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研究成果・プレスリリース

ストレス応答遺伝子発現と神経系発生における転写伸長因子エロンガンAの役割を解明

Medical Research Institute Tokyo Medical and Dental University

北嶋教授、川内助教、井上大学院生らの難治疾患共同研究拠点における共同研究の成果が、米国生化学分子生物学会誌(Journal of Biological Chemistry)とCell Reports誌で発表されました。


研究の背景

生体内では様々な刺激に応じてストレス反応遺伝子が迅速に誘導される必要がありますが、近年になって遺伝子発現制御の律速段階は転写「開始」よりも、むしろその後の転写産物を伸ばして行く「伸長」段階にあることが明らかになってきました。エロンガンAは現在約20 種類知られている転写「伸長」因子のうちの一つですが、ほかの転写伸長因子と異なり、DNA 傷害などのストレス時に転写装置そのものであるRNAポリメラーゼII をユビキチン化してその分解を促進するという、転写量制御の観点からすると相反する機能を持ち合わせているユニークな伸長因子です。これまでに実際の生体内での転写伸長への関与については詳細な検討がなされていませんでした。当分野は、このエロンガンAについて、高知大学医学部遺伝子機能解析学教室(麻生悌二郎教授 : 難治疾患共同研究拠点共同研究(平成22 年度~24 年度))と米国StowersInstitute for Medical Research (Joan Conaway 博士) と共同研究を進めた結果、(1)エロンガンAがストレス応答遺伝子の転写制御に大きな役割を演じていることを発見し報告いたしました (J. Biol. Chem. July 3, 2013 [Papers in press] )。本共同研究からは2012年11 月に(2)エロンガンAは神経系発生において重要な因子であることを発見し報告しており(Cell Reports 2, 1129-1136, 2012)、今回の報告は高知大学医学部遺伝子機能解析学教室との難治疾患共同研究拠点共同研究における第二弾の報告となります。

(1)北嶋繁孝教授、川内潤也助教、井上允大学院生、福田瑞恵大学院生、内田洋平特別研究生(東京医科歯科大学難治疾患研究所遺伝生化学)、安川孝史助教、麻生悌二郎教授(高知大学医学部遺伝子機能解析学)、Ronald C. Conaway博士、Joan W. Conaway博士(Stowers Institute for Medical Research)

Kawauchi J, Inoue M, Fukuda M, Uchida Y, Yasukawa T, Conaway RC, Conaway JW,Aso T, Kitajima S. Transcriptional properties of mammalian Elongin A and its role in stress response. J Biol Chem. 2013 Jul 3. [Epub ahead of print] PubMed PMID:23828199

研究の成果

われわれはまずエロンガンAノックダウン細胞を用いてDNA傷害後の遺伝子発現を網羅的に解析し、エロンガンAは特にストレス応答遺伝子の適切な発現に必須(図1)であることを見出しました。また、生体内でもエロンガンAは転写伸長過程にあるRNAポリメラーゼIIと結合しており(図2)、前述の網羅的解析で見出した遺伝子上にエロンガンAが存在することもクロマチン免疫沈降法にて確認しました。その過程で、興味深いことに、エロンガンAは遺伝子上において特にその後半部分に多く存在することを見出しました(図3)。従って、同じ伸長因子とはいっても、P-TEFbなど他の因子と異なり、伸長段階のlate phaseで役割を演じていることが示唆されました。また、高知大学麻生悌二郎教授のグループによってエロンガンA分子内でRNAポリメラーゼIIのユビキチン化と転写伸長に寄与するドメインがそれぞれ見出されていましたが、ストレス応答遺伝子発現においても発生における神経系形成遺伝子発現同様に、エロンガンAのユビキチン活性は必要ではなく、伸長活性のみが必須であることを見出しました。今回の研究成果をまとめると、(1)転写伸長因子エロンガンAは迅速なストレス応答遺伝子発現に重要な役割を演じており、転写のフェーズにおける機能発揮の場は、伸長後期であることが示唆されたこと。(2)ストレス応答遺伝子発現においては、エロンガンAのRNAポリメラーゼIIユビキチン活性は必須ではないこと、になります。

(2)麻生悌二郎教授、安川孝史助教、筒井文研究補助員、村岡拓也大学院生(高知大学医学部遺伝子機能解析学)、北嶋繁孝教授、川内潤也助教、井上允大学院生(東京医科歯科大学難治疾患研究所遺伝生化学)、高橋秀尚助教(北海道大学生化学講座)、竹内保教授(岐阜大学医学部免疫病理学講座)、津田雅之准教授(高知大学総合研究センター動物資源開発分野)、Shachi Bhatt大学院生、Paul A. Trainor博士、Ronald C. Conaway博士、Joan W. Conaway博士(Stowers Institute for Medical Research)

Yasukawa T, Bhatt S, Takeuchi T, Kawauchi J, Takahashi H, Tsutsui A, Muraoka T, Inoue M, Tsuda M, Kitajima S, Conaway RC, Conaway JW, Trainor PA, Aso T.Transcriptional elongation factor elongin A regulates retinoic acid-induced gene expression during neuronal differentiation. Cell Rep. 2012 Nov 29;2(5):1129-36.doi: 10.1016/j.celrep.2012.09.031. Epub 2012 Nov 1. PubMed PMID: 23122963.

研究の成果

エロンガンAノックアウトマウスでは神経系形成不全を生じます。その原因を探るため、E9.5~E10.5の胎仔を用いたホールマウントin situ ハイブリダイゼーション法によって、脳・脊髄における神経系分化に重要な各種転写制御因子の発現を検討しました(図4)。その結果、神経堤細胞のマーカーであるSox10の発現が脳神経節と後根神経節において、また、感覚神経系の分化に必要なNeurogenin1ならびにNeuroD1などの発現が第V神経節などで著明に低下していることが判明しました。一方プラコード細胞のマーカーであるPax8や交感神経系の分化に必要なMash1の発現には有意な変化が見られませんでした。以上より、エロンガンAは神経堤細胞からの感覚神経への分化の制御に重要な役割を果たしていることが分かりました。また、これら遺伝子におけるRNAポリメラーゼIIのリクルートを解析した結果、エロンガンAは転写伸長活性のみならず、RNAポリメラーゼIIそのもののプロモーターへのリクルートもしくは転写開始複合体の安定性にも重要な役割を演じている可能性が示されました。

総括

近年、generalな転写に関わると考えられてきた因子の異常が複雑な遺伝性難治疾患や「がん」と関わることが徐々に報告され始めており、今後このような疾患の病因解明・診断そして治療など臨床への応用が期待されます。

謝辞

本研究は文部科学省科学研究費補助金および難治疾患共同研究拠点共同研究経費(共同研究者:高知大学医学部 麻生悌二郎教授)などの助成を受けて実施しました。

図1.エロンガンAノックダウンによってDOX刺激におけるp21, ATF3,
HSP70などのストレス応答遺伝子発現が抑制される。


図2.エロンガンAは転写伸長型(Ser2,Ser5リン酸化型)RNAポリメラーゼIIと共局在し、
DRB処理による転写伸長阻害で共局在は見られなくなる。

図3.エロンガンAはDOX刺激によってストレス応答遺伝子にリクルートされるが、
その分布は各遺伝子の3’側に強い傾向にある。


図4.エロンガンAノックアウトマウスでは神経系の形成に異常をきたし、
神経形成に必要な遺伝子の発現が低下している。