症の包括的な疾患原因解明と病態理解(共同研究者・大阪母子保健総合医療センター・遺伝診療科主任部長・岡本伸彦先生)」の一部として得られたものです。


論文:Journal of Human Genetics, doi: 10.1038/jhg.2015.154.
著者:Uehara DT, Hayashi S, Okamoto N, Mizuno S, Chinen Y, Kosaki R, Kosho T, Kurosawa K, Matsumoto H, Mitsubuchi H, Numabe H, Saitoh S, Makita Y, Hata A, Imoto I, Inazawa J
タイトル: SNP array screening of cryptic genomic imbalances in 450 Japanese subjects with intellectual disability and multiple congenital anomalies previously negative for large rearrangements.

ポイント

発達遅滞や多発奇形を合併する先天異常症は全人口の2-3%に存在するとされる難治性疾患です。
臨床症状や染色体検査などで診断できる先天異常症は約2割で、残りは原因不明のまま診断未確定となっているのが現状です。
原因不明の日本人先天異常症の患児645症例を対象に詳細なマイクロアレイ解析を行い、155例 (24.0%)に疾患原因となるCNVを見出しました。
本研究は、日本人における原因不明先天異常症の大規模なマイクロアレイ解析の結果を初めて示したものです。

研究の背景

発達遅滞 (Intellectual disability; ID)は全人口の2-3%に存在する遺伝的に不均一な病態であり、しばしば多発奇形 (multiple congenital anomalies; MCA)を合併し、長期的な医療ケアを要します。患児の表現型 (phenotype)や染色体検査から診断がつくのは全体の約2割であり、多くは原因不明のままであることから、疾患特異的なゲノム異常を同定し病態を解明する診断法の開発や、それらの情報を基盤として患者ごとに最適化された治療・療育方針の確立が求められています。

研究成果の概要

 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子細胞遺伝学教室(稲澤譲治教授)では、2005年から全国23の小児医療施設とコンソーシアムを形成して、診断未確定の多発奇形を伴う発達遅滞症例 (ID/MCA) 645例を集積し、疾患の原因となる微細なゲノムコピー数変化 (copy number variants; CNV)を同定する研究プロジェクトを推進してきました。これまでの成果として、最初に、当研究室で開発した2種類のBACアレイ を用いてID/MCAの536症例を対象とした1,2次スクリーニングを行い、102例で疾患原因となるCNV (pathogenic CNV; pCNV)を検出して報告しました (Hayashi et al., J Hum Genet 2011)。
 続いて今回の研究では、3次スクリーニングとして、pCNVが検出されなかった450例を対象にSNPアレイ (HumanOmniExpress, Illumina)を用いた3次スクリーニングを行い、より小さなサイズのpCNVの検出をはかるとともに、SNPジェノタイピングによる片親性ダイソミー (uniparental disomy; UPD)や、コピー数変化のないヘテロ接合喪失 (copy-number neutral loss of heterozygosity; CNLOH)の評価を行いました。その結果、22例にpCNVを検出しました。特に、新規原因遺伝子候補PPFIA2を含むCNVが検出されました(図1)。PPFIA2は中枢神経細胞のみに発現し、前シナプス領域において MALS-CASK-Mint1 複合体と相互作用することが知られています。この相互作用はCASKとPPFIA2との直接結合により惹起されますが、CASKは当研究室から小脳脳幹部低形成を伴うIDの原因遺伝子であることを世界に先駆けて報告したものです (Hayashi et al., Am J Med Genet 2008; Hayashi et al., Hum Genet 2011)。
 これらのpCNV以外にも、疾患との関連性を肯定または否定する根拠が十分でないためにVariants of uncertain clinical significance (VUS)と分類されたCNVが15例に検出されました。また、3Mb以上のサイズのCNLOHは4症例に見いだされましたが、いずれの症例でも疾患関連性のCNVは認められないことから、CNLOH領域に座位する遺伝子の劣性点変異による可能性が示唆されました。

図1 


研究成果の意義

 2005年~2015年の約11年間をかけ、3段階のステップを経て精度の高いCNVスクリーニングを行うことで、645例中155例 (24.0%)にpCNVを検出しました(図2)。このような大規模な日本人ID/MCAのゲノム解析は本報告が初めての例となります。今回の結果は、従来の欧米で同様の研究で報告されてきた15-20%というpCNVの検出頻度にほぼ合致するものでした。しかし、全体の症例の60%はなお原因不明であり、これらの診断未確定例においても、次世代型シークエンサーを用いてより詳細な塩基レベルのゲノム異常解析を行うことで病因となるゲノム異常の一部を明らかにできる可能性があります。

図2 


用語説明
1.マイクロアレイ
シリコンやガラスなどのチップ上に多数の拡散を配置し、ゲノム解析を行うもの。比較ゲノムハイブリダイゼーションを行うものを特にアレイCGHという。本稿では特にゲノム構造以上の検出を目的としたアレイCGHならびにSNPアレイが用いられた。
2.先天異常症
遺伝的要因や環境要因など、出生前に存在する因子を原因として生じる疾患の総称。
3.CNV (Copy number variants; ゲノムコピー数変化)
染色体上のゲノムDNAが1kb以上のサイズでコピー数変化を起こしている領域のこと。通常、常染色体上のゲノムコピー数は2コピーだが、欠失(1コピー以下)または重複(3コピー以上)の変化が起こる。表現型にまったく影響を与えないものから、個体差や体質に関与するもの、疾患原因となるものまで、その意義はさまざまである。なお、全人口の1%以上に存在するCNVは、特にゲノムコピー数多形と呼ばれる。
4.SNP (Single nucleotide polymorphism; 一塩基多型)
全人口に1%以上の頻度で見られる、ゲノム塩基配列中の一塩基の変異。
5.LOH (Loss of heterozygosity; ヘテロ接合喪失)
正常な体細胞は両親それぞれに由来する一対の常染色体を有するが、その部分欠失などにより一方のアリルが失われ、もう片方のアリルだけが存在している状態。